見知らぬ駅で・2





 2人は再びホームに戻り、待合の椅子に座った。


 不意に、田んぼの方から、鈴の音が聞こえた。


 サンタさんがトナカイに乗って現れる時に鳴る、シャンシャンという音だ。



 気になって辺りを見回すと、駅の前を横切る舗装されていない田んぼ道の途中で1本街灯が立っており、その柱に隠れるようにしている人影が見えた。


 その影の姿ははっきりと見えないが、こちらを見ているという事だけは分かった。



 奈知は、珍しく怖がっているようで、悠々夏のひらひらした袖をぎゅっと掴んだ。



 更に、今度は、和太鼓のような音が聞こえてきた。


 音は、田んぼ道の先から聞こえてくるようだ。


 その音は、段々とこちらに近づいて来ているように感じる。



「なんか、ヤバくない?」


「うん……ヤバい、と思う」



 悠々夏は、スマホを手に取り、電話帳を開いた。

 そこには、ガーネットの電話番号が表示されている。


 少し癪に障るが、仕方ない。


 悠々夏はガーネットに電話をかけた。3コールでガーネットは出た。



「あんたから電話なんて珍しいわね、どうしたのよ?」


「あの、ちょっと変な駅に来ちゃったみたいで……」



 悠々夏は、これまでの経緯をガーネットに説明した。



「あんた、ホント持ってるわね。ちょっと待ってなさい、その方に詳しい奴連れて来るから。あ、電話は切っちゃダメよ」


「う、うん……」



 スマホの向こうで、何やらガサゴソと音が聞こえる。

 階段を上って、どこか別の場所に移動しているようだ。



「誰?」


「うーんと、バイト先の店長」



 奈知は不審な表情をした。


 こうなったら、もう奈知には隠せないな。



 暫くして、スマホから若い男性の声が聞こえてきた。



「もしもし」


「もしもし」


「いいかい、まず1階に降りて、改札口の前まで行くんだ」


「はい……」



 悠々夏と奈知は、言われた通りに1階に降りて改札口の前に立った。



「駅に置いてあった物を、何か拾ったりしてない?」


「してません」


「いいかい、今から迎えに行くから、絶対に駅から外に出ちゃいけないよ」


「はい、出ません」


「それから、太鼓の音が近づいて来てるらしいけど、そういうのはあまり見ない方がいい。僕達が着くまで、そこで動かずに目を瞑っているんだ」


「ずっとですか?」


「うん、こっちに帰って来たかったらね」



 こっちって……、今わたし達がいるここは一体何なんだ。



「分かりました」


「オッケー、じゃあすぐ行くから待ってて」



 そう言って、電話は切れた。


 悠々夏は、奈知の顔を見た。



「ここで、目を瞑って待ってろって」


「は、どういうこと?」



 仕方なく、悠々夏は目を瞑った。


 改札口の前で、手を握り合って待った。


 段々と、太鼓の音が近づいてくる。

 随分賑やかで、人の話す声が聞こえる。



「悠々夏、めっちゃ怖いんだけど」


「大丈夫、わたしもだから」



 暗闇の中聞こえる太鼓の音は段々と大きくなり、やがて駅の前まで来たようだった。


 改札口を隔てて、すぐそこに太鼓の音が聞こえる。


 近くにいるせいで人の話し声のようなものも聞き取れたが、それは人間の言葉ではなかった。



「悠々夏、そのバイト先の店長の事信じていいんだよね?」


「うん、っていうか、わたしを信じて。もしなにかあったら、スイパラ奢るから」


「なにかあったらスイパラ行けないって」



 奈知はそう言って笑ったが、声が震えていた。



 その時、太鼓の音をかき消すように爆音が聞こえてきた。



 車のマフラーの音だ。



 その音は段々近づき、そして悠々夏達のすぐ前で止まった。


 車のドアが開く音がする。



「悠々夏ちゃんだね」



「え、あ、はい」



 声の主は、先ほど電話で話した若い男のようだった。



「目を閉じたまま、車に乗って」



 そう言って声の主は、悠々夏の手を引いた。


 悠々夏たちは、目を瞑ったまま、車に乗せられた。



「気を付けてね」



 車は狭く、後部座席に乗るのに苦労した。


 ツードアの車のようだ。

 助手席には、誰かが乗っているようだ。


 悠々夏たちが乗るとその助手席の人も車に乗り込んだ。



「じゃあ、出すよ」



 そう言って、激しい排気音と共に車は動き出した。






「もう大丈夫、目を開けていいよ」



 暫く走った後そう言われて、2人はゆっくりと目を開けた。


 スポーツカーのような車内。

 運転席には長めの金髪でスーツ姿の男性と、助手席にはガーネットが座っていた。



「ガーネットさん!」


「大丈夫? ちゃんと更埴悠々夏だろうね」


「うん、たぶん……」



 そう言われると、自身がなくなってくるから怖い。



「ありがとうございました」



 悠々夏と奈知は後部座席でぺこっと頭を下げた。



「どういたしまして」


「悠々夏の友達かい? 大変だったねぇ」


「そうですね……」



 ホント珍しく、奈知は憔悴しきっていた。



「茜クンもありがとね、助かったよ」


「ガーネットさんの大切なお弟子さんだからね」



 そう言った男性の横顔を見て悠々夏は思った。



「あれ、どこかでお会いしましたか?」


「うん、一度、ガーネットさんのお店の前でね」


「あ……、あの時の」


「思い出した?」



 茜は振り返らずにハンドルを握ったまま言った。



「っていうか、あんたらその服何よ」



 ガーネットも振り向かずに言った。



「こ、これは……」



「素敵じゃない! 今度私にも貸して」











「ゆゆ、大丈夫だったのかい?」


「うん、心配かけてごめんね、お父さん」



 悠々夏たちが家のドアを開けると、お父さんは泣きそうな顔をしていた。


 警察に電話する1歩手前だったそうだ。




 悠々夏と奈知は、ロリ服を脱ぎ捨てると、下着姿のままベッドに倒れ込んだ。


 そして、2人で抱き合って寝た。





 もう暫く、電車には乗れないな。

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