第15話 曖昧な関係

土日が休みの私と

平日が休みのあの人だったけど、

土日の夜に少しずつ時間を作ったんだ。



あの人に逢う度に

寒い冬が深まっていくせいか、

あの人の温かい笑顔と

心地いい声と

暖房を効かせてくれる車が

いつもたまらなく優し過ぎた。


あの人はいつも

制服のジャージの上にさらにジャージを着て、

不意討ちのようにたまに着る制服のスーツ姿に

不覚にもときめいてしまった。




ご飯を食べて

とりとめのない話をするだけだったけど、

逢う度に

なんてことはないあの人の一面を

一つずつ知っていく夜だった。



深い青色が大好きな人。


ストライプ柄の通勤バッグがお気に入りの人。


私と同じA型の女性としか付き合ったことのないと言うB型の人。


逢う度にちょっとずつ

私の家の近くまで送り迎えしてくれる人。


私のコンタクトをつけた目が

ウルウルしてると照れながら言ってくれた人。



一度だけ私の車で出掛けた時、

助手席に座るあの人の道案内が

なんだか教習みたいな人。


私の車はすごく小さいから

並んで座ると

いつもよりぐっと距離が近づいて、

「なんだか近くて照れますね」

伏し目がちに照れちゃう人。




夜の短いひとときではちょっぴり物足りなくって、

「今度は休みを合わせて一日中遊びたいですね」


あの人がこんなメールをくれた。

そんな可愛いことを言われてしまったから、

私は舞い上がって

有給を取れる日を探し始めてしまうんだ。


私だって

もっともっとあの人と一緒に居たかった。




遊園地に行きたいという私を

ディズニーシーに誘ってくれた人。


遊園地に行く日のちょっと前になって

私の呼び方を名字からあだ名に変えてくれた人。


私にわざわざあだ名で呼んでいいですかって

礼儀正しく聞いてるくせに、

いいよって言う私に

「僕の方が照れちゃいます」


私の方が逆に照れちゃうくらいに

照れながら可愛く喜ぶ人。




あの人に逢う度に

夜の街に駆け出す度に

小さな嘘は重なり続け、

やがて嘘は嘘でさえなくなっていく。


彼氏への罪悪感は不思議とないくせに、

あの人への愛しさと切なさは増していく。


こんな私だったから、

あの人との関係性を

あえて曖昧にすることで

溢れ出す本心から目を背けようとしていた。



そんな私に

あの人は飾ることなく

純真無垢な笑顔を絶やさず向けてくれていた。


そんな笑顔を見せられてしまったら、

やっぱりこの恋の続きが知りたくなって

本当にもうどうしようもないんだ。

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