秘密結社のヒミツなオシゴト—リストラ中年の可能性—
私はもうだめだ。
リストラってなんだよ!
リスとトラが合体したのかよ!
リストラだよ!
ふ、ふふふ、フハハハハーッハハ!!
ハハハハははっ……。
リストラだよ。
嘘だよ。リスとトラだよ。
……生まれてほんとロクな事が無い。会社に入ってようやく普通の人生歩めると思ったんだが。私には無理だったよ。
そもそも人生うまくいかないのは生まれた家庭が悪かったからだ。いや、それでは親に申し訳ない。生まれてしまった自分が悪かっただけだ。入った会社もクソだった。退職金も出せない会社とかもう潰れろ!まあ、その代わりこのトラックをもらった。
なんかトラックにチラシが入ってる。
≪あなたが人間の中で、進化が進んでる人か遅れてる人かをお調べ致します≫
進化?何だこのふざけたチラシは。
≪お値段はたったの五十万円!≫
っていうか、高すぎー
更に、どの部位が優れているのかを的確にお教えするプランに、今回は思考をお調べするサービスをお付けしての特別価格でご提供致しております。
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劣等感に浸っているあなた。
実はあなたが人間の進化論から見れば最も優れた人物であるかもしれません。これが人生で最後の機会です。試してみては如何ですか?
ふーん、なるほど。
人間的には肥溜のようなやつでも、科学的に見たら進化した細胞を持っている可能性があると。一ヶ月間でタダなのか。どうせこのままやることも無いし、受けてみてもいいな。電話番号はこれか。
—ぷるるる
—ぷるるる
—ガチャ
「もしもし山下技研です」
「あのーチラシを見て電話したものですが」
「あー杉田さんですね。そろそろかかってくると思ってました」
「えっ?」
「話はこちらに来ていただいた時にでもお話しましょう。そこから技研までは車で二十五分です。地図を送信しますのでそれを見ながら来てください」
「拉致するのではないでしょうね」
「ハハッ!そんな事しませんよー。大丈夫大丈夫。じゃ、お待ちしてます」
—ガチャン
怪しすぎる。
怪しすぎるが暇な私には時間が余っていて丁度良いのも事実。拉致や監禁されたらそれまでの人生だったということで潔く死のう。
私の取り柄は潔さだ。間違いない!
「ようこそ山下技研へ」
この建物だったのか。デカイわりに何をしているのか不明と世間では評判が悪かった。どうやら評判はそのまま受け取って良さそうだ。
中に入ると、白衣を着た中年で身体がガリガリなおっさんが立っていた。先程電話した者だと伝えると「お待ちしていましたよー!」と甲高い上機嫌な声を張り上げて言われた。そしてそのまま建物の中に案内され、とある部屋に入った。
壁の一部はガラス張りになっていて、中の様子を外から監視できる作りになっている。俺はここでも外れを引いたのかもしれないと想像し始める。
「早速始めましょう。一ヶ月間試験体になるで宜しいですか?」
「はぁ。しかし具体的に何をするのか教えて下さい」
「ハハッ!ではとりあえずこの椅子に腰かけて、手もここにおいて下さい」
変な笑いだな。気持ち悪い。
—ガチャン。
「ん?…て、て、手錠!?おいやめろっ!」
「ハハハハッ! まあまあ落ち着いて落ち着いて。質問を何問かするだけですよ」
「嘘つけーっ!」
「では第一問。貴方は空を飛びたいですか?」
「何を言ってるんだ?言ってる意味がまるでわからん!」
「わかりましたよわかりました。とりあえず手錠は外します。おい、手錠はずせー!」
—ガチャ
「はいでは改めて。杉田さん。あなたは空を飛びたいですか?」
「はぁ…飛びたいよ。今すぐ飛びたい」
「じゃ第二問。杉田さん。あなたは空を飛べます。しかし10メートル飛ぶのには42.195キロメートル全力で走る体力が必要です。それでも飛びますか?」
「飛ぶ。死ななければ飛ぶ」
「第三問。杉田さん。あなたは空を一度だけ飛べます。いつ飛びますか?」
「わからないけど一年以内には飛ぶ」
