短編集
小梅しいな
リズム
「やだ、今日の天気予報大ハズレじゃない!!」
親友の玲の視線の先には、窓の向こうで勢いを増す雨。
周りの生徒達も不愉快な表情で空を見上げる。
「結花、傘持ってる?」
「ううん、持ってない」
「だよねーー。完全にやられた」
「うん、濡れて帰るしかな____」
「結花っち、これ使っていいよ」
「…げ、水瀬」
私たちの会話に割り込んできたこの男、私が要注意人物と認識している軽薄なクラスメイト。
「あ、もしかして俺と相合傘がよかったかな?」
「冗談はそのワカメみたいな髪の毛だけにしてください」
「これパーマって言うんだよ、普通はね」
「学校に来る髪型としては相応しくありません!」
「真面目だね。結花っちもちょっとはいじればいいのに」
そう言って、私の髪を弄ぶ水瀬。
「ちょっと、触らないでください!」
「いーじゃん、ヘンなことはしてないんだからさ」
「そういう問題じゃありません!」
「…あ、はっけーん。結花っちってほんとはすっごいくせ毛でしょ?」
「!!」
「やっぱり。ここ、うねってなってるから」
小さい頃、ひどいくせ毛でからかわれたことがある私にとってそれはコンプレックス。
それなのに、土足で踏み込むこの男。
本当に軽薄極まりない、最低。
「煩いです、放っておいてください」
「無理してストレートにしてるでしょ?梅雨は湿気ひどいしすぐ取れちゃうよ」
「余計なお世話です!私をからかって遊ぶのはやめてください、笑えません、いくらなんでも軽薄すぎますひどいです」
「? 結花っち?」
「もう帰ろう」
「え、どうしちゃったの結花?」
痛い、古傷が痛むってこういうことなのかな。
他人にとっては些細かもしれないけど、私にとってはすごく大きな____。
「髪!ゆるくパーマかけてみたらどう? 結花っち顔が綺麗だから似合うと思う!!」
水瀬が叫んだ。
反射的に、足を止めてしまった。
「ストレートにするより楽っしょ?垢抜けると思うし……ほら」
水瀬が私の黒縁の眼鏡を奪い、
「結花っち、やっぱり綺麗な顔してるから」
そう言って、微笑んだ。
雨音に似た一定のリズムが、自分の中で大きくなった気がした。
「っ、煩いわね!あなたみたいな頭の軽い人、大っ嫌いよ!!!」
眼鏡を取り返して足早にその場を去ると、玲が頬を緩ませて追って来た。
「水瀬ごときに怯むなんて、結花らしくないね」
「怯んでなんかないわよ!私がああいう軽薄な男に負けるはずが____!」
「はいはい、これ、今朝駅前でもらったから結花にあげるね」
玲に押し付けられた美容院のチラシを見て、パーマってこんなに高いのね、なんて。
そんなことを思ったなんてきっと、湿気のうざったるさで気でも狂ったのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます