第3話青春入門その3

「というわけなんだ」

 話を終えたところでヤマトが口を挿む。

「この一月お前が心ここに在らずとまでは言わんがボーっとしてることが多かったのはそいうことだったのか」

「自分のこの気持ちがなんなのかわからなかったってのはある。自覚したのも最近だしな。人に感づかれるまでとは思ってなかったが」

 俺が表情に出やすいのかそれともヤマトがただ鋭いだけなのかわからなかった。

「俺は全然気づかなかったぜ!」

 それは知ってる。そしてなぜ恰好つけて言う。

「でもよお。普通逆だよな」

 シンの呟きにヤマトが反応する。

「何がだよ」

「何がってポジションが。タダクニが助ける→先輩を介抱→素敵! こうだろ。王道的に」

「まあそこは人によるとしか言えないだろう。一つ言えるのはタダクニきゅんは女の優しさに免疫がないチョロインタイプだったってことだ」

 二人の言わんとすることもわかる。それに俺は多分チョロい。ただなんだろうこの胸の高鳴りは。恋ではないんだろうな。

「話を聞いている限りお前は恋愛というものをしたことがないんじゃないか? 反応が思春期男子特有の野獣感溢れるものではない。むしろ乙女だ」

 え、なんでこんな分析されてんの俺。恥ずかしいとかのレベルじゃねえよ。

「だからこそあえて言わせてもらおう。相手は手強い。何せ同学年という接点も利用できなければ四天王の一角だ。ライバルも多い。残っているのは保健室の思い出だけ。間違いなく負け戦だ。今ならまだ一時の気の迷いでも済ませられる。それでもやるかい?」

 そういやあったね四天王。保健室の思い出ってのはなんか卑猥だからやめろ。

「確かにな」

 しかし筋は通っている。勝ち目は薄いと自分でも理解している。あんな美人放っておく方がおかしいんだ。もう既に相手が居たって驚くこともない。

「だけど俺は初めて感じたこの気持ちを捨てたくないと思っているんだ。アホだよな。恥を忍んで言う。お前ら、協力してくれないか」

 ただ初恋を何もしないまま終わらせたくもなかった。だからこそこいつらに相談したんだ。

「その言葉が聞きたかった」

 ヤマトが眼鏡を中指で持ち上げながら言う。

「負け戦こそ面白いのよ」

 シンもノリノリだった。多分こいつはあまり事の内容を理解してない。

「お前ら……。最高だぜ」

 感謝の言葉しかない。恋愛新兵ニュービーの俺にはこいつらだけで数千の味方のようにも感じられる。

「よっしゃあ! そうと決まったら早速作戦会議と洒落込もうじゃねえか」

 ヤマトがそう叫んだ瞬間後ろからしゃがれた声が聞こえてきた。

「あんたたち青春も良いけど勉強もしなよ」

 振り向くと後ろに立っていたのは食堂のおばちゃんだった。なんだ今良いところなのに。母ちゃんかよ。

「おばちゃん水差すなよなー」

 シンがおばちゃんに悪態をつく。

「そんなこと言ったってねえ」

 おばちゃんは俺たちに何かいいたげだった。

「なんだよおばちゃん。用があるなら早くしてくれ。こっちも第三次恋愛大戦をひのきの棒で勝つために必死なんだぜ?」

 ヤマトも痺れを切らした様に言葉をぶつける

「じゃあ言うけど」

おばちゃんはため息混じりに絶望的な一言を発してきた。

「もうお昼休み終わったからさっさと器寄越しな」

 お昼休みはとうに終わり、5限目が始まってから10分過ぎようとしていた。言い訳どうしよう。

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