第5話 獣二人
「わからないか、大のために小を切り捨てるのも聖騎士の務めということが」
聖騎士としての責務、自身の信じた正義から眉間にしわを寄せるジョー。聖騎士としての理想、自身の信じた正義から叫びをあげるアラン。
「そんな救いクソ喰らえだ。どんな者も見捨てない。あの日みた騎士みたいに、すべてを救う。それが俺の騎士道だ!!」
二人はどこまでも平行線だった。混じり合わない水と油のように反発しあう聖騎士達。
「夢は夢のまま消えろ。夢想家が!!」
「夢はもう叶っている!!」
黄昏色の空中で激突する二体。中世の騎士を彷彿とさせるデュランダルと鎧武者を連想させるドゥルガー。巨大な両刃剣を操るデュランダルに対してドゥルガーは太刀を繰り出してその攻撃を何とか受け止める。二体は互いに激しく実体剣を交えながら、街の中から郊外へ移動しつつ戦闘を繰り広げた。街に設置された対空火器が発動し火せんが夜空に橋を架ける。技量によってドゥルガーを大きく引き離すデュランダルだが、ドゥルガーはその機体性能によって喰らい付いていく。巻きあがる旋風に軋みを上げる建物、スラスターが噴く気炎が暗闇を照らしだす。夜空を切り裂いて飛び去った二つの流星は郊外の荒野へクレーターを作って着弾する。その時点でドゥルガーの装甲はいたるところに傷を受けていた。しかし、その傷も淡く発光すると徐々に修復されていく。
「ここならば!」
「全力が出せる!」
獰猛な顔で笑いあう二体の聖騎士。牙をむいた獣たちはその本性をさらけ出す。先に仕掛けたのはやはり白騎士だった。巨大な両刃剣を大きく振りかぶると一息で間合いを踏破する。
(光学変性、蹂躙軌道)
「フラッシュ・シフト」
機体を閃光と化して斬り付けるデュランダル。魔法によって音速に迫る速度をたたき出したデュランダルによって翻弄されるドゥルガー。圧倒的な速度によって大きく装甲を削られていく。閃光が夜空に火花を散らし、踏み込みが大地にクレーターを作りだす。しかし、装甲の奥でジョーは歯噛みしていた。ドゥルガーの装甲が余りに堅く攻撃が通らないのだ。
(この機体、装甲の強度が尋常じゃない!)
「早すぎて動きが目で追えない!これが聖騎士の力!」
しかし、次第にドゥルガーはその攻撃の芯を回避するようになる。徐々に順応し始めたアランの眼はデュランダルの初動を捉え始めていたのだ。その成長速度に驚愕するジョー。
「この局面で、成長するだと!」
「お前のことはよく知ってるんだよ。TVショーに出すぎたな男前!」
聖騎士を志すアランは、ある程度の聖騎士をその戦闘方から癖まで完璧に把握していた。日ごろの聖騎士への執念がここにきて実を結んだのだ。このままではいづれ追いつかれる。そのことに気づいたジョーは戦法を変えることを選んだ。
「ならば、よけられない攻撃をするまでだ!」
実体剣に源泉が収束し輝きを放つ。夜空を、冷気を焼き絶つレーザーブレード。
(散弾生成、斬撃付与)
「スプレッド・セイバー」
次の間にはドゥルガーへ向け光が炸裂していた。デュランダルの剣線に合わせて生成されたレーザーブレードが実体剣が動くのに合わせて振るわれたのだ。それは空気を焼き飛来する剣撃の壁。剣の間合いにあっては回避不能な面制圧。
「くぉの、範囲が広すぎる!」
広範囲の斬撃に被弾し、その強靭な装甲を抉られるドゥルガー。機体の大雑把な動きは思考制御で。そのほかの細かな動作はカーリーの補助によって補っている。しかし聖騎士として機人に搭乗したばかりのアランとジョーの間には、圧倒的な隔たりがあった。それは長時間の訓練と実践によって培われた戦闘経験。
(抉り抜け、漆黒の手)
「バイト!」
純白の連撃を苦し紛れに手のひらから空間を穿つ球体を展開し迎撃する黒武者。両者がぶつかった場所を起点に空気が爆ぜ、一時的に互いの動きが止まる。そこに隙ができる。
「砕け散れ!」
極限の切り替えし、一つに束ね振るわれた光剣は胸部装甲を穿ちドゥルガーのコックピットを大気へ露出させる。衝撃と飛び散った破片によって負傷するアラン。それでもなおドゥルガーはその起動を維持する。
「ぐうぅううがあああああああ!!」
(アラン!再生させるからもうちょっとだけ頑張って!!)
大きく吹き飛ばされるドゥルガーその手足には散弾として生成された光の剣が突き刺さり動きを大きく阻害している。はりつけにされたその姿は処刑を待つ罪人のようにも見えて――。
「お――――
――――――――わるかぁ!」
それでもなお奮い立つドゥルガー。機体に突き立つ光剣を勢いに任せて砕くとスラスターに爆炎をともしてデュランダルへと斬りかかる。もつれ合うように飛行し、山を削り、川を割り、周囲にクレーターを発生させる二体の聖騎士。白熱する戦いに、叫ぶように告げる調律者。
(私を使って!ジョー!!)
大気中の源泉を急激に吸い上げるデュランダル。それは決着のための前動作。ここで殺すという確殺の意志。聖騎士の必殺技その名を冠する大魔法の予備動作――。
(あなたに!力を!)
「【ローラン・デュランダル/不滅の聖光】」
白騎士デュランダルが持つ両手剣に、源泉が高圧縮され極太の光剣を形作る。大気を焦がす雷光を伴って振るわれる絶対死の一撃。余波を受けた大地はガラス状に変質しさかまく風は吸い込むだけでアランの肺を焼く。天まで切り裂かんとする長大な光剣が振り下ろされる。
「う、おおおおおぉ!」
それを回避できたのは偶然だった。光剣によって傷ついた片足が突如として力を失い崩されるバランス。極太の裂剣はドゥルガーの片手を断ち切り大地とその後に続く山脈を穿つ。空中に放り出された腕を無視し崩れた体制のままにデュランダルへと踏み込むドゥルガー。
「何!」
「負けられない!俺はカーリーの聖騎士だああああああ!!」
(リーを使って!アラン!!)
ドゥルガーの残った片腕が唸りを上げる。それは光剣の余波すら吸い込みその拳を震わせる。
(飲み込む!全てを!!)
「【カーリー・ドゥルガー/遍く集う星光】」
黒武者ドゥルガーの片腕に漆黒の銀河が発生し周囲の空間をゆがませて光さえも飲み込んでいく。とっさに体勢を変えたデュランダルはドゥルガーの攻撃軌道上にその大剣を割り込ませる。減衰した光の剛剣と闇色の極拳がぶつかり合い、大気が爆ぜ視界は粉塵に埋め尽くされた。光剣の余波によって地面にはガラス状のクレーターが地割れ状に発生し、闇拳の影響で激突地点に向けて恐ろしい速さで空気がなだれ込む。轟いた音さえも飲み込んで周囲を破壊する二機の大魔法。永遠に続くとさえ思えた衝撃が晴れたのち、立っていたのは……。
満身創痍のドゥルガーだった。それは白騎士の右腕をその剣ごとえぐり取っていた。
「これが俺の騎士道だぁ!!」
肩で息を切りながら宣言する血まみれのアラン……しかし。
(アラン……)
「……囲まれてるな」
事実、彼らは包囲されていた。今まさにその損傷を光と共に再生させつつあるドゥルガーを中心点に大小さまざまな機人が姿を見せ始める。それは州軍、NYに拠点を置く一大戦力。全員が聖騎士で構成された戦闘単位。襲い来る怪獣から街を守護するために組織されたエキスパートたち。
「話があります、カーリーの聖騎士よ」
ドゥルガーを囲む機人の中、一際大きな源泉を放つ黄金色の機人が声をかけてくる。輝くランスと盾をもち、アーメットの隙間から鋭い眼光を飛ばす聖騎士。
「あなたは最後、ローランの聖騎士を殺さなかった。なぜですか?」
「すべてを救うとそう言った」
「き、さま、まさか!」
傷つき片膝をついた状態でうなり声を上げるデュランダル。
「黙っていなさい(最初から殺す気がなかったと)。わかりました。あなた達に提案があります」
「なんですか?」
「正式に聖騎士になる気はありませんか?」
そう提案する黄金の聖騎士はどこか微笑んでいる風でもあった。
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