タイムカプセル

 遠い昔の思い出を思い出そうとしても、ほとんどが朧げで。

 けれど、その記憶を追いかけてみると、不思議と目の前に現れて思い出される。

 昔の記憶はとても懐かしくて。

 懐かしいだけの想い出なはずなのに、何故か忘れたくない大切な想い出になっている。


 ——まなちゃん、そっちは水が深いからアブないよ!


「まみー、奥の方は水が深くなってるから行ったらだめよー」

「はーい」

 想い出はセピア色。なんて言ったりするけれど、私は色のついた世界を記憶してるみたいだった。

 確かに少し色褪せるのだけれど、その上からベタベタと油画のように塗り直される。そうすることで私の記憶は補完される。

 ただ、なんだか重要なものまで消してしまったような気がするのはなんでだろう。

「ママー」

「はーい。なーに?」

「いっしょにあそぼーよー」

「えー? ママ濡れたくないもん」

「ママー はやくー」

「……仕方ないなー」


 この川にはいるのも15年ぶり。

 —チャポン


 あ、


 タイムカプセル。


  ■


 私は小学六年生の頃にタイムカプセルというものを埋めた。 けれどそのタイムカプセルは、 どうやら十五年の間に川に流されてしまったらしい。

 川の近くに埋めたのがいけなかった。 多分大雨で水かさが増して、濁流が土を削って掘り起こしたのだろう。カプセルの中に何を入れたのか、思い返そうとしても全く何も思い出せない。もう一生思い出せないんだと思うし、少ししたらまたいつものようにカプセルの存在自体忘れてしまう。

 でもそれって結局、

「カプセルって……」


 タイムカプセルってなんのためにあるのだろう。将来の自分にメッセージを残すため?

 そうかもしれない。その時の私が今の私に対しての願望や質問を投げかけると思う。それを見た大人の私は懐かしく思う。昔の想いや記憶がフラッシュバックする気がする。当時私が見ていた景色と共に。

 少なくとも私のタイムカプセルには記憶の欠片が詰まっている。

 まあ、憶測なんだけれど。

 でももしそうならば、目の前の風景とタイムカプセルってあまり変わらない。

 次にそこを訪れた時は、当時の事を思い出して懐かしむ。色々な事を思い出す。

「ママー、そろそろ帰ろー」


 今日掘り起こしたタイムカプセルは、次の時までまた埋め戻される。誰かに掘り起こされない限り、私の記憶はそこにある。

 私のタイムカプセルは、至るところに散りばめてきた。それを掘り起こすために、私は故郷を旅行しに来たのだから。

「ねぇ、ママ、変なの拾った」

「えっ?」


 思い出は本当にひょんなとこから蘇る。

 その時の景色も。

 気持ちも。

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