惑星とマグマ

彼とは長い付き合いだ、だけど気が合わないのは変わらない。


価値観の違いをいえば、"月とすっぽん"、いやそんなに可愛いものではない。

遥か彼方宇宙の遠い惑星と、地中深くのマグマの塊くらいかけ離れている。


「あっりえない!」

「あまり騒ぐな、酔ってるのか?」


無論、かっかとしているあたしがマグマなわけだけど。

それでいうなら奴は宇宙人だ。


「なんでわっかんないかなー、なんでかな!?

男だから?なんとなく納得出来なくもないよ?」

「男女云々を言ってるんじゃないんだぞ俺は」

「あーーーそうですか!

ああ言えばこう言う!この堅物!!」


事の発端は、ニュース番組のブライダル業界の特集だ。

最近では和婚が流行りだそうで、その流行の先駆けとなった大物女優の花嫁衣裳が話題とされていた。

「お洒落だなぁ」そう呟いたのがいけなかった。

「あんなのは和装とは言わない」が論争の引き金を引いたのだった。


言い争い(議論?)に疲れたのか、彼は何も言い返さずに素麺を啜っている。

あたしはすっかりぬるくなった梅酒を呷って眉をひそめた。


「なんで黙るの」

「これ以上持論を展開しても仕方ないだろ、特に意味もない」


そう言って彼は箸であたしの分の素麺を指した、食えということらしい。

あたしはもう一度グラスに口をつけた。


いつもより、酔いが回っているのかもしれない。


「孝也はさ、女心がわかってないだけなんだよね」



疑問とも嫌味とも取れるそれに彼は何も言わずに素麺を啜り続けた。


あたしはちょっと悲しくなった。


ようやく素麺に手をつけた、もうのびきっていた。

時代遅れのアナログテレビから聞こえてくる陽気な音声が少し可笑しかった。


梅酒のお代わりを、と思った時だった。

テレビの音声は彼によって消されていた。


彼がじっとあたしの目を見つめた。

逸らす理由が見つからないので、黙っていた。

逸らしてはいけない気がした。


「俺は和婚派だ。厳粛な神社で式を挙げると決めている。

勿論、お前にも白無垢を着せる」


梅酒を買ってきてやる、と彼は立ち上がった。


「それってプロポーズのつもり?」

玄関先で立ち止まった彼は頭を掻いて、そのまま家を出た。


少しして、素麺を啜った。

テーブルの上を見て笑ってしまった。


価値観の合わない彼だけど、

それで不安を感じることはないかもしれないと思った。


あたしは彼が忘れていった財布を片手に家を出た。


孝也は宇宙人だから遠い惑星で結婚しようね、とからかってやるためにだ。

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短編集 小梅しいな @shiina_u021

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