第3話
「すんませーん」
弟の元に女性がやってきた。
街からさほど遠くはないが、山の上にあるため行くのは少々大変な弟の工房にやってくる人物は決まっている。
装備の依頼及び引取。そして──クレーム。
「はいはい、いらっしゃい」
弟は奥から少し面倒そうに出てきた。そして客を見る。
そこで首を傾げた。2人いる。
「あー、ごめーん。お兄さんの紹介なんだけどさ、2人いいかな?」
少しぼさぼさの長い金髪の女剣士が、軽い口調で言う。
その隣には術職らしきおかっぱ頭の和風少女がいる。
彼女が来ることは兄から聞かされていた。
いたずら好きな弟としては、あまり兄が関わる依頼は請けたくない。
真面目に装備を作っていてもつまらない。できるだけ相手を困らせたいのだ。
しかしこれはチャンスだ。1人は真面目に作るが、もう1人の方にいやがらせをすればいい。これでうさを晴らせる。
兄の女性の好みは知っている。大人しそうな黒髪少女だ。今度こそ失敗はしない。
別に兄がどうなろうと弟にとっては知ったことではない。だが理不尽な暴力を受けたくないのだ。
「ああ別にいいよ。んで、どんなものが入用だい?」
弟は2人がどのようなものを欲しているか詳しく尋ねた。
「ちょっと、これどういうことよ!」
金髪女剣士はたいそう憤慨していた。
その理由は彼女の周りを浮遊している小型ゴーレムのことである。
「ん? ああ、それな。けっこういい出来だろ。俺も予想以上の性能に驚いてるんだ」
「え!? あ、うん。能力は凄いよ。でも、でもね……」
「ちょっとこれ以上を求められると困るんだよなぁ。あまりクレームをいれるようなら、これ以上あなたからの依頼は請けたくないよ」
「いっ、いやいやいや! これは……うん、いいの。ありがとう……」
金髪女剣士は半泣きで弟の店を出た。
女剣士はそこそこ名の知れた2人組の片割れだった。
リアルでも友人である、先日共に訪れた補助術職と一緒に臨時パーティーを流れ渡るのが基本である。
補助術職はあまり数がいないから重宝される。しかし剣士は飽和気味で、パーティーとしてはあまり入れたくない。
近接戦闘ばかり集まると補助術職の負担は大きくなり、突然壊滅することもよくある。
剣士には遠距離攻撃を苦手としていた。
彼女はそれを補うものを弟に求めた。
結果作り出されたのが、半自動遠距離攻撃用ゴーレム『
命令をすれば止めるまでその動作を繰り返す。できる命令は主に3つ。
『唸れ』
周囲40mで、所有者及びパーティーをターゲットして襲い掛かろうとしているモンスターに対し、属性槍を発射させる。
事前にモンスターの種類と、それに対応した属性を入力しておけば自動で判別し、弱点になる属性を選択して攻撃をしてくれるという優れものだ。
『貫け』
魔力を帯びた槍が敵を貫通して発射される。
自動で最も効率がいい場所を選び攻撃してくれるので、打ち漏らす心配がない。
『2ヶ所攻め』
30秒だけの間、出射動が分身をしてモンスターを攻撃する。
連射速度があまりない投槍であるため、ディレイ中突然の死角から攻撃を受けたら危険だ。しかし2つあることでもうひとつがその間に攻撃し補うことができる。これである程度は安心して周囲を気にせず戦える。
それと勝手に発動しないように考慮され、命令には必ず名前を呼ぶようにしてある親切設計だ。
具体的には『唸れ、出射動』や『貫け出射動』という風にだ。
ただ音声入力に若干難を抱えており、大きめの声で言わなくてはいけない。
しかしそれは大した問題ではない。なにせこれにより彼女の戦闘効率は30%以上も増えたのだから。
彼女は臨時パーティー専門のプレイヤーたちからは『なげやりレズビアン』と呼ばれている。
「はぁ、面白かった。これだからヒマだおはやめらんねぇぜ」
普通のMMOなどでも、最強の武器はボスドロップであったりする。しかしヒマだおでは頭さえ使えばそれをも凌駕する武器は作れる。
生産職をやるにはとてもよい環境があった。
そして未だに弟の作る装備を超えるものは存在していない。彼の作ったものを持つことはステータスと化していた。
彼のいやがらせを考慮してもその恩恵は有り余るものであったからだ。
いやらしい笑いをしながら新しい装備を考察していると、突然緊急アラームが自らの身体に問題があることを告げた。
また兄が何かしている。弟は慌ててログアウトをする。
意識が覚醒し、股間が熱く湿っているのがわかった。
「あちちちち! な、なにすんだよ!」
弟は飛び上がり、手桶からお湯を股間にかける兄へ抗議した。
「なにすんだよはこっちの台詞だ! てめぇなにしてくれたんだ!」
兄はご立腹だ。弟には何のことかわからない。
「なにってなんだよ! 言ってくれなきゃわかんないだろ!」
「俺はお前に言ったよな。狙ってる女の子が行くからまともなもん作れって」
「つ、作ったじゃないか! どこに問題があるんだよ!」
「あぁん? ディ◯ドが問題ないとでも言うのかぁ?」
弟はすぐにわかった。だが理解できない点があった。
彼女はどう見ても兄の好みではなかったのだ。
「ふ、2人来ていて兄ちゃんの好みじゃない方に作ったんだよ!」
「あの子らはリアルだと容姿逆なんだよ!」
「し、しらねーよそんなこと! 先に説明しとけよ! てかリアルってなんだよ!」
「2人して行くと思ってなかったんだよ! んでこないだオフ会で会ったんだよ!」
突然の兄の言葉に、弟は愕然とした。
オフ会。それは男女がリアルでの出会いを求めてうっふんあっふんする場である。
当然弟も興味があった。『装備作って欲しかったら……わかってんだろ?』くらい言ってみたかったからだ。
「オフ会があったなんて俺聞いてないぞ!」
「お前誘って俺が喜ぶとでも思ったのか!?」
圧倒的理不尽の前に、弟の性格はどんどん歪んでいくばかりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます