第3話 死後の世界で前世の記憶が蘇る

「おかえりなさいませ。お主人さま。」


おや?ここは天国?

いやいや、そう変わらんが死後の世界だが?


若い女の声で・・・・いかんいかん。俺には妖艶な幼妻に美貌あふれる女神がこの腕に・・・・


両手に花束の状態の俺に、声かける奴なんかは・・・大抵の奴は輩みたいな者どもなんだが。


ひがみやっかみ、半分妬み嫉みが少々・・・残りは・・・からかいがてらの興味本位ってところかな。


死んでまでそんな馬鹿を相手にしていると、ろくなことにはならない。

ここは華麗にスルーを決め込んで、なんて思ったのが間違いだった。


3人で歩いている俺の背中に、悩ましい弾力ある2つのボールの感触とともに首に巻き付いたか細くていい匂いのするストールのような温かさに・・・


なんとも言えない耳のささやく、甘酸っぱい囁きと長い髪の毛が頬をくすぐる・・・


敗北感を感じながらも、顔はクールフェイスに決めていたが・・・


「アア・・耳イヤーン。」と声が出てしまった。


後の祭り・・・イリヤとサキは俺の腕からスルーと抜けて、俺にまとわりついた異分子たるものを排除した。背後における、あまりの一瞬のことで何が起きたのかわからなかった。


というよりは知りたくなかった。


「どこのメス猫ですの?」

「メス猫なんてもったいないわ。何!このメイド服は狙って着こなしてるの。発情期の淫乱メスオークなんじゃない。」


イリヤに腹這いの状態にされて、腕を決められながら、顔が変形するかのように頭を踏みつけているサキ。そして、むなしく足をバタバタしているセーラー服を着ている○学生のような女の子・・・


「ご主人さま・・・助けてください。お忘れですか・・・私はシュレですよ。シュレ・・・ですってば。前世もご一緒していたシュレですよ。あのー・・・綺麗なお姉様方も、私はご主人様のゆかりある者ですので・・・何卒、解放していただけませんか・・・・」


サキは、口の半分が地面に埋まる前に足をどけ、イリヤも足で決めていたシュレの腕を解放した。サキは少し眉間に、般若をやどすように毒を吐いた。


「あらあら、やだやだ、お前様のお知り合いなんどすか。前世からのお知り合いなんて隅におけませんね。死後の世界は、えにしのご縁も、なくなるところなのに、あいや、不思議なこともあるものなん。」


シュレは殺気を感じたらしくビビッていた。しかし、大きく深呼吸すると後ろに宙返りを決めながら、見るからに高級ブランドのバッグに変身した。その大きなバックは突然、話をはじめた。


「敵意はありません。みなさん聞いてください。・・・ていっても何が何だかわかりませんよね。まず、自己紹介させてください。私の正体は付喪神・・・九十九神ともいわれている存在と、言ったら信じてもらえますか?」


そういうと、バックになったシュレは生い立ちとも言える、前世かの俺との縁を語りはじめた。


ここでいう前世とは、前世の前世のことなんだが、俺の秘めたる力まで教えてくれた。


シュレによれば、どうやら異世界で勇者として魔王を倒した俺が、隠遁したときに作った鞄だったそうだ。異世界で活用するように、名工といわれる随一のドワーフ鍛冶屋のルメイに弟子入りして、俺自身がもつ魔力でつくられたそうだ。


 また、そのバックは時空間魔法を施した物だからこそ、鞄は容量が無制限であり勇者が持つべき一品であった。


次に、隠遁していた俺は一念発起して鞄をもって冒険に出た。


発想はいたって簡単だったらしい。

勇者が持つにふさわしい聖剣も自ら作りたい。

聖剣も超える最強剣を作り出したい。


まるで低学年の小学生のような少年心あふれる、痛い奴だったらしい。


その聖剣を創る過程で、あらゆる魔術や錬金術をまなび、魔剣といわれる技物もいくつかつくったそうで、その功績で英雄ともうたわれていた。


勇者に相応しい、こだわりをもった一品づくり冒険をしながら、旅をしていたとき、一人の日本という異世界から転生者と出会った。


その転生者は次なる勇者となるべき者であった。そして、すぐに俺と仲良くなったそうで、その異世界では勇者としても魔法賢者としてあらゆるものを極めていた俺は、転生者の師匠となった。


