第5話 ビーナスサロン

キャー。キャー。バシ!ボコ!ドカ!グフ!


「セクハラじじーが紛れ込んでるわ。」

「私もお尻おさわられたー。」

「腕をほどきなさいよ。」


屋敷の大広間に通された女神の集団は、シュレが取り出した、かつて俺が集め作ったアクセサリーや小物そして、マジックアイテムに鞄に靴、そして普段着からドレスまで見ていたとき、ひとりのスケベ爺が混じっていた。


「いつから・・・大御神様、女神たちに紛れて何をされているのですか。」


ドン引きしていた女神たちも、俺の一声で誰だかわかったらしい。


「地球の主神様が何でここにおいでなられたんですか。」


「まさかそこの小汚いスケベ爺が地球神であるわけないわよ。顔がぼこぼこでわからないわ。」


「イケメンのアースパパであるわけないわ。そうよねママ。」


先ほどまで顔の形がわからぬまで、フルボッコにしていた女神の一人、イースが仲裁に入ったように平静を装い話し出した。しかし、手に血が付いたままだったので白いドレスが汚れてしまったようだ・・・


殴られたことや罵倒されたことも、まったく何事もないような顔で、地球の大御神アースは威風堂々とセクハラしたことをごまかした。そして、俺の方へ近寄り目配せをした。


「おおそうでした。申し訳ありません。アース様・・・・こちらにご案内したままで・・・いきなり女神達を通してしまって申し訳ありません。」


「お・・おう。そうであったな。ミコトよ。ゴホン。いきなり女神たちが来たで騒がしくしたので、主も興味をそそられたものなのでな。気にするな。」


「ここの館の主、閻魔コウキでございます。これは地球神様ご挨拶が遅れました。ここは少し騒がしいので、別室をすぐに案内させます。どうぞ、貴賓室へ。」


すかさず、コウキも目で合図をおくり俺とアース様を案内した。


貴賓室に入るとカース様が首を組んでお礼を言ってきた。

「サンキュー。ミコっちゃん。助かったよ。それにしても、おひさー。それにコウキー。使える男はやっぱりもてまくりっしょ。おじさん、うらやましース。」


「ちゃないな~。相変わらず。じじー。次はないからな。」


俺は、少しあきれていたが、コウキは深々とお辞儀をしたまま頭を挙げなかった。


「おやっさん。奥様がまた泣きます。少しは自重してください。でも、例のミコト様からの話し上手くいかせますからご安心してください。このコウキ、おやっさんのお命のためなら死ぬ覚悟をしておりますから・・・」


アース様は自ら恥ずかしそうに、はれありクマのできた目を抑えながら、鼻血と口から流れ出ていた血を拭いた。


「コウキ・・・すまん。俺も少し自棄になっていた・・・また、地球が壊れていくと考えていたら、何もかもやっていられなくなってな・・・」


地球神アースは、俺に天界からご威光と地球の未来を語りはじめた。


この宇宙ははるか遠い昔に神々が実験するために作られたようなものだ。

幾万、幾億の地球とよく似た星々に、生命を宿らせた。


ある星は魔素が満ち魔法が使え、ある星は科学が発達し、新たに生まれ滅んでいった。


それは、神々がおもちゃと戯れるようにある種の実験にも似ているようだった。


それもそのはず、争いが多い星は生命の寿命こそ短いが進化が恐ろしく発達した。


逆に自然を淘汰した最強の力を手にした種族は争いがなく、長寿であり交配事態もあまり進まなくなっていた。


そのような星がある中で、ある神や災いに近い闇の力ある者達も星々に現れ始める。ゲームのような敵キャラやNPCといったものまでが星の運命を過酷にする。


そういった、運命に介入する神はあくまで観察するように見守るだけだったが、しかし、新たな可能性を見出し始めると星に幸せを運んできた。


地球神アースは慈しむように地球の話しを続けた。


地球に住む人々すべてが願いをかなえることはできないかもしれないが、強く願ったものは叶えられる環境を自ら作り出してきた。


それにより、殺戮を求めるものがいれば、地球さえほろぼすこともできる。


そして、ほかの星に行くことさえできる。また、人工的にあらたな生物を創造さえできる。


神々は、人は己の代わりとなる新たな人類を生み出す可能性をしめしたことによる、新たな時代を予見しはじめた。


だからこそ、新たな負荷ともいえる厄災があるとわかっている。


地球事態の運命が悪くなると厄災を恐れた神々もいなくなるのは当然である。


そして、この混乱に満ちた世界をさらに陥れるように、混沌をもたらす者が出てくるのを楽しみにしているものまでいる。


だからこそ、無知に勘違いを利用する輩ともいえる、ささやく者の真意を確かめる。


閻魔コウキが地球神アースに語りかける。


「おやっさん。神々はこの地球での、人間の可能性がわかってしまったんですよ。人はどんなに寿命がのび、高度な科学の力を手にいれても相変わらず愛憎をもち、身勝手に好き勝手に他人のパートナーさえ、欲望のはけ口にする下等生物ということ。だけど、厄災の度に進化することを・・・だから・・・人々は、このあの世と言われる死後の世界で、輪廻転生を続けているのではないでか。ミコト様しかり、ケースケ様の示された可能性をも、いいれば地球が破壊されることもなく、神々に愛され続ける星であり続けます。」


緑もなく砂漠の星になるかもしれん。もしかしたら、この地球の人間が他の星の知的生命体にのっとられ星をむしばわれることは、いままで地球にもたらした恵みという神々の恩恵に泥を塗る行為かもしれんな・・・しかし、運命には逆らえん。どのような厄災がこの地球に降りかかるかわからんが、人間次第でどうにでも転ぶ・・・


俺は地球神アースに力強くいった。


「か弱き人間が、ひとりでも生命の宿る星々を行き来でき、新たな人間に進化することを神々は期待しているのです。神に似せてお創りになられた人間の可能性・・・心の発達そして、人間同士にかかわらずや他の生命体といい関係を構築できる才能や新たなる目覚ましい能力をもとめているに過ぎないのですから。」


畳みかけるようにコウキはアース手を取りながら説得するようにいった。


「自然の驚異に満ちた山で人間が生きるのと、管理された里山をつくり活用して人間が生きるのでは違うのです。今の地球は里山と例えたとしたら、そこに山火事や、脅威となる熊が出たとしても、英知を結集すれば防衛や戦略地と考えれば自然の山よりは楽勝に攻略できます。しかし、未知数の物や未知脅威には歯が立たないでしょう。だからこそ、転移・召喚、そして転生を活用した人間のあり方を模索すればさらなる脅威から救われる可能性が上がるでしょう。」


俺も負けじとコウキのフォローを入れる。


「この俺みたいな神でも、下界に降りて人の中で暮らし、異世界を渡り歩いた者には実感があるんだ。転移・召喚、そして転生で異世界に行ったものがこの世界に戻って来て生かせる環境が出来れば地球の未来は明るいってね。」


地球神アースは納得するように大きく頷いた。


「地球に住む人間や地球から飛び出す人間も、そのうち、異世界勇者と同様に、独特な能力やスキルが発現していくだろうそして、この流れにあだなす者どもを排除していくだろう。この流れは間違いないが、それを面白がる神々が運命を見出し見続けるだろう。だが、それ以上に、この地球と異世界との交流もたらされる一種の悪とも呼ばれるものがあることも忘れるな。このアースはあの世と呼ばれる死後の世界の新たなモデルケースを立案に賛成するぞ。」


俺はこの時は、結果がもたらす、これほどの驚異になるとは思わないでいた。


それよりも、地球神アースが俺たちの意見に賛成してくれたのを喜んだ。


そしてアースに、ハネムーンに出かけることを話した。


「もっと視野を広げるためにも、新たな観点で別の異世界を巡ってきます。一応ハネムーンということで、別の神々もちょっかいは出してこないと思いますが、何かあれば頼らせてください。地球神アース。そして、あの世に変革をもたらす、その世とも呼べる新たなる地の初代統治者となる閻魔コウキ殿もよろしく頼むぞ。このミコトが神々が集う新たなる世界を創るためにもな!」


俺たちはがっちりと手を握り合った。そして、アースは落ち着きを取り戻した。


「今はケイスケというのじゃな。それにしてもアマミコと呼んでいたミコトが地球以外で新たな世界を創りたいというようになるとは・・・よき経験をしたのだろう。」


「異世界は広くて残忍であるが可能性に満ちていた。それ以上に、地球の人間の心から生み出した可能性は我が夢を膨らませてくれた。それも、異世界を攻略してしまうほどに・・・でもまだまだ、宇宙に広がる可能性は未知数であり、この宇宙をお創りになられた大神々のご遺志には到達できぬほどです。だからこそ、生命や神々を通して、神知超える神々と生命の遊び場としての可能性を追求したいのです。いうなれば遊び人ならぬ遊神として。」


すかさずコウキは突っ込みを入れた。


「ケイスケ様は遊神どころか勇神といった方がいいではないですか。


アースは納得したようににこにこした。


「遊び人ケイスケより、勇神ケイスケの伝説になるのだな。昨夜の大反響だったマリッジオペラは暇を持て余した神々が喜び騒いでいたぞ。娘の女神イースは交友ある女神たちと、昨夜のマリッジオペラと舞踏会にケーキ・・・はしゃいでいたのでついつい我もついてきてしまってな。それにしてもアイドル戦隊シュレーズの会長になれたのはよかったぞ。その足でこちらに来てみれば、まだまだ女神たちは騒いでおったな。」


「もしかして、娘というのは先ほどドレスを血で染めていたのが女神イース様ですよね。」


「わかっていたが、やはり仮面の女神がイースだったのか・・・私はこれにて帰るから、娘イースに私用があったからと伝えてくれ。急いでかえらないとな・・・妻に・・・ではさらば。」


「あのー、奥様もさっきいたんじゃないですか。」



最後の言葉を聞かず、地球神アースは雷のような轟音と光の中に消えていってしまった。


洋館全体に響きわたった爆音は、その館にいる者すべての動きを止めるほどであったが、一人だけ動じない者がいたのであった。そのものは大広間に眉間にしわを寄せながら扉を開け、廊下にゆっくり左右見渡した。そして大きく深呼吸するように息を吐き出し、鼻をクンクンとにおいをかぎながら、くまなく睨み付けていた。扉をバタンとしめて大広間にいる女神たちに向けて大きな声を上げた。


「イースちゃん。パパ見なかった。」

「ママ、ここにパパなんていないわよ。それより、探していた月桂樹の髪飾りに虹のしずくをあしらった、暁の聖女使様のおしゃれアクセサリーもあるよ。まだまだ、いろいろあるんだからパパのことなんか後でいいよ。アーこっちのドレスもとってもキュート!あがるわー。」


女神イースは母である女神テラの様相を、気にせずにシュレが出したおしゃれアイテムに釘づけだったが、他の女神は先ほどの轟音とドスの聞いた女神テラの一声で蛇に睨み付けられたカエルのように固まった。まさに心の石化といったぐあいに・・・


沈黙ともとれる石化した空間に割って入ってきたのは。可愛いくしゃみのシュレたちであった。


シュレ自体も防御本能が働いたようにアイドル戦隊シュレーズに分裂してしまっていた。


そしてやらかしたのはもちろんピンクシュレであった。


「アハ、誰かが噂しているのかな、テヘペロ。」


素の一声で、女神たちは心の中で何か炎が燃え上がり石化がとけた。そして、女神たちの中から漏れ出していた。


「私、ゴッドフレンドは渡さないだから。こんな計算高いエセ天然女になんか。」

「絶対女神フレンドいないよ。こんなのに引っかかる神なんていないわよ。」

・・・・


それを聞いて場の空気が変わっていることにようやく気が付いた女神イースは出しゃばりながら斜め上にいった。


「みなさーん。彼女たちとお友達になりましょう。だって、彼女たちはみんなのアイドルになれるんだから。彼女たちにもし振られた男神がいたら、早急に女神の力で癒してあげないといけないからね。」


