#003 邂逅パターンのいろいろ

僕は声をかけられた瞬間に、四つのパターンを脳内に巡らせた。


こう見えてもネット小説はかなり読んでいるのだ。



その一、魔物に襲われるパターン。


ぐるるるーとか言って狼もしくはゴブリン的な魔物が襲い掛かってくるのだ。


主人公は命からがら逃げだして、何とか人里にたどり着くわけだ。


でも今回はそのパターンではないらしい。




その二、盗賊に襲われるパターン。


これはやばい。


前世で格闘技とかやってない限りは完全に死亡フラグの筆頭だ。


運が良ければ誰かが助けてくれるとか、殴ってみたら相手の頭が、『ぱっかーん』行くとかあるが、正直期待できないだろう。



その三、エルフのお姉さんパターン


一番来てほしいパターンだ。


でもなー。第一声の時点で声がもうおっさんだもの。


希望は薄い。


せめて、このおっさんが盗賊なら、そこにお姉さんが助けに来るパターンに期待を持てるが……。



僕は一縷の望みにかけて思い切って振り向く。


「こ、こんにちは……」


「お前、こんなところで何してる?」


おじさんてば、さっきも同じこと言ってたじゃないですかやだー。


厳ついおっさんだった。


盗賊の可能性十分。



「おい!聞いてるんか?」


「はい!聞いてます!」


僕は記憶喪失みたいで、


ここがどこかもよくわからず、


なんだかわからないうちに白い光に包まれ、


気付いたら森の中、


手に持っていたのはこの棒っきれだけで。


というようなことをしどろもどろにまくしたてた。


「そうか、そうか。大変ったんだな」


おっさんは目頭を押さえていた。


持ち物が棒っきれの件が一番琴線に触れたらしく、少しだけ神様に感謝した。



さて、このパターンは知っている。



その四、親切なおっさんパターンだ。


主人公が異世界に転生して右往左往していると、厳ついおっさんに声をかけられる。


それがとってもいいおっさんで、地元の有力者だったりして、かわいい娘さんがいて、美人の奥さんがいる。



おいおい、おっさん。


そんないかつい顔して美人の奥さんなんてやるなー。なんていいながら、しばらくお世話になるのだ。



出来れば、僕もそんな感じで行きたいが、出来るだろうか。


前世の記憶はほとんどないが、コミュ力が低かったことは覚えている。



なぜだ。




「それで、おっ……おじさん。人里に出たいんですけど、どっちに行ったら?」


「いや、お前さん武器もないんだろ?とりあえずついて来いや」



聞けばおっさんは、狩りのついでに森の奥の鉱山で鉱石を採掘していくらしい。



「あ、やっぱり鍛冶とかするんです?」


「おうよ!よくわかってんじゃねーか」


わからいでか。あんた見るからにドワーフじゃないか。



「やっぱりドワーフは鍛冶してなんぼですね」


「あん?ドワーフ?俺は『ドルフ』ってんだ。へんなあだ名は勘弁だぜ」


ふむ?ドワーフはいないらしい。


「あの、エルフさんって知り合いにいますか?」


「んー?聞かねえ名だな。知り合いか?」


「いえ、なんとなく浮かんだ名前だったので……」


まさかのエルフもいないだと!?


こんなところでテンプレートが崩れるなんて思いもしなかった!


いや、まだ希望を捨てるには早い。


知られてないだけで、隠れ里に住んでるパターンもあるはず。


異世界に来たからにはエルフに会うのと、猫耳もふもふだけは必ずやって見せる。



『ピコン』


「……メニュー」


「なんかいったか?……って何泣いてんだお前ぇ!?」


「なんでもありません。ありがとうドルフさん……」




【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□


居るぞ、エルフと猫耳もふもふ獣人。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



ドルフさんが、「いいってことよ」とかいいながら頬を染めているが、知ったことではない。


この世界に来たことが、初めて報われた瞬間だった。

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