そして、その転生者から、古来の日本文化や古武道をそしてあやかしの術も教えてもらっていた。


その中で未知なる発想を得て新たなる時空間魔法を施した鞄をつくった。それがシュレ。


「転生者のアベちゃんが陰陽術とかいう奇怪なあやかしの術の使い手で、その妖術を魔術と組合せを立体に施したらハイブリッド九十九神みたいな私が出来たわけ。」


サキは胡散臭そうな顔をしながらバッサリ切り捨てた。


「妖怪、式神のたぐいといったところじゃろう。」


でも、イリヤはバックのデザインが、気に入った様子ですかさずフォローした。

「でも、見れば見るほど、妖怪とはいえん一品ですわ。これほど神々しい九十九神は見たことない。ましてや、ケイスケが前世で作った物ならば、私の物にしてもいいよね。」


サキはちょっと待ったをかけた。


「イリヤ様。ここはまずは、何でここにケイスケがいることがわかったのか?そして、何で死後の世界にいるのか尋ねたほうがよくって?詐欺師に騙される前に鑑定した方がいいですわよ。本物なら高くつく分には構いませんわ。」


シュレは平然と言い切った。


「神々にご主人様は才能が認められ天界人というより神様になったんだけど、日本のある世界にいってみたいといって、下界おりたんですよ。そして、寿命が近くなったんで迎えに来てみたら、ご主人に相応しい綺麗な方々に囲まれていたので、ついうれしくなっちゃって抱きついてしまいました。」


鞄状態から人の姿に戻ったシュレは疑いを晴らすためにこう続けた。


「そうだ、誤解しているかもしれませんが、この下僕の姿は、前世でのご主人様の妹様のお姿なんですよ。勇者になる前に魔物に蹂躙された妹を不憫におもい、その姿、魂を死ぬまで忘れないようにお作りになられたそうです。神に召された後も私を重宝に使っていただきました。そして、下界に降りるときは転生のため、私をこの地をおさめる一族の者にあずけられて行ったんです。」


シュレはハッと気付いたように手のひらからカーペットを出した。カーペットを広げると魔法陣が織り込んであった。


シュレは魔法を詠唱すると魔法陣は光輝いた。


「ご主人様。お姉様方、閻魔様がお待ちです。晩餐会のご準備も出来上がっております。早く、ご主人様、約90年ぶりの死後の世界は少し陽気にみちていますわよ。」


イリヤもサキも、お互い不思議そうに小声ではなしていた。

後で聞いたのだが、俺が勇者だったとか、神様になっていた過去があったのかは、知らなかったそうだ。


そして、無理やり、輪廻転生の輪から外さなくても大丈夫だったことを、取り越し苦労したと反省していた。もちろん俺はこう言ってやった。


「聖女と女神が選んだ男です。そん所そこらの原石ではないってことですよ。」ってね。


それはともかく、俺たちは、今一、忘れていた前世の記憶とシュレの言葉を確かめるために、魔法陣の光に包まれた。


ひんやりとした空気が変わった感覚とともに、魔法陣から発せられた光がおさまり、西洋風の立派な建物前いた。シュレはこの洋館のメイドのように、すたすた中に入り俺たちを案内した。


まるでお城のようなたたずまいで、長い廊下を歩き、そして、いくつもの大広間のような部屋を横目に進んだ。シュレはある部屋の前で立ち止まり、軽くドアをノックした。


地鳴りのような声が聞こえ部屋に入ると、お館様と呼ばれる紳士が窓の外を見ていた。


シュレは軽くお辞儀をした。


「お館様、我がご主人様がお戻りになられました。」


お館様と言われている者がこちらに振り返った。


「おお、よくぞ戻られた。久しい久しい。っていっても記憶がないじゃろう。今の名前は確かケイスケ殿と呼ばれておりましたな。すぐに、思い出させましょう。話はそれからがよかろう。ははは。」


俺はこのお館様と言われる者と軽く雑談をした。


お館様というのは歴代の閻魔様を務めていた者で、今は外の者が閻魔を歴任しているらしく、たまに下界に降りた神が戻られるときに会話をするとこのような会話になるらしく、できるだけ迅速に記憶を戻すことが好まれるらしい。


そして記憶を取り戻すには、ある種のトリガーを外すだけでいいが、現世と前世との記憶が混じり混乱するときがあるので、いくつかの方法を提案させた。その中で俺は、魔法鞄としての優秀なシュレの持つ記憶の根幹たるダイアリー機能を付随させて記憶を戻せるように調整することにした。


「肉体のない死後の世界なら、あらゆる負荷によって記憶域を侵す危険はありませんから、安心して結構ですよ。」


というお館様の声と供に、脳の中に前世の記憶がダウンロードされた。

そして、お館様は大きく頷きながら話した。


「ミコト様。お帰りなさいませ。記憶は戻りましたかな。この記憶は外の者には秘匿してあります。相変わらずのご活躍で、また、新たなる野望をもって、新たなる下界に参られると聞かされております。その時は、シュレをお使いください。ただ、シュレは預かっていただけではありません。あらたな下界を管理するだけの能力をシュレに身につけさせました。」


記憶が戻った俺は、お館と呼ばれる第695代、閻魔コウキに向かって発布した。


「堅苦しくするなコウキ。それより俺だけのお姫様を紹介するぞ。それに俺はケイスケと呼べ。俺の存在は秘匿にしてくれよな。それにシュレより、晩餐会を催すと聞いているが、できれば仮面舞踏会に変えてくれないか。それも俺がすでに下界に降りたと宣言してな。」


コウキはニヤッと笑った。


「知っておりましたか、天界の不穏な動きについて。さすがミコト様・・・いや、ケイスケ様。」


見透かされたと思ったが、あえて少しおどけてみせた。

「皆に我だけのお姫様を自慢すると、羨まれるからな。厄介ごとはお姫様の品位を落とすのでな。」


しかし、舞踏会と聞いたイリヤとサキの目が光っていた。


「お前様、仮面舞踏会といっても、死後の世界に来たばかりでロクに服もございません。イリヤ様の能力で女神のドレスを慎重しても、聖女たる私がお前様の隣に立てるドレスになるか・・・。」


「そうですはケイスケ様。天界でのドレスと、ハザマともいえるこの死後の世界でのドレスは違うんですよ。このような大事になるのを知っていれば・・・」


俺はシュレを呼び寄せ、古びた服を2着と宝石を数百個ほど出させた。


そして、俺はまず魔法で服をドレスに変え、宝石を錬金術でアクセサリーに変えた。


二人は俺が魔法と錬金術をつかったことに驚いたようだった。


「仮面舞踏会が不服なら、どうかな、死後の世界で挙げる結婚式あげようか。お姫様たちに合うようなシンデレラみたいなウエディングドレスならこんな風にすぐにできるよ。でも、ガラスの靴を履いて消えないでね。」


二人のお姫さまは手を握りあい。そして抱き合って喜んだ。


「誰も、死後の世界で、結婚式を挙げた人なんていないよ。前代未聞だよ。」

「そうね。死後の世界も魅力が出ちゃうかも。こんな、幸せいいのかな!」


コウキは一歩でて提案した。


「あえて、このような美しいお二人様と、ここで結婚式を執り行うなら死後の世界のイメージアップまちがいありません。多くの神々が羨むでしょう。ここは、モデルケースとして開催したらいかがですかな。今後のご活躍と、何かの足掛かりにもなるはずです。」


