かつかつ山
「村にいたずらばかりするタヌキが出るというので、わたくし、老将、
「一つ向こうの山で見たものがいるというぞ」
「そうか、出撃だ。猿将軍、犬将軍、雉将軍。突撃じゃ!」
桃将軍たちと村人は向こうの山へタヌキ退治に出かけます。いや、ただ一人、居残っているものがいます。最前、桃将軍に「一つ向こうの山でタヌキを見たものがいると」言上したものです。そのものは鼻の下を掻くとぴょんとバック転をしました。タヌキでした。タヌキがタヌキの居場所を教えたのです。嘘に決まっています。今頃、タヌキの仕掛けた罠で、桃将軍たちは苦しめられているでしょう。
タヌキは
「ああ、大人様良いところにいらっしゃいました。間もなく我が殿がタヌキを捕まえてきます。あたくしはそれで、タヌキ汁を作ります。どうぞ食べていってくださいな。味付けは味噌、醤油、塩、豚骨とございます」
「それは旨そうだ。ところで火加減が悪いようだが?」
タヌキの化けた大人が言いますと、奥方が鍋を覗き込みます。その瞬間。
「ダアー!」
とタヌキの化けた大人がそこらへんにあった丸太の棒で、奥方の頭を強打します。哀れ奥方はタヌキ汁用の熱湯に落ちて死にました。「聞いてないよう〜」という断末魔の叫びが聞こえたそうです。タヌキは菜箸で奥方の着物を取り出し、近所のコインランドリーで乾かして、自分で着ました。奥方に化けたのです。
なんの収穫もないまま桃将軍は帰ってきました。
「とんでもないデマだったぞい。梅、今帰ったぞ」
「あなたおかえりなさい。温かいタヌキ汁ができております」
「なにっ! タヌキ汁とな。そのタヌキはどこぞのものよ?」
「あたくしに乱暴を働いてきたので、この丸太で思いっきり打ち据えたら死にました」
「確かに、血が付いている。よくやったぞ、お梅」
「さあ食べましょう」
奥方に化けたタヌキは老奥方の肉をとろけるまで茹でて、味噌と砂糖を加えただけのシンプルなタヌキ汁ならぬババア汁を桃将軍に差し出しました。
一口すする桃将軍。
「美味い、もう一杯」
「はい」
タヌキの老奥方はせっせとネギを継ぎ足したりしています。
「お梅、この肉は美味すぎる。タヌキの肉ではないな」
桃将軍が鋭い眼光でタヌキの化けた老奥方を睨みます。恐れをなした、タヌキは、
「♪お梅様は将軍の腹の中♪」
と歌って、消え去ろうとしました。それを桃将軍が、
「待て、話がある。」
と引き止めました。
「なんでしょう?」
「老婆の肉がこれほど美味いと思わなかった。一緒に食用の老婆を養殖しないか」
「なんという、開明的なお考え。タヌキ、感服つかまつった」
タヌキは平伏し、桃将軍に忠誠を誓いました。
『それ以来本朝では「タヌキ汁」「桃汁」と言えば養殖された老婆の肉と決まっておる。さあ遠慮なくお食べください』
通詞の話を聞いてペリー提督は、
「この国は未開の国じゃ、とても交渉などできぬ」
と言って、とっとと本国へ帰って行きました。他国もそうです。
だから平成の世になっても日本は鎖国しているのです。
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