「ふむふむ。よし質問は終了だ。そちらからの質問は…何をやるかだっだね。とりあえず今からは身体検査をしてもらう。その後一週間は研究室内で生活する。一日三食食べて本でも読んでれば終わりだ。後の日数はホテルに泊まってもらう。毎日違う事をして生活するんだ。何をするかはこっちで決める。例えばウォーキング、絵を描く。ドラムを叩く。サッカーをする。じゃんけんをする。物語を書く。ギターを弾く。陶器を作る。料理を作る。寝つづける。ボクシング、ダンシング、フェンシング、シング、仕事をする、買い物へ行く、ネットを見る、テレビを見る……」
「いや、もういいわかった」
「その時に常にデータを取ることで解析する。あ、ちなみに毎日血液検査はする」
「わかったよ」
「じゃ、手錠つけるね」
「結局つけるのか」
—ガチャン。
「さて、初めに身体検査をするのだが、その前にやる事がある。とりあえずこの帽子を被ってくれ」
「何だこの電気の椅子で死刑を執行するかのようなヘルメットは」
「まあまあ。被ったね?じゃ、最後に言い残した事はあるかい?」
「俺の名前は杉田じゃねぇ。石田だ」
「じゃーあスイッチポチ」
「えっ??ちょっ!どうわああああああ!!!!………」
「はい、看護婦さんこいつの体持ってってー」
三日後、意識を取り戻した。気を失っていた間に身体の隅々まで調べられたらしい。身体の至る所に印が付いている。
その日から一週間、研究所内で生活した。三食決まった時間に食べ、風呂に入る。後は自由行動だ。研究所には図書室があるので大概は本を読んで時間を潰した。具体的には池波正太郎の必殺仕事人シリーズを読破した。
あと、俺と同じ様に集まった人が十人ぐらいいるらしい。みんな死んだ様な目をしてる。
一週間が過ぎて、近くのホテルに住むようになった。その日からは比較的自由に行動して良いのだが、与えられた課題を最低二時間はやらなくてはならない。
今日はカラオケを一人で歌い続ける。
明日は映画を見る。
明後日はピアノを弾く。
ピアノなんて弾いたことなくてもお構いなし。譜面を渡されてひたすら練習する。
……。
——本当にこんなんで進化がどうとかわかるのか?
◆
今日で二十四日目。何はともあれ、この一ヶ月近くは働かないで過ごせた。こんな毎日を送ってるうちに、進化とかはどうでも良くなった。そんな二十四日目の出来事だった。
—ビー!ビー!!
—ビー!ビー!!
突然、大きなアラームが施設内に鳴り響いた。それと同時に放送が流れた。あいつの声だ。
『ぴんぽんぱんぽーん!! 皆さん、誠に残念なお知らせです! この施設は今日で廃棄します! なぜなら国にヤバイもんが色々バレたからでっす! じゃ、またいつか会う日までっ!アハッ!』
——クソがっ!
俺のことは投げっ放しかよ!
今までは何だったんだよ!
『ぴんぽんぱんぽーん! 言い忘れたました。この施設、あと10分で大爆発が起こるんで、早く逃げた方がいいですよ?あ、逃げるなら裏門から出てね。正面はもう燃やしたから』
—————————クソがーっ!!
ああ今は何も考える時間がない。とりあえずここに来る時に使ったトラックで逃げよう。けれど、駐車場に置いたはずのトラックがない。
あと3分で大爆発。残された手段は走ることだけだ。
あと2分。本気で裏門まで走り続けた。
あと1分。息が出来なくなるほど本気で走った。
あと45秒。転んだ。
あと42秒。立ちあがった。
あと30秒。施設内から出た。
あと10秒。裏門出口まであと300メートル
あと5,4,3,2,1……
施設は大爆発を起こした。私はまるでハリウッド映画のスタントマンのように飛び転げた。頭からは血が流れ、身体の至る所に擦り傷が出来た。
「ほんと、最悪だ……」
◆
あれから二ヶ月後、一人暮らしの部屋にもどってニート生活をしていた。すると、一通の封筒が届いた。あて先はクソからだった。
『研究によるあなたの細胞の進化診断結果 在中』
すぐに破りあけ、中身をみた。何十ページと診断結果が書かれた書類が入っていた。
≪あなたの結果は≫
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