女神たちは本当の敵は女神友達の中にいたことがわかった。


しかし、女神イースのおかげで女神達は救われた部分もあるので、うすら笑いを受けべながらも納得した。


その時に、俺とコウキは大広間の大きな扉を開けて入っていった。


重く閉じられた扉がギ~と開く。そして、目の前にいた思わず息をのむような絶世の女神テラがいた。


「あー。お久しぶりぶり。アマミコ。テラちゃんのこと忘れたの~。あの世に帰ってきたら頼ってっていたのに。転生するとミコトってば本当に記憶がなくなっちゃうの。笑えるー。もーおねーさんは、心配しちゅうじゃない。プンプン。そー言えば、マリッジオペラやったんだって。私も見たかったなー。そうだ、どうしてもお願いされるなら、今度、私もなんとかオペラに出てやってもいいわよ・・・」


女神たちは、めんどくさくてうざいお姉さんキャラの女神テラを見てドン引きしていた。


それ以上に、今まで、ファッションショーを兼ねて、交互にドレスやアイテムのモデルをしていた、嫁の聖女サキと女神イリヤは目から光線が出そうになっていた。


察した閻魔コウキは深々と頭をさげながら、一歩まえにでた。


「奥方さま。ご機嫌麗しく。こちらにミコト様が来ていることをお伝えすることが遅くなりました。午後には、ご交友のある女神のご婦神様方に声をかけようとした次第であります。よろしければ、今すぐご連絡しましょうか。」


女神テラは慌てたように、呼ばないでと言わんばかりに動揺してコウキを睨み付けた。


しかし、空気読めないというか読み切りすぎる娘の女神イースはママ神友を10神を召喚した。


「ママの友神に、ママの知り合いが久しぶりにいるなら呼んでっていわれてたの。いいよね。」


「イース!・・・・すでに来てるし・・・もーいいわよ。よんだって・・さ・・・」


鯉が餌に飛びつかんばかりに待ってましたと婦神たちは、女神テラの両腕をがっしり腕組、さらに俺の腕にも絡みついてきた。


「テラったら。私たちにも紹介してください。すみにおけないんだから。」


「噂のイケメンって彼よね。間違いないわ。いいーな。こんなぴっちぴちの男神ご友神して。うらやましいですわ。」

・・・・

・・・・


俺はゴシップ好きのご婦神たちの良いデザートになってしまったようだ。


それを見ていたシュレはマネージャーといわんばかりに、仕切り始めた。


「綺麗なご婦神様たちおすすめの下界の日本という国で作られた、スイートを取りよせてあります。よろしければ、当館の貴賓室前のオープンテラスでランチのとご一緒にいかがですか。」


「シュレ。俺は先ほどブランチを取ったばかりだぞ。」


「あら、ミコトったら。女神テラとランチも取らせてもらえないような、恐妻がいるのかしら。」


「おなかが減ってきたなー。ご婦神方、よろしければ、テラ様。皆様方に、この館の当主の閻魔コウジもご紹介させていただけませんか。」


大好物が魚をしょってきたと言わんばかりにご婦神方は喜び勇むのであった。


それを横目に、シュレーズに向かって大広間の照明を再調整してなどと、テキパキとファッションショーを続行するように、トップモデルとして意地を見せつけている俺の嫁がいた。


ちなみに後に聞いたことだが、腹いせと言わんばかりに、女神たちと、婦神たちに、さまざまドレスに防具や武器それにマジックアイテムなどを売りさばいてハネムーンの軍資金を稼ぎきった。


そして、ここぞとばかりに、ハネムーンの邪魔をする輩がいたときは助けてくださいといわんばかりに、貸しまでつくる徹底ぶりだった。


やはり、俺の嫁を絶対敵に回さないと誓うのであった。

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