第4話 妹と胸の価値
「男の人って、おっぱいは大きいほうがいいんですか?」
放課後、俺の家の前に着く頃、類が口を開いた。即答の難しい質問であり、尚且つ家の前で喋るような話題ではない。
「それは・・・」
言葉に詰まった。俺個人としては、胸は手が余る程度が良いと思っているのだが、大きい胸が好きじゃないかと問われたら、そうではない。そもそも、大きいか否かを比べるべき対象ではないのだ。大きいほうが良いか、小さいほうが良いか。そのようなものは、それ自体が愚問である。
街中を歩いていて、すれ違う女性の中で明らかに胸が大きな女性がいたなら、視線は無意識の内にそちらに向くだろう。理性では小さいほうが良いと思っていても、本能が大きいほうを求めているのではないか。そう感じてしまう。では、大きいほうが良いのか。否、断じて否。先ほども述べたが、その考え自体が愚かである。
「たかがおっぱいでそんな深刻な顔しないでも」
流石の類も呆れ顔だ。いつもなら逆の立場であるはずだ。しかし、健全な男子高校生にとって、おっぱいは、言わば神にも等しい存在なのだ。二つの神の内、どちらかを否定しろと言われたら、こうもなる。
いや、前提が間違っている。「大きいほうがいいの?」という質問だ。どちらかを否定する必要はない。何を履き違えていた。ならば、答えはたった一つだろう。
「おっぱいは、大きくなくてもいい」
これが答えだ。どちらの神も否定しない。大きくとも、小さくとも、等しく愛せる存在なのだ。
「へえ、そうなんですか」
既にこの話題に興味がないのか、はたまた真剣に悩む俺をキモがってか、類はそっけない態度を取る。
「何の話してるの?」
俺の愛しい妹が家から出てきた。玄関前で話してるものだから、気になって出てきたのだろう。
「やあ
「お兄ちゃん何したの。類ちゃんにきもがられるって相当だよ・・・」
今年中学二年生になったばかりの妹だが、「お兄ちゃんきもい」とか「は?うぜーんだけど」とか言わず、とても純粋でいい子に育ってくれた。そんな妹に、おっぱいの大きさで真剣に悩むきもい兄だとは思われたくない。真剣に悩んでしまうという点は譲れないが、それを知られたくないのだ。
「いや、違うんだ結。実は・・・」
「友くんはおっぱいが好きみたいなんだよ」
「おま、ふざけんなよマジで!!」
何か上手い言い訳はないかと模索した所、一瞬で類に暴露された。おっぱいが好きなことは否定しないが、それを実の妹の前で言われるとなると、話が違う。多感な時期の妹だ。これを機にぐれてしまったり、居間に座ってるだけできもがったりされたら、お兄ちゃん泣いちゃうよ。
「お兄ちゃん、女の子にそういう話するのはどうかと思うよ」
結が苦笑いする。これで「は?最低なんですけど。近寄らないで、きも」とか言われたら、明日から引篭もりにでもなってしまっていただろう。
「それで、お兄ちゃんは胸は大きいほうがいいの?小さいほうがいいの?」
ほんの数分前に似たような質問をされた。そして、その質問に俺は答えを出せない。大きいほうがいいか、小さいほうがいいか。手が余る程度がいいとさっき言ったが、少し見栄を張ったかもしれない。大きい胸を想像してみれば、それはそれで好きだ。自信を持っていえるから、もう一度言おう。好きだ。
だがしかし、小さな胸も嫌いではない。ほのかに膨らんだ程度の胸であっても、俺は好きだ。服を着ていたら、男と見分けがつかないような胸であってもだ。
「大きいも小さいもない。俺は、全て含めて好きだ」
おっぱいはおっぱいだ。それ以上になることも、それ以下になることもない。大きくとも小さくとも、等しく俺の神なのだ。どちらか片方を選ぶことなど、出来はしないのだ。
「ね、友くんきもいでしょ?」
「うん、類ちゃんの言いたいことわかるよ」
二人は冷ややかな視線を向けてくる。そもそも、質問してきたのは向こうのはずだ。これはおかしい。不当な評価である。
「結ちゃんうちくる?お菓子あるよ」
「いくいくー!」
俺を尻目に、二人は颯爽と向かいの家へと入っていった。
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