第4話 海にて
全身を海水が侵食してくる。ナトリウムの浸透に僕の人工皮膚はかろうじて耐えてくれているが、皮膚の隙間を見つけては油断なく入り込んでくる。
僕の眼は母娘の位置をロックオンしたままだったので即座に位置を掴んだ。
この辺りの海底は急にえぐり込むように深くなっている。道理で遠泳が禁止されているわけだ。
母娘は初めは抗っていたが、見る見る力がなくなってきている。
僕は早急に海上に運び上げるため、海底に足を踏み込んだ。が、その場所がズブリと足首までのめり込んだ。
鉄は水に浮かない。
人間なら海中でも浮くだろうが、
人工頭脳で海水が乱してくるノイズに負けないよう計算をし続け、目標の結果を算出した。
僕は自らの腹部に手を突っ込み、サーモスタット関連の部品を掴み出した。こうして身体から救出に最低限必要なパーツのみを残し、自身の身体を軽くすることにした。また同時に比重が海水より軽いパーツを残すことで海水中の移動を軽快にする。
結果、ほとんど外格はなくなり、内格のシャフトやギアが剥き出しになった姿になった。それでもこれならぎりぎり母娘を持ち上げられるはず。
ちょうどいい。親子が海面近くにいる。あそこなら軽く持ち上げるだけで、助けられる。
音声を出せないのにで無言で救出することになるが、危急のことだ仕方あるまい。
そっと持ち上げようとした瞬間、僕の顔を見てぎょっとした母親が顔を冷え切った顔をさらに紫色に染め上げ、娘を抱きしめた。
「やだ! やめて! 娘には……!」
そう叫ぶなり、暴れ出した。僕を怪物かなにかと間違えたらしい。それにしても大した体力だ。
もうこっちだってこの場所なら楽な位置だ。両手でむりやり、母娘を掲げるように海面上に持ち上げる。それだけでは深度のせいで上がり切らないから、あらかじめ股関節を緩めておいた右脚を左足の先に着け足し、あとは全関節をロックすれば良い。水流こそ激しいが波は高くない。あとはこうしているだけで誰かが助けてくれるだろう。
ぱ……ち、んん……!……!!
どうやら身体に限界が来たらしい。
無理をするつもりはなかったが、そうそう思い通りにはいかないものだ。
……無音……
音がなくなったか。ないとなるとさびしいものだ。
さびしい? それはどこで覚えた言葉だったか。
元に戻ったらお父さんに聞いてみよう。
ああ、そうだ。この島の博士がいっていた。
僕の名前の”天馬”って父さんが僕をすごく愛している証拠だって。
そうなのかな? そんな気がするけど、違う気もする。
あ。
やっぱり……この期に及んでも、
僕はお父さんも博士も島のみんなも<好き>じゃない。
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