ポスト・PZL

星明り・星影の魔法使い達。

「寂しくねえのか」

黒衣の魔術師、ルートは頬杖をついたまま、本に目を落とすアキに問いかけた。

「何が」

アキは目をあげない。

「一人で本なんか読んで、退屈なんじゃないのかって聞いたんだ。親愛なる魔法使い様」

ルートは顔をあげ、黒い袖をぷらぷらさせた。袖口の奥で硬質な白い肌がこすれ合って、かちかちと音を立てた。

「壊すなよ」

「当然」



「これからどうするつもりだ。何もせずに過ごすのももう限界だろ」

「私は巫女を取り戻しに行く」

ルートの金色の目が瞬かれた。

「ひとりで?」

本が乱暴に閉じられる。アキは、見ろとだけ言ってトランクを取り出した。

「死体か」

魔法使いは一動作で否定した。

「レイだ」

トランクの中からはばらばらの手足が出てきた。魔法使いはなおも繰り返した。

「レイだ」



魔法使いはシリアスだ。

「元のように直す気か」

取り出した腕に手を這わせ、アキは白い肌をなぞった。ルートは不快そうに目を細めた。

「どうとでもしてみせる」

アキは彼へ目を向けず、そろえた指先に口づけを落とす。

「正気か」

金色の目同士がかち合った。

「いうまでもない」



無論、魔法使いは正気ではない。巫女を追うことを運命づけられた人間がまともでいられる道理はない。理不尽に晒され続ける魔法使いの精神構造はとっくの昔に常人のそれとは一致しなくなっている。それでも追い続けてしまうのは巫女の持つ羽のせいだろう。その羽を目にした誰もが、巫女を追わずにはいられない。楽園の双璧たる魔法使いでさえもその呪縛からは逃れられない。



「私はフロウとレイを取り戻す」

ぎらぎらと光る金の目。魔法使いが怒っていた。

「それで? 俺はまたお役御免か?」

「そうだ」

「殊勝なこったな、死ぬなよ」

黒衣の魔術師は肩をすくめ、嘲るように言った。ふと、二人の間を沈黙が支配する。ルートは訝しみ、目をあげた。

「……そのときのためにお前がいるんだ」

悲哀にゆがめられた、自分と寸分たがわぬ顔がこちらを見ていた。ぱちりと視線が合って、ルートは顔を逸らす。

「よしてくれ、俺は……あんたのコピーだ」

「寸分違わぬコピーに、複製元との差異はあると思うか」

影は言葉に詰まる。指を突き付け、星空は己の影と対峙した。

「わかってるんだろ、おまえは私と同じなんだ。必ず戻る。私はすべてを取り返す」

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