ケイスケは少し悩んだ後にサキとイリヤに話した。


「二人とも聞いてくれ。しってのとおり、神々の嫉妬は想像以上なんだ。だから、名目上は俺は、お前たちのプロデュース兼プランニングデザイナーになるつまりだ。だから、神々の前ではプロの女神モデル・聖女モデルとして俺をお前らのステータスを挙げているアクセサリーとして扱ってくれてかまわない。それも、神々がうらやましいと思わせるより、刺激ある出来上がった理想のファッションモデルとして・・・それによって、お前たちは憧れの存在にまつりあげられるだろう。そして、同じような目標として真似されたり、モデルになる神も現れるかもしれんが・・・なんなら、いっそのこと可愛く綺麗で美しく一緒に歩もうよ。」


「そうね。クールにね。」


シュレはうらやましそうにしていたので、思わずシュレの手をつかんで呼び寄せた。


「シュレ。今からお前は、アシスタントデレクターだからな。こき使ってやる。手始めに、今日集まる者用にパンフレットを早急につくれ。イメージ戦略はお前にかかってくるからな!ヨロシクナ!シュレ!」


シュレは嬉しそうに声でよろしくお願いします。と叫んだ。そして、シュレは魔法を使い2つに分身をして部屋から飛び出て行った。


あわただしく出て行ったシュレ達をみてコウキは大きくため息をついた。


それを見ながら改めてコウキに、サキとイリヤの2人を紹介した。


「ケイスケとして生きた人生で妻だったのが聖女サキ様。享年83歳だけど。死後の世界では年齢は必要ないな。その隣にいるのが、聖女サキに魂と供に加護を与えていた女神イリヤ様です。」


「自己紹介は結構ですぞケイスケ様。何せ閻魔だったんですから。それに、聖女サキ様に限っては、前世の記憶をとり戻した方がいいですぞ。何せ、ミコト様の大切な方ですからね。でも、今の状態に限っては知らない方がいいかもしれませんが。」


俺は不思議に思いながらもコウキをにらみつけた。

そのやり取りがこざかしく見えたのかサキはセキをした。


「前世の記憶はすでによみがえっています。前世でミコトを拾って勇者にしたのは私ですからね。大賢者ミーナといえば思い出すかしら。あの頃は私のことをお母ちゃんと呼んでいた時代もあるでしょう。それに大英雄勇者ミコト自身が数百人の女に囲まれたハーレム王として浮名を流したことも知っていますから。」


「大賢者ミーナ・・・・母さん・・・って・・・そういえば、旦那がいた記憶がないよな。」


俺の驚いたこと以上にサキは恥ずかしそうになっていた。


「驚くのは男がいなかったてとこ?・・・そうだよね。大賢者っていうぐらいになるまでは、魔法の勉強一筋の独身女だったのよ。そして、盗賊に襲われて両親と妹を殺され、独りぼっちのミコトを拾って育てたら婚期を逃がしちゃったのよ。でも、その当時はミコトがすべてだったのよ。気にしないでね。」


女神イリヤも二人の会話を聞きながら腰が抜けていた。

「まさか、大賢者ミーナに大英雄勇者ミコトって、ある異世界で世界樹のある大陸の竜神山に封印された女神を助けなかった。」


俺は当たり前のように答えた。


「そうだよ。俺も記憶がよみがえったとき、イリヤ様のことに気付いたんだ。あの時は、遅くなってごめんなさい。俺は勇者転生で赤ちゃんで生まれたばっかりに行くのが遅くなってしまたんだ。イリヤ様も勇者召喚で呼んでくれればよかったのに。」


「イヤイヤ。封印されていたから、勇者召喚なんて無理だったから。優秀な転生者をお願いすることぐらいしかできなかったんだからね。そうだ魔王を倒してくれてありがとう。あの時はちゃんとお礼が出来なかったよね。」


サキはイリヤを抱きしめた。


「女神さまはよみがえったばっかりで、力もないのに・・・すべての力を異世界の人々に明るくするために力をすべて使い果たしたのではないですか。そして、転生して、まったく私とわからないまま、知らない私の願いを叶えるために、少しよみがえった力を使ってくれたことも、そして、力を使い果たし、私の中で眠りながら少しづつ力を回復していたのを知っていましたよ。これだけ美しくて、おやさしい女神は私は知りませんよ。女神イリヤ様。」


こうして、俺たちは新たなる絆を手に入れた。

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