明けましての彼
「おはよう」
新年早々、私に目覚めの笑顔を見せてくれた彼。
私にとって彼は、心を明るく照らすお日様のよう。
何がいいかって、このくしゃっとなる笑顔だ。寝坊助の私をいつも笑顔で起こしてくれる。
「はい、コーヒー。そうだ、今日はご飯にする? それともトースト?」
毎日朝食を準備してくれて、片付けや部屋の掃除、ありとあらゆる家事を全てこなしてくれる彼。私にはもったいないくらいだ。
「いつもの神社、やっぱり混んでるかな?」
食卓に座りコーヒーの香りに酔いしれている私に、キッチンの向こうから彼は笑顔でそう言った。「そうかもね」と私も笑顔で答える。
彼と一緒だったら何でもいい。そんな風に思わせてくれる。今の私は何不自由ない充実した生活を送っていた。これを世間では“リア充”と呼ぶのだろうか。しかし、それは意味を持たないただの言葉の暴力。嫉妬から生まれた虚勢。私は、その言葉をぶつけてくる人たちに言いたい。――ざまーみろって。
私が彼のことを友人たちに話すと、「そんな彼氏いるわけない」とか「絵に描いたような理想的な彼は、どこで見つけたの?」とか色々聞いてくる。
残念ながら、彼は実際に私の目の前にいる。そして彼は見つけたのではなく、作ったのだ。
作ったと言っても、彼はロボットだったり、私の妄想の中の人物という訳でもない。実際に実在する本物の人間。
出会った時の彼は、今の彼とは違った。私は彼を理想的な彼氏として、作り上げたのだ。
どうやって作ったかって?
あまり詳しくは言えないけど、ヒントは彼の心を奪うこと。脅迫したり服従させるような真似はしてはいけない。彼の心を少しずつ、でも確実に奪っていく。
「あ、これ言い忘れてたね。明けましておめでとう。これからもよろしくね」
彼と出会って40年。彼の心を奪うのに明け暮れた毎日だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます