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幸福論
「ある程度に愚鈍で、ある程度に愚かしい。
考える、故に我ありと説いた哲学者は高尚だ。だが高尚であるがゆえに不運だ。
知っているということは徳でもあり、得でもあるが、それはイコール幸せには結び付かない。
だから君は幸せだ。
ある程度に愚鈍で、ある程度に愚かしい君は徳も無く得もしないが、それでも徳のある人間よりもずっときっと幸せに、人の好むところの言葉で言えば平和にこの世を渡りその生涯を終えられる。
君にとって世間が無害であるように世間にとっても君は無害だ。」
十二月は大きな人の顔程もある金魚鉢の入り口から、細い指を擦り合わせるようにして少しずつ餌を落とし入れていく。
小さな小さな餌の欠片。
欠片に群がる囚われの身の金魚たちを酷く愛おしそうに見つめながら、そう少女に説いた。
自力では鉢から出れず非力に気泡を吐き出し続ける金魚たち。唯一縋れるのは気まぐれに餌を与えてくれる主人のみである。
そんな自分なしでは生きていけない金魚を十二月は愛してやまない。
十二月はそんな男だった。
けれども、かといって、それが十二月の全てなんて筈も無く、極めて断片的な、いくつもの気味の悪い要素から構成されている十二月輪廻という男の中の一番マシな要素ってだけに過ぎない。
そう。マシだ。
パクパクと哀れに口を開け、気泡を吐き出し、健気に餌に群がる金魚を見つめ、歪に薄い唇をひずませ、目を細めるなんていうワンシーンは十二月輪廻という男の全てを知れば、限りなくマシな一面だと言わざるを得ない。
―――……この男にもそんな可愛らしい一面があったのかと、思わざるを得ないのだ。
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