第二十三話 青き海へ

夜の船の甲板を元気に走り、空を指差す女性がいた。


「デュラン、見てください!今日は綺麗な、お月様の出た空が広がってますよ!」


「ああ……本当だな……やっとか……」


デュランとエリーシャは、アートスから船に乗り、西の大陸エルフィニアへ向かっていた。


船旅の間、曇り空が続き、ずっと時化に近い状態が続いていた。


そしてそれは、もうすぐエルフィニアの玄関口となる町ラスケルクへ着こうとした時だった。


エリーシャは久しぶりの海に興奮しているようだった。


特に今は彼女の好きな波のない穏やかな夜の海が広がっていた。


その海を彼女は泳ぎたそうに見ていた。


(嬉しそうだな……やっぱ……人魚には海が一番なのか………)


デュランはそんな人魚の娘を見ていた。


すると突然、エリーシャが振り返り、デュランに話しかけてきた。


「デュラン!ちょっとだけ、歌を歌ってもいいですか?」


赤毛の青年は辺りを見回した。


周囲の人々は、ちょうど夕飯を終えたところだった。


船には冒険者は少なく、商人と開拓者が多かった。


適当に話をしている者、ランタンを使い、書物を読んでいる者、無言で海を眺めている者などがいた。


また、船員たちは魔物の姿がないか、周囲に目を光らせている。


彼らの姿を見たデュランはエリーシャ話しかけた。


「今なら大丈夫だろ、歌ってくれ……」


エリーシャは嬉しそうに返事を返した。


「はい!」


彼女は元気に船首まで走った。


そして、くるっと体を回らせ、夜の海に背を向けた。


エリーシャの両手には、三日月の形をした小型のハープがあった。


指先で素早く、ハープの弦をなでた。


音が周囲に響き渡る。


皆一斉に彼女を見た。


「……ん?」


不思議そうにしている人々に向かってデュランがエリーシャに近づくと彼は叫んだ。


「みんな、今夜は船旅最後の夜だ!だから無事に、ここまで来れた祝いだ!バードの歌を聞いてくれ!」


デュランの言葉を聞いた人々は、嬉しそうに答えた。


「いいね!」


「お嬢ちゃん、頼むよ!」


「ほう、こいつはありがたい!」


人魚の娘は再び元気に返事をした。


「はい!」


人魚の娘は綺麗な歌声をハープの奏でる音と共に、夜の穏やかな海に響き渡らせた。



               デュランとエリーシャの旅の一幕より。



レイアークの町の市場の中でゴレアの娘が人形と共に人を越え、飛び上がっていた。


(………こんな能力があるのか!)


その光景を見たビーグルは驚き固まっていた。


ミィーチェが飛び上がった、この能力は最近彼女が気付いたものだった。


ゴードンは体が柔らかく、その柔軟な体の部分を地面や壁に押し付け、魔力を込めると少しの間だが瞬間的に彼の体の力を増幅させることができる。


力を瞬時に解放すると跳躍したり、真っ直ぐに素早く進んだりすることができるのだった。


しかも彼のマントは風の抵抗を強く持つため、地面に落下する速度を落とすことができた。


ミィーチェはこの事をシュリンには黙っていた。


そして頃合を見て突然彼女に見せ、驚かそうと思っていた能力だった。


ミィーチェは人形と会話をしたような気持ちになった。


(上手く……いった………ふふ……)


少しだけ口元に笑みを浮かべ、人形と一体となれたことを喜んだ。


驚くビーグルを飛び越え、ミィーチェはゴードンの両手を握り、少しの間、空中を滑空した。


ゴードンが両腕を広げることで、マントも広がった。


風を受け、小さなマントがなびく。


唖然としているビーグルの後方へ、ミィーチェはゆっくりと着地した。


彼女が着地した場所は、シュリンと自警団員の目の前だった。


シュリンは目を丸くして驚いていた。


「ドンちゃんに、こんな能力があったなんて……」


シュリンは不気味な動きを見せるゴードンの事を可愛く思えるように、彼の事を『ドンちゃん』と呼んでいた。


ミィーチェはそれをあまり快く思わなかったらしく、シュリンがその名を言うたびに、「シュリン……この子、ドンちゃんじゃない……ゴードン……」と訂正を求めてきたが、シュリンはドンちゃんの名称をずっと使い続けていた。


心配したシュリンがすぐに駆け寄った。


「ミィーちゃん、大丈夫!?」


しゃがみ込んだ姿勢からミィーチェは立ち上がると、シュリンに顔を向けた。


彼女は得意げな表情になっていた。


そしてその表情のままシュリンに尋ねた。


「………どう?シュリン……驚いた?」


シュリンは唖然とした後、怒りが込み上げてきたようだった。


「どうじゃない!心配したんだから!」


そう言うとミィーチェの体を抱きしめ、顔をうずめた。


シュリンは肩を震わせていた。


(シュリン………)


そこでミィーチェは彼女に少し悪いことをしたと思った。


ミィーチェは人形と過ごす日々が多かったためか、他人の気持ちが良く分からない時があった。


兄に言われて初めて気付いたことで、それからは自分なりに気をつけるようにはしていた。


しかし、また今回も大切な友人をこんなことにしてしまった。


ミィーチェはシュリンの頭を撫でながら謝った。


「シュリン……ごめんなさい……」


ゴレアの娘が謝った時、後方で声が聞こえた。


「―――さあ、諦めるんだ!」


「お、おい!待ってくれ!」


二人が視線を向けると、団員の男に羽交い絞めにされたビーグルが見えた。


「シュリン……あの人捕まった……」


「……うん」


ビーグルは焦っていた。


(なんだよ……これは!)


自分はどうすれば助かるのか。


彼は必死になって考えた。


(な、何をすれば……いいんだ!?………あれは駄目だし……これも駄目だ………)


とにかくミィーチェへゴレアに関する様々なことを話せば、誤解が解けると彼は思った。


(バンゲリス様の事やロナードさんの………あっ!!)


そしてそこで彼は、ようやく重要なことを思い出した。


(―――そうだ!なんでもっと早く思い出さなかったんだ!)


彼は自分に背中を向け、去り行く二人に向かって声を張り上げた。


「ミィーチェお嬢さん!ロナードさんから手紙を預かっているんです!とにかく、この手紙だけでも見てください!」


少し歩き進んだところで、ミィーチェは歩みを止め、そして振り返った。


「………ロナード?」


ビーグルは助かるために必死だった。


「そうです!この鷲の家紋とロナードさんの字を見て頂ければ、私がゴレアの使いの者であることが分かるはずです!」


その言葉を聞いたシュリンがミィーチェに話しかけた。


「ミィーちゃん、ロナードって人……知ってるの?」


ミィーチェは無言で頷いてから答えた。


「………家の執事……」


シュリンは、ビーグルをまだ信じていないようだった。


羽交い絞めにされた彼に近づき、訝しげに尋ねた。


「おじさん………本当でしょうね?」


「本当だ!」


そう言うとビーグルは腕をなんとか動かし、懐に手を入れ、手紙を取り出した。


「お嬢さん……こ、これを……読んでください」


ミィーチェは無表情になったゴードンを抱きしめながらビーグルに近づき、手紙を手に取った。


「………」


すぐに彼女は中を開けた。


手紙に書かれた字を見たミィーチェは呟いた。


「これ、ロナードの字……」


「じゃあ、この人の言っていること………」


シュリンとミィーチェは視線を合わせた。


「本当だったんだ………」


「うん……」


状況を良く理解できなかった団員の男が尋ねた。


「君たち……これは一体どういうことだい?」


ミィーチェが団員の男の服の袖を指先で引っ張った。


「その人を……放して……」


すまなさそうにして、シュリンも団員の男に近づいた。


「あのー……団員さん……あたしの早とちりだったみたい……あははは………」


そこでようやくビーグルは開放された。


そして団員の男は、シュリンに軽く注意すると、その場を去っていった。


シュリンはビーグルに謝った。


「おじさん……ごめんなさい……あたし、てっきり怪しい人だと……」


ビーグルは、とりあえず誤解が解け、自分の身が助かったことに安堵していた。


そして、安心した後、怒りがふつふつと湧いてきた。


(こんのぉ……ガキ……どうしてやろうか!)


シュリンを睨み付けた。


しかし、すぐにロナードの手紙を出せなかった自身にも怒りがある事に気が付いた。


(………はぁ……俺も、もうろくしちまったのか……肝心なことを忘れていたんだったな……こいつばかり怒ってもしょうがないか……くそっ、何で忘れたんだ、俺の馬鹿野郎が……)


ビーグルは、大きく息を吐いてから答えた。


「はああぁぁー………もういい……」


それを聞いたシュリンは、もう一度謝った。


そして笑顔になるとビーグルに近づき、話しかけた。


「………えーっと、それじゃ。おじさん、これで仲直り!」


シュリンは手を差し出した。


それにビーグルは力の無い感じで答えた。


そしてシュリンの隣で手紙を読んでいたミィーチェの表情が暗いものとなっていた。


シュリンは、すぐに彼女の変化を感じ取った。


(手紙……あまり良いことが書いてないのかな……)


ビーグルは、バンゲリスの死と手紙の内容を知っていたので、余計にミィーチェに対しては同情的だった。


(………この年で父親が死んだんだ……しかも、あんな死に方だ……辛いだろうな……)


そしてミィーチェに近づき、静かに話しかけた。


「ミィーチェお嬢様……お辛いでしょうが……準備が出来次第、マルティウスにある実家の屋敷へ………」


「うん……わかった」


シュリンが尋ねてきた。


「ミィーちゃん、なんかあった?」


「………」


シュリンに尋ねられたミィーチェは、即答することを避けた。


きっとシュリンは、自分と同じように悲しんでくれるだろう。


(シュリンは、そんな子……)


しかし、彼女もまた、父親がいないのだ。


ミィーチェはその事を知っていた。


そして、たまに今の自分と同じような表情になる時があるのをミィーチェは見たことがあった。


(また悲しい顔にさせちゃう………)


ミィーチェはそう思い、詳しい事は言わないでおこうと思った。


「大丈夫………ちょっと行って来るだけ……」


曖昧な言葉に、シュリンは戸惑った。


「え、ちょっと行って来るって……どこに?」


シュリンの問いを遮る様に、ビーグルがミィーチェに近づき話しかけた。


「馬車の予約は既にしてあります………すぐに寮へ行って準備をして下さい」


「うん……」


ミィーチェとビーグルは、歩き出した。


そんな二人へ向けて、残されたシュリンは叫んだ。


「ねぇ、どこに行くって言うのよー!そして、なんで私の部屋の住人は、みんなすぐにどこかへ行っちゃうのよーー!!」


シュリンは一通り叫んだ後、二人の後を追った。


そしてミィーチェは準備を早々に済ませた。


ミィーチェはシュリンには「家の用事」とだけ、説明した。


それを聞いたシュリンは納得はしていなかったが、先ほどのミィーチェの表情から重要なことだとは思っていた。


(ミィーちゃん、あたしに心配かけたくないから言わないのかな……)


そして寮の前に3人はいた。


すでに、馬車は来ていた。


ビーグルがミィーチェの荷物を中へ運び込んでいた。


シュリンが、ミィーチェに話しかけた。


「ミィーちゃん……ほんとは聞きたいけど……急いでるみたいだから、今は聞かない……だけど……」


「うん……帰ったら話す……」


それを聞いたシュリンは、納得したようだった。


「………わかった……じゃあ気をつけて!あたし、ここで待ってるから、きっと帰ってきてね!」


彼女の言葉に、ミィーチェは改めてシュリンの存在の大切さに気付いた。


「(シュリン……いつもありがとう……)うん……ちゃんと帰る……」


そして二人は軽く抱き合った。


手綱を手に持ち、馬の近くに座ったビーグルがミィーチェに声をかけた。


「お嬢さん、そろそろ参りましょう!」


別れを済ませたミィーチェは、馬車に乗り込んだ。


そしてミィーチェとビーグルは高速の馬車に乗り、レイアークからこの地域の境目にある町、『エスト』へと向かった。


この町は、中央のゾイル地域と東のマルティウス地域の境目にある町で、東には大きな山があり、南にはオリディオール島最大の森、ニーフェの森があった。


ちょうど森の一番東側にある町でもあった。


そして山に沿って北へ向かってから東へ向かえばバルディバへ向うことができ、北東へ向かえば、富裕層の別荘やゴレアの本宅がなどがある町、『ロンバール』へ向かうことができる場所だった。


二人がエストに到着した時には、既に夜であったため、この日はこの町で夜を明かすことにした。


そして、その日の深夜、事は起こった。


ビーグルがこれからの事を考え終え、ようやく眠りに付いたときのことだった。


部屋の窓の外から、何やら声や音が聞こえた。


ビーグルは、眠い目を擦りながら起きた。


「………なんだよ……おい……うるせえな……」


彼がいたのは宿屋の二階だった。


ちょうど町の中心にある広間が見えるところに建っている宿屋だった。


そして外を見た。


彼の視界から見えたのは、数人の男たちが声を出しながら争っている姿だった。


「なんだ……ただの喧嘩か……」


ビーグルが再び寝ようとしたとき、爆発が起こった。


―――ドンッ!


