狂争
神谷ボコ
第1話「遂行」
相手が意識を失っているうちに、準備はすべて済ませた。
ビデオカメラを室内にセットし、「道具」も床に置いた。自分の服が汚れないように雨ガッパを服の上から羽織ってある。逆に相手——さきほどからそこに横たわっている少女の衣服は、一つ残らず脱がせた。
英治はパイプ椅子に腰を下ろして、床に寝たままの相手をしばらく眺めた。
身につけていたものを取り払われ、未発達の胸部だけが静かに波打っている少女は、今この世界に産み落とされたばかりの、完璧に無垢な存在のようにも見える。
英治は椅子から立ち上がった。床の畳の縁に膝をついて、前かがみに腕をのばし、少女の体に触れる。
襲われて意識を奪われたとは思えないほど穏やかなその顔の、彼の手のひらよりも狭い額に指を這わせ、目、鼻、頬、唇と、ゆっくり伝わせていく。指先に何の抵抗も感じさせない少女の肌触りは、まったく人工の、よく磨かれた工業製品か何かを思わせる。
一方でその、触れた指先から伝わってくるぬくみが、確かにこの少女がひとつの生命をもってここに息づいていることを証してもいた。
ほっそりした首のあたりまで来ると、今度は滑らせるように素早く指を胸まで下ろし、わずかに盛り上がった二つの突起に触れてみた。当然、相手は何の反応も見せない。
おれはやってみせる、絶対に。
彼は思った。だが、「競争」相手である仲間たちのことをもう意識してはいない。彼はただ、使命感にも似た、緊張をともなう強烈な悦びに満たされていた。
その悦びは、単なる思いつきでしかなかった当初の計画が、思いがけない偶然の連なりによって、考え得る最上の出来へと昇華されつつあるためにもたらされたわけではない。
彼が今感じている震えるような悦びは、神のように完璧に純真なるもの、との出会いによって生まれたのだ。
それは俗っぽい劣情などとは完全に異質の感覚だった。
おれは、やる。
汚れのない少女の顔を見つめながら、小さく息を吸い込むと、英治は片方の腕をすっと伸ばしてそこに置いておいた道具をつかんだ。もう一方の手を道具の柄に添え、頭上高く掲げる。そして真下に横たわる少女の胸部めがけて、思いきり振り下ろした。
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