形のないものを追い求めて

 夢を見つづけているんだと思う。家賃3万円。オンボロ風呂にトイレ共用。黄色くなった掛け布団の中にある冷めきった湯たんぽ。


 起床。まず、身体を起こしてちゃぶ台に向ける。茶碗を手に取り、炊飯器から保温された白飯を盛る。卵しか入っていない冷蔵庫から、卵を取り出す。割って卵白と黄身を分けて、黄身だけを白飯にかける。ガッと飯を口にかきこんで、粒一つ残さず食す。

 茶碗を流しに持っていき、蛇口をひねって水をかける。そのまま水を流しっぱなしにして、口を水に当ててコップを使わず飲む。口からはみ出た水を手で拭いて、再びちゃぶ台の前に座る。

 ただでさえ四畳半で狭い部屋の床は、無秩序に散らばった紙で埋め尽くされている。紙は、頭の中を文字にした有象無象がびっしりと敷き詰められ、その紙のうち、余白がまだ残っている一枚を台に置く。

 俺は鉛筆を持ち、お経を唱えるようにブツブツ言いながら、書き始める。


 前の仕事は辞め、今は自称小説家。たまにゴーストライターの仕事をもらう程度。

 もういい歳なのに何をしてるんだろう。いつもそう思っている。自分は何をしたいんだろう。そんな自問に自答できず、堂々巡り。

 けれどそれが文章になって少しずつ現れる。

 形のないものを追い求めて。

 夢はまだまだ続くらしい。

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