ビーグルは飛び起き、すぐに先ほど自分が見ていた場所を見た。


近くの建物に火がつき、燃え上がっていた。


「―――おいおい……誰かが魔法を使いやがったな……しかも、さっきより人が増えてやがる……」


どうやら、お互い仲間を呼び合っていたようで、戦いは規模が大きくなりつつあった。


男たちは、みな人相が悪く、防具や武器を持っていた。


その姿を見て、ビーグルはすぐに彼らがどこかの賊だと分かった。


(どこの奴らだ?……まあ、団員がもうすぐ行くだろ……早く終わってくれ……)


そして視線を部屋に向けようと思った。


しかし、ビーグルは何かを思い出すように、再び外の景色を見た。


「―――あれは……おい、本当かよ……」


ビーグルが見たのは、この町の団員たちの死体だった。


幾人もの団員が、地面に倒れている姿だった。


どれも、血が流れていたことから、すでに賊に倒されているようだった。


それを見たビーグルは、一瞬のうちに危機を悟った。


(―――これは、不味い!)


すぐに彼は、ミィーチェのいる隣の部屋へ向かった。


分厚い木製のドアを叩いた。


「―――お嬢さん!ミィーチェお嬢さん!」


しばらくして、眠い目を擦りながらゴードンを持ったミィーチェが現れた。


「………んっ……なに?」


「すぐに、ここを出る準備を!外で賊同士の戦いが始まってます!」


「………ここじゃ、ダメ?……」


「はい、団員が何人も既にやられていましたし、更に規模が拡大する可能性が大きいようです!」


ミィーチェは、ゴードンの顔を見ながら何かを考えているようだった。


一刻の猶予も無い、と判断したビーグルは声をかけた。


「お嬢さん!ここは、無法者に占拠されつつあるんです!」


そこで、ようやくミィーチェは動き出した。


「……うん……わかった……」


彼女は、ここを出る準備のため部屋に戻った。


ビーグルは、すぐに馬を用意しようと階段を下りた。


すると、入り口のドアを必死に押さえている、この宿屋の夫婦の姿が見えた。


どうやら、賊がこの宿屋を狙っているようだった。


ドアを何人もの男が叩いてる音が聞こえる。


「―――おい、開けろ!」


それを見たビーグルは、別の部屋の窓から出ようと決めた。


(あそこは無理だな……他の部屋から出るか……しかし、この数は予想外だ……)


そして自分の部屋へ戻ると、すでに準備を終えたミィーチェが、ゴードンと共に床に座っていた。


彼女は無表情だったため、2体の人形が部屋の外に置かれているように見えた。


ビーグルは、そこへ駆け寄った。


「お嬢さん!」


ミィーチェは、ゴードンを手に持ち立ち上がった。


「準備できた……」


「わかりました。すぐにここを出ましょう!」


ビーグルとミィーチェは、一階の宿屋の空き部屋の窓から外へ出た。


その景色を見ると、一部の家が激しく燃え始めていた。


そして、町の中では、人々が争いから逃れようと、森を目指し、走っている姿が見えた。


(俺たちも森に行くか……)


ビーグルは、ニーフェの森に入ることにした。


「お嬢さん、とりあえず、森に逃げましょう!」


「………うん」


ビーグルは、片手で彼女の荷物を背負うようにして持ちながら、もう一方の手でミィーチェの手を取り、森へ向かって進んだ。


この町は、交通の要所でもあったため、広い道とここを通過する者たちへの商売が盛んな町でもあった。


宿屋や様々な物を取り扱う店、中央の広場は生鮮食品などを売る市場があった。


ビーグル達は、店がある地域から住宅地まで来ていた。


そして、森の木々が見え始めたころ、賊の男たちが馬に乗り、逃げ惑う人々を襲い始めているのが見えた。


「くそっ!こっちに気付き始めやがったか!」


これは実際には、北側の賊が南側の賊を押していたために、起こっていた事態だった。


ビーグルの手を握る力が強くなったのをミィーチェは、感じた。


「ビーグル……速度上げよう……」


「わかりました!」


ミィーチェは、靴の力を使い、速度を上げた。


すると、ミィーチェがビーグルを引っ張ることになった。


(早いな……これは、俺が置いていかれないようにしなければ……)


二人は、必死になって森を目指した。


走っていると、同じく森を目指している町の人々などが、二人と何度もぶつかり合った。


ここでミィーチェとはぐれてしまえば、大変なことになると思い、ビーグルは彼女の手をしっかりと握った。


ミィーチェもそれを分かっているのか、ゴードンを持つ力と同じ力で、ビーグルの手を握り締め、彼を引っ張った。


また、彼女の腕の中にいたゴードンの表情は、険しくなっていた。


そして、ようやく森になんとか辿り着いた時、賊の集団がこちら側にやってくるのが見えた。


森の中にいた人々は、声を上げた。


「―――奴らが来たぞ!」


「なんてことだ!さらに奥へ!」


二人も彼らと共に、奥へ進もうとしたとき、ミィーチェが大きめの石につまづき、足を軽く挫いた。


ビーグルは、すぐにミィーチェに駆け寄った。


「お嬢さん、大丈夫ですか!?」


ミィーチェは、苦痛に顔をゆがめた。


「―――っ!」


(これは、良くないな……)


そう判断したビーグルは、すぐに、彼女を背負おうと思った。


そして彼女に背を向けたとき、馬に乗った賊たちが目の前に武器を持って現れた。


「もうきやがったのか!」


背負うのを諦め、抱えて走ろうとした時、賊の男が馬に乗ったまま、サーベルを二人に向かって振り下ろしてきた。


「―――しまった!!」


ビーグルは、咄嗟にゴレアの娘を庇い、彼女を抱え込んだ。


そして敵の刃がビーグルを襲う寸前、森の中から一本の矢が飛んできた。


―――シュッ。


矢は、見事にサーベルを持った敵の腕に当たった。


賊の男は「うっ」と声を上げ、ビーグルにあたる寸前のところで、武器を地面に落とした。


ビーグルは、弓矢が飛んできた方向を見た。


声が聞こえた。


「……人よ……森に危害を加えることは許さんぞ。例え、そこが我々の森でなくともな………」


そして、森の闇の中から、3人の男が現れた。


その姿を見たミィーチェが驚きながら呟いた。


「ウッドエルフ………なんで……ここに?」


(あれがウッドエルフか……)


驚く二人が立ち上がると、3人のウッドエルフがビーグルとミィーチェを庇うように前へ出た。


そして、一人の男が二人に話しかけた。


「お嬢さん……足は大丈夫かな?」


ミィーチェは、無言で頷いた。


男は、高齢のウッドエルフだった。


弓を手に持っていた。


どうやら先ほど二人を助けるために矢を放ったのは、この人物のようだった。


そして彼はミィーチェに笑顔を見せると、顔にいくつもしわができていた。


だが、威厳と品格を持ち合わせた顔立ちの者だった。


「そうか……それは良かった」


ビーグルは、森の民に礼を言った。


「助かったぞ。感謝する!」


「ここは、我々がしばらく時間稼ぎをする。その間に避難すると良い……」


その話を聞いたビーグルは驚いた。


(ウッドエルフは、人間にはあまり干渉しないと聞いていたが……どういう事だ?……)


そして森の周囲を見回してから尋ねた。


「………いいのか?」


彼らの回りには、森の奥へ移動する人々の姿があった。


そして、町と森の境目にある木々の一部が燃えているのが見えた。


ウッドエルフの男は険しい表情で、その木々を見つめながら答えた。


「森に危害を加える者には、女神ミエリの罰が必要だ……なに、やられはせんよ……」


男は、近くの木に手で軽く触れた後、今度はその手を地面に持っていった。


そして真っ直ぐな木の枝や落ち葉を、いくつか拾いながら呟いた。


「ここは……我々の領域なのだから……」


男が枝を拾っていると、今度は部下と思われる二人の若いウッドエルフの男が、その人物に近づき話しかけた。


「族長!かなりの賊が、こちらへ向かってきているようです……」


「残念ですが……我々三人だけでは……」


ビーグルは、聞き逃さなかった。


(―――族長だと!?この男……ウッドエルフの族長なのか?……こいつは……良く覚えておこう……」


ビーグルは商売柄、名のある人物の事を覚えておく事が多かった。


(………なるほど……言われてみれば、それらしい感じだ……)


族長と呼ばれた男は、ウッドエルフを率いている人物で、レクスやレファートの父親でもある『ガルーヴァ・ウッドボルグ』だった。


彼は、このオリディオール島に辿り着いていた。


昨日レイアークを訪れ、審議会の人々と会い、他にも島の主要な場所を見て回る予定などがあった。


そして、明日にはビーグルと同じ町、ロンバールへ向かう予定だった。


そして声が聞こえた。


「痛てぇ!……あいつだ。あいつが弓を撃ちやがったんだ!」


先ほどガルーヴァに矢で撃たれた人物が仲間を呼び、森に向けやってきていた。


良く見ると彼らは馬に乗り、弓を持っていた。


ガルーヴァはそんな敵の集団を真っ直ぐ見ながらビーグルとミィーチェに話しかけた。


「さあ、行くんだ!」


その声を合図に二人は動き出した。


「わかった。助かったぜ!」


「ありがとう……」


ビーグルとミィーチェは礼を言うと、すぐに走り出した。


それを確認すると、ガルーヴァは二人の部下に命じた。


「ライアス、ルーディ。敵が来る……あれをやるぞ。タイミングは、お前たちにまかせる……」


「―――分かりました。族長!」


「………はい、おまかせを……」


二人の若きドルイドの戦士は、近くの木の枝に飛び上がった。


それを確認するとガルーヴァは、すぐに先ほど拾っていた、いくつもの木の枝を横に持ち、落ち葉を枝の束の右端に差し込んだ。


そして目を閉じ、魔法の詠唱に入った。


「……イディスの娘、森の女神ミエリよ、森の眷属たる我らに聖なる恩恵を………」


彼の手がぼんやりと黄緑色に光った。


光りは枝の束に染み込んでいった。


そして、ガルーヴァは目を開くと、魔法を発動させた。


「……森の穢れを払う、聖なる破魔の矢を………―――『ウッド・アロー』!!」


彼がそう叫ぶと、枝の束が軋む様な音を立てた。


そして、黄緑色の光りが枝の一本一本に植物の蔓のように、纏わり付くと、先端を削り始めた。


光りは、全体を包み込み、落ち葉と枝が重なった部分に達すると、葉を矢羽のように変えていった。


そして見る見るうちに、木の矢の束が完成していたのだった。



【ウッド・アロー】


ドルイド魔法。


森の女神 ミエリの力を使い、木の枝などで弓矢を作り出すことができる。


狩りで良く使用されることが多い。


通常の矢よりは威力が落ちるが、殺傷能力はある。



そして、敵の集団はウッドエルフに襲い掛かってきた。


賊の男たちは、馬に乗りながら弓を引いた。


「俺らは、レンジャーでもあるんだ!弓の扱いは、負けねぇぞ!」


そして、何人もの男が矢をウッドエルフ達へ向けて放った。


彼らが矢を放つ寸前に、若きウッドエルフの男の一人が隣の木の枝に登っている男に向かって叫んだ。


「―――ライアス、行くぞ!」


ライアスは静かに答えた。


「……ああ」


二人は背中にあったレクスと同じユグドの木でできた槍を手に取ると、勢い良く地面に向けて降下した。


賊たちが一斉に矢を放った。


ライアスとルーディは、槍を両手で地面に刺し、叫んだ。


「―――リーフストーム!!」


森の落ち葉と共に、周囲に風が巻き上がった。


そして風は、敵が放った矢を一瞬のうちに跳ね上げた。


賊たちは驚いた。


「―――なにい!!」


二人のウッドエルフの男が後方へ飛び退くと葉の嵐の中へ、馬に乗った敵の集団が飲み込まれていく。


人と馬の悲鳴と共に、何人かが落馬していった。


「うわあああ!」


そして、なんとか葉の嵐を抜け切ることができた者にも、試練が待っていた。


「………ふぅ……あぶなかっ……―――っ!?」


彼らの視線の先に族長のガルーヴァが冷酷な表情で弓を構え、待っていた。


彼は容赦なかった。


先ほど自身が作り上げた矢の束を背中の矢筒に入れ、片手で3本、素早く抜き取ると、矢を小指から順に弾くように飛ばした。


撃ち出された矢は、次々敵の額を射抜いていく。


「―――がはっ!」


彼の弓は歴代の族長から受け継いできた、ユニークアイテムだった。


そして弓には特殊な効果があった。


それは『サクセッション・アロー』と言われるもので、自身の魔力を消費し、一回弦を引くだけで、最高3回分、矢を同時、もしくは時間差を付けて撃ち出す事ができる効果があった。


しかもガルーヴァは、ウッドエルフの中で一番の弓の使い手だった。


また、この弓は、植物のように生きていた。


濃い緑色の枝に、茨が巻きついており、小さな蕾があり、使用者は契約時に、弓の宿主となるために、自らの血と魔力を与えなければならなかった。


そして花を咲かせると、血のように赤く、そして小さい、野バラが花開く。


また、多くの血を吸い上げてきたこの弓は、能力を成長させていくという。


最初は、一本のみしか、撃ち出せなかったが、代を重ねるごとに、その本数は上がっていった。


そして、この弓は本来、二つ同時に作られた物で、もう一本は彼らの手元にはなく、伝説上の人物が持っていたレジェンド・ユニークアイテムだった。


ガルーヴァが、ある程度敵を仕留めたところで、葉の嵐は治まった。


後続にいた賊たちは苦々しい表情で、森に入ることなく、その前で止まっていた。


「………くっ!」


そしてウッドエルフ達が、武器を構えると、すぐに後ろへ引き返した。


「……くそう!ここは、ダメだ!他の場所へ行くぞ!」


「正面からも奴らが来ているんだ。どうする?」


「相手はたった3人だ。増援を呼べ!そしてお頭に、この事を報告しろ!」


「わかった!」


ガルーヴァは、森の先にある町を見た。


「敵が大量に引いてくる……そうなると、ここが今度は奴らの戦いの場になるだろう……」


ライアスは、不安げな表情で森を見つめた。


「………森が……」


ルーディは、怒りを爆発させていた。


「奴らめ、許さん!」


そんな二人の怒りを治めながら、ガルーヴァは話した。


「二人とも落ち着くのだ……今日は乾燥しているようだ……火が、このまま燃え広がればまずい……」


怒りを治めることなく、ルーディは叫んだ。


「……ならば、なおさら奴らをここで!」


そんな彼の肩に手を置き、ライアスが話しかけた。


「ルーディ……気を落ち着かせろ。族長には考えがおありのようだ……」


ガルーヴァは、無言で頷くと、自分の考えを話した。


「いったんここから引く……そして矢を大量に生み出しておき、色々な場所に配置して、武器を弓に切り替え、隙を見て、両方の賊どもの首領を討ち取り、この戦いを早期に終わらせる……それしかあるまい」


二人は、すぐに返事を返すと、行動に移った。


「……はい」


「わかりました!」


動き出した二人の背中を見つめながら、ガルーヴァは呟いた。


「今宵は、森の民から、森の暗殺者へと変わらねばならんのか……人よ……お前たちは、どこまで強欲なのだ……」


必要以上に殺される動物や植物。


同族同士や身内同士での醜い争い。


底無き欲望を、彼はこの島に来ることで見ることとなった。


その度に心を痛めた。


人の住む町をいくつか見てきてた彼は、人の強欲さを知り、嫌気が差していた。


そんな中起こった、この出来事。


(人の定め事……森の規則……その両方からも逸脱するか……無法の者たちよ……ならば、お前たちのルールで答えてやろう……)


これから更に血で染めねばならない両手を、静かに彼は月明かりの射す、夜の森の中で見つめながら、故郷の森にいる二人の息子のことを思った。


(レファート……レクス……お前たちは、このような戦いに巻き込まれておらんだろうな……そうだと良いが………)


そして、燃え盛る森の木々を見た。


(人は思った以上に……闇に包まれておったよ………だが……我々もまた……)


人が来たことによって、ウッドエルフの世界は広がりを見せることになった。


そして、そのおかげで自分たちは、ハイエルフの国を探すことができる。


人の営みと接触する中で、ガルーヴァは人間の闇も見たが、自分たちよりも強い光りを放つ人物も見た。


深い闇と輝く強い光り。


その両方を併せ持った存在が人だと、彼はこの戦いの最中、気付いた。


(光りが当たる場所が僅かであれば、苗木もまた、歪みを見せるか……)


自分たちの目の前に現れた賊は全て、自身の矢で打ち倒してやろうと思っていたが、人の良い部分も彼は思い出した。


(ならば、全てをやることもないか………だが、森に仇名す者と首領の者は、我が弓で仕留める……)


そして二人の部下に声をかけた。


「ライアス!ルーディ!」


「はい!」


「今宵……我々は、森の暗殺者となるぞ……」


ライアスは静かに闘志を漲らせ答え、ルーディは勢い良く答えた。


「族長、おまかせを……」


「了解しました!」


森の暗殺者たちが動き出した。


夜の森の中を、必死に逃げていたビーグルとミィーチェは、ようやく、賊の追ってこないところまで、逃げ切ることができた。


ウッドエルフに助けられ、逃げる中、後方で木々の揺れる音が聞こえた。


二人は、思わず振り返った。


「………」


「あれは……」


風が起こり、葉と共に上空へ巻き上がっていくのが見えた。


「魔法か?……何が起こっているんだ?」


ビーグルが不思議がっていると、瞬き一つせず、その光景を見つめながらミィーチェが呟いた。


「きっと……ドルイドマジック………」


ビーグルは、彼女を見た後、音がした場所を見た。


「……あれが……なるほど………敵じゃなくて良かったぜ……」


彼がそう呟いたとき、森の茂みの中から馬が勢い良く、飛び出してきた。


―――ヒヒヒイィィィーーーン!


それを見たビーグルは、上手く逃げることの出来る、絶好の機会が訪れたと思った。


そして馬は、彼らの近くまで来ると、速度を落とした。


(こいつは良い……馬が来たのは、ウッドエルフ達と賊共がいる方向だ……という事は、さっきの魔法は、やはりウッドエルフが使ったみたいだな……)


そして馬に近づこうとする。


しかし、馬は鼻息を荒くさせ、飛び跳ねるように軽く走り出したり、歩いたりし出した。


どうやら、気が立っているようだった。


落ち着かせようと近づくと、もう一頭の馬が現れた。


その馬も勢い良く現れた。


そして、すぐに速度を落とすと思ったが、その馬は一直線に森の道を走って行く。


「せっかく二頭の馬を確保できると思ったのに!」


悔しがるビーグルを見たミーチェが突然、走り出した。


「―――あ、お嬢さん!?」


彼女の背中に向かって声をかける。


ミィーチェはかまうことなく、近くの木に向かって走っていた。


そして、両手に抱えて持っているヴァンパイアの人形に話しかけた。


「……私の魔力をあげる……だから……」


ミィーチェは、森の木に人形の足を押し付けた。


すると彼の足は、踏ん張るような形となり、木に張り付いた。


そしてミーチェは、頭上にある、彼の両手を握り締めながら振り返った。


(この前よりも、魔力を込めて………)


そして人形の名を叫んだ。


「―――ゴードン!」


彼女の叫びに答えるように、ゴードンの表情が締まったものとなると、彼の足が光った。


そして力が発動する。


魔法の人形は、力強く飛び上がった。


しっかりとゴードンの手を握り締めると、ミィーチェは再び、勢い良く空中を飛び上がった。


そしてその勢いは、レイアークの町で見せたものよりも、早かった。


彼女は、一気に走る馬の背中の上に辿り着いた。


そして人形に込める魔力を絶った。


するとゴードンは無表情になり、宙に浮いた彼女を瞬時に馬の背中に落とすこととなった。


そして見事、彼女は馬に乗った。


すぐに手を伸ばし、手綱を手に取り、馬を自らの足として支配することにも成功する。


彼女は乗馬を、よくゴレアの本宅の庭で上流社会に生きる者の嗜みとして、やらされていたので上手かった。


ミィーチェは、またしても、得意げな表情になったまま、馬に乗り、ビーグルの元へ来ていた。


そして今度は澄ました表情で、彼に尋ねた。


「どう?……ビーグル……」


ビーグルは驚くというよりは、肝を冷やしたようで、顔が少し青ざめていた。


「……驚かせないで下さいよ……お嬢さん……」


彼女が期待した反応とは違ったのか、ミィーