塾の先生。

ぽちマルン

入塾

超有名な、東光塾。ここは大学排出率毎年トップ。さらに講師もエリートぞろい。そのため入塾テストも半端ない難易度。そして入塾後も地獄のような量の勉強量。

これを乗り越えられたものだけが大学入試戦争を勝ち抜ける。


そんな塾に来た私の前には今、先生がいる。ふわっとした優しそうな雰囲気を醸し出し、にっこりと微笑んでくる。


「は、初めまして。」

「はい。初めまして。僕はここの塾の講師の山田です。」


慣れた手つきで名刺を取り出され、目の前に出される。

そこには名前だけでなく先生のこれまでの経歴も記載されていた。


「あ、ここの塾の講師はみんなこの名刺を配られるんですよ。僕は恥ずかしいのでやめてほしいんですけど。」


いや、その言葉は謙遜以外の何物でもなかった。

そこには、いわゆるスーパーエリートといわれるような輝かしい経歴がずらっと。


「す、すご。」


思わず心の声が。

山田先生はニコッとしながら顔の前できれいな手を横に振った。


そして顔がすこししゃきっとすると、資料を机の上に置いた。


「では、この塾の詳細をお話ししますね。この塾では...」


やはり聞いていた通りいろいろすごかった。でも、私の将来のことを考えればこのくらいはがんばらねばと、心を奮い立たせた。


説明の最後に山田先生ははっといいことを思いついたような顔をした。


「授業を見学していきますか?君がよければ、ですけど。」

「いいんですか?」


思ってもみない話に目が輝いた。早速授業を体験できるなんて嬉しすぎる。

教室へ案内されて、一番後ろの席に案内された。


「僕の授業なので、聞きたいことがあれば途中で挙手していただければ答えます。ほかの生徒もそうなので。」


眩しいほどにニコッと笑う先生はさわやかに教壇に立った。


人格が変わったような変貌ぶりに驚いた。

さっきの若干ふわっとした雰囲気とは打って変わってびっくりするぐらい凛々しくなってる。言葉の語尾をさっきより少し強く重たいものになっていて、笑顔も知性を放っている。あまりの雰囲気の変わりぶりに驚いて周りを見渡すと、まさしく目がハートマークになっている生徒が半数以上を占めていて、はっと我に戻った。

あの見た目とギャップならわかりえないこともない。そして女子たちは次々に手を挙げていく。


「はい。伊藤さん。なんですか?」


挙手をした女子はすさまじく照れながらどうってことない質問を投げかけた。

なるほど、あの子は名前を呼んでほしかったのか。


「いい質問ですね。それは...」


こんな授業があの超有名な東光塾で行われていたなんて。これは確かに勉強を頑張るはずだ。頑張れば頑張るほど山田先生に認知してもらえるとなれば、是が非でもいい点数を取ろうとするのも納得。


「これで今日の授業を終わります。お疲れ様でした。」


先生が教壇を降りた瞬間、さっきのふわっとした笑顔が戻った。


「どうでした?授業はいつもこんな感じです。」

「山田先生!質問いいですか?」

「あ、はい。いいですよ。」


気が付けば先生の周りにはさっきの女子をはじめ、先生にメロメロになってる生徒が集まってきていた。


「ちょっと待っていてもらってもいいですか?」

「は、はい。大丈夫です。」

「すみません。」


先生は手を合わせて合掌のようにして、申し訳なさそうな顔をした。

本当のいい先生だなと思ったのもつかの間、先生は女子の波に押し流されていった。


結局先生の姿が再び見えるようになったのは20分後だった。


「すみません。いつもより質問が多くて。」

「あ、いえ。今日はありがとうございました。」

「どうでしたか?入塾を考えてくれましたか?」

「はい。最初から迷ってはいなかったので。」

「そうですか。それはよかった。」

「すみません。もうそろそろ帰らないといけなくて。」


山田先生はまた申し訳なさそうな顔をして。


「すみません。長い間待たせてしまうことになってしまって。」

「いえ、ありがとうございました。じゃあ、失礼します。」


先生はニコッと笑って、


「では、また。」

「は、はい。」


手をひらひらを振る先生の姿が脳にこびりついたのは、なんでだったんだろう。




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