6章 2話
『どうせなら、二手に分かれた方が効率はいいと思うな』
その意見には頷いたものの、女の子二人で組ませるのはどうだろうか、けどすぐに周りが見えなくなる俺がアイリと組むのでは、もっと危険が増すんじゃないか…と、最後まで分担には頭を悩ませた。
結局力の相性を考えると、鋭利な剣を持ち、機動力のあるカエを補うようアイリが後方につき、いささか頼りない俺のサポートにマサトがつく形に落ち着いた。
「リーダー、本日のアドバイスは?」
マサトと俺に対し背を向ける形で立ったカエが、おどけた調子で呼びかけた。
「押すのはそれぞれの判断。けど、危ないと思ったら合流して、体制を立て直すこと!」
腰のベルト穴に差し込んだだけの両峰の剣を抜きながら答える。
「特にアイリ、絶対に無理はするな」
「はあい」
鼻の頭に皺を寄せてくしゃくしゃにした顔で笑いながら、アイリはカエの背中に歩み寄り、楯を胸の前に抱えた。
「何にせよ、すべて倒せなかったとしても日暮れまで逃げきれば俺たちの勝ちだ!」
その言葉があまりにも情けなく感じられたのだろう、傍らにいたマサトが唖然とした顔で見てきた。
「カエはオレの物騒さを責めるより、ヒロキの消極的すぎる考えの方を改めさせるべきだと思うけどな」
「俺のは消極じゃなく、積極的な尻ごみだから」
さらりと応じれば、腑に落ちない表情を浮かべている。
「まったく自慢になんねぇ。…けどまあ、そういうのもヒロキらしいか」
忍び笑いを漏らしながら音もなく腕を振るマサトの杖から、盛大な風が巻き起こるのを皮切りに、二日目の戦いが始まった。
集中的に『影』たちの歩みだけを止める風。
間断なく、そして迷いない攻めに徹した流れは、俺たちが圧倒的有利に展開していた。
「これで空でも飛べれば最高なんだけどな」
自在に風を操るマサトは、傍で見ていても本当に楽しそうだった。
「いいなぁ…俺、全然そんな境地にならないよ」
「それはお前の修行不足だ」
俺も戦いを続けるうちに、マサトのように清々しい気分を味わえるようになるのだろうか。
疲れを感じないのが幸いとは思うけれど、やっぱり相変わらず両峰の剣は重くて、皆のように軽々と動くなんて何万光年も先のことに思える。
「正直、魔法よりも打撃専門バカの攻撃の方が有効ってのは、
俺は正面におろしていた剣を、
「おお!」
空気でも断ち切ったかのように、すんなりと宙に散る『影』。思わず喜びの声を上げて後悔した。
「珍しくいい感じじゃないか」
満足げに一人頷く様子が、背を向けていても口調から伝わってくる。
ありがたいはずの助言もその一言で台無しだ。
「お前なあ」
抗議しようと振り向いた俺の頬を、黒い腕が掠めた。
目の前を一条の風が通り過ぎ、宙に拡散する『影』を視界の端で確認した俺は、マサトへの文句を感謝にすり替えた。
「…ああうん、助かったよ」
「実働部隊、頼りにしてるぜ」
笑いを
「こういう時、しっかりしろとか言わないわけ?」
「フォローできる程度のことなら気にしないし。緊張感なんてないぐらいでちょうどいいだろ。リラックスリラックス!」
「気にしないって、結構落ち込む言葉だよな…」
「まあ、誰しも得手不得手はあるって」
少なくとも、不得手を見つけられていない奴に言われたところで報われない。
腕を組んだ姿勢で、ふんぞり返って戦局を相対的に眺められるマサトの余裕が本心から恨めしい。いや、羨ましい。
「タブレットも筆も剣より弱し、かあ」
ぼやきを返せば、声を上げて笑い出した。
伸び伸びと振る舞いながらも、マサトの神経は常に外向きに張られていて、繰り出されるものがいちいち的確なところを突くのだから…本当に立つ瀬がない。
俺は不器用なんだと諦めて辺りをなぎ払うことに専念しつつも、向こうで
「あっちも余裕そうだな」
あーあ、本当に嫌味な奴だよ。
なにもわざわざ「も」だけ強調しなくたっていいだろうが。
マサトの声が届いたかのように、まとめて数体の『影』に斬りつけている最中に、視線を合わせてきたカエが小さく笑うと、楯を抱えたアイリまでもがにこにこ顔で俺たちに手を振った。
未だひとつひとつのリアクションが大振りな俺とは違い、皆落ち着いた雰囲気には風格を感じる。
対する俺は、なぎ払うと言えば格好もいいけれど…棒きれをチャンバラごっこで振りまわす子どもとなんら変わらない、相変わらずのへっぴり腰。
…けど、ひとつだけ言わせてもらえば。
それって当たり前だよな?
カエにもマサトにもアイリにも、一体どう育てばそんな風に腹が据わるのだろうと驚かされてばかりだけど、これほどのスーパーガキんちょどころか、スーパーな大人にもまとめて出会ったことなんて、俺の人生今まで一度もなかったぞ。
こんなのが標準と言うなら、グローバル化だのなんだのって騒がなくても、日本人は世界のどこにでも討って出て行ってるよな、既に。
俺は自分が逞しいなんてかけらも思わないし、かと言ってできないのが何だと居直れるほど強くもない。ごくごく普通で特徴もないけれど、むしろそれが標準なんじゃないかと思う。
…なんて。
「考えてたら空しくなったな」
口にすれば、事情のわからないマサトは怪訝そうな顔を向ける。
「お前、大丈夫か?」
まあ、生来の打たれ強さとあまりの能力の違いに、落ち込むにも至らないのは幸運か。
まだ二日目だというのに、既に皆それぞれに自分の力を生かしているのを横目で見ながら、俺は深いため息をついた。
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