第3話 恋愛と中二病

「友くん、初恋っていつだった?」

 いきなりだった。玄関を出て挨拶して、歩き出しての第一声がこれである。千鶴は案の定寝坊しているようで、姿は見えない。

「中学一年の時かな」

 長い髪が特徴の可愛らしい子だった。ただ、あれは恋と呼べるものなのかはわからない。「恋は素敵なものである」といった、根拠のない話を信じて、とにかく恋をしたいと思う年頃なのだ。もしくは、「恋人がいる」というステイタスが欲しくて、無闇に誰かを好きになってしまうこともある。「誰かが好き」という感情よりも、「誰かを好きでいたい」という気持ちが強く出てしまう人もいるだろう。本当に好きだったのかどうかは、ちょっと成長した今になって考えてみても、わからない。

「そっかー。友くんも男の子なんだね」

「類はどうだったんだ?」

「では、今日は恋と愛の違いについて話していきたいと思います」

「お前俺の話聞いてないだろ」

 十五分で話終えるような内容ではないと思う。つまりは、この話の続きは放課後か、夜に電話がかかってくるか、明日の朝に回されるということだろう。勿論、速やかにまとめてくれる可能性もある。

「よく言われてるのが、【自分が幸せになろうとするのが恋で、相手を幸せにしようとするのが愛】とかね」

 相手に求めるのが恋で、相手に尽くすのが愛ということなのだろうか。それが正しいとするなら、尽くす女とは即ち、恋しない女というとも取れるな。

「つまり相思相愛というのは、とても素晴らしい状態なのさ」

「互いが恋だとそうはならないのか?」

「その状態は相思相恋とでも言えるかな?それなら、互いが互いに求めるし、それに応じれるような人間なら幸せかもね。でも、人間っていうのは欲深いもので、与えてくれる相手にはさらに求めてしまうものなのさ。いつかどちらかが破綻してしまう」

「お前何歳だよ」

 そういうと、類は暫し黙り込んだ。メモ帳を開いて、今朝までに考えでもしていた内容を反復しているのだろうか。

 ペンでがりがりと何かを書きつぶしてから、類は口を開いた。

「・・・恋の終わりは、結婚なのかな」

「どうだろうな。結婚相手に恋という単語は使うことは少ないだろうし、ゴールと呼べるかもな」

 恋が愛になるという考えもある。恋と愛は別物であるという考えもある。恋も愛も同じものであるという考えもある。ゴールと呼べる場所があるのかはわからない。

 高校二年生の俺たちが語るには、ちょっと早すぎる話題かもしれない。破綻してしまうほどの恋をしたこともなければ、見たこともない。憶測だけでこの話を続けるには、些か経験が足りない。今はネット等で情報だけを得ることが出来るが、実体験はそれに勝る。百聞は一見にしかず、という言葉通りなのだ

「で、初恋はいつだったんだ?」

「私も中一だったよ」

 この幼馴染にも恋愛感情があると思うと、少し驚いた。恋と愛の違いを話始めたのも、昨日の夜にでも思いついたのだろうと思っていたからだ。

「相手は友くんだったんだけど、なんか痛々しい発言が多かったから冷めちゃったんだよね」

 俗に言う中二病の時の話はやめてほしい。ほんの数年前の話だが、思い出すと心臓が痛くなる。闇の炎だとか言い出さなかっただけマシだと思う。

「変に達観してたというか、何に対しても冷めてたというか生意気だったというか。ああ、そういえばあの頃って」

 同級生をガキだと見下してたり、レクリエーションをくだらないと言ってたくせに結局楽しんでたり、他の人が知らない物がかっこよく思えたり。ああ、思い出したくない。思い出したくはないが、どうせ今日の夜寝る前にでも思い出してしまうだろう。枕に顔を埋めて足をバタバタさせてしまうだろうな。


 教室の前に着くと、類が元気よく手を振って去っていく。

「それじゃ、また放課後か明日にでも話そっか。友くんとの中学時代の思い出」

「もうその話はいい!」

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