第24話 矛盾

せっかく恋人同士になれたのに

まだどこか遠慮しがちな私達だったから、

それぞれの正月を過ごしていた。




あの人はスノーボードに出掛けていて、

「無事に雪山に着いたよ、天気良いよ」


キレイなあの人はなんの疑いもなく

素直なメールをくれるんだ。


年が変わった瞬間にだって、

「明けましておめでとう」


誰よりも早くはしゃいで挨拶してくれた。



あの人はこんなにも純粋なのに、

実家に帰省している私は

あの人からのメールを

彼氏の横で

人知れず受け取っていたんだ。



臆病な私は

幸せ過ぎるのがたまらなく恐くなってしまって、

あの人とのこの恋を

一過性の幻なのだと

自分に言い聞かせようとしていた。


あの人を信じきれていない私が居たんだ。



だから全てを捨て去ることなんて出来なくて、

親の前でだって

なに食わぬ顔で平然と

今まで通り彼氏と偽りの関係を演じ続けた。


だってまだ

プロポーズされた私は

彼氏と結婚することになっていたんだ。




何も知らない私の親と

全てを知ることになった彼氏と

あの人のことばかり考えている私、

噛み合わない時間だけがそこに流れていた。



結局具体的な結婚の話をはぐらかしたまま

実家を後にした。


そんな私を

雪山に居るあの人は真白に何一つ知らない。




あの人にもっともっと

本当は逢いたいはずなのに

わがまま言えないのはどうしてだろう。


彼氏と居ると自然体の私だったから、

心の奥であの人を猛烈に求めながらも

満たされないこの心は、

彼氏にわがままを言うことで

安心してしまうんだ。



こんな矛盾を抱えながらもなお

この恋心はあの人に浸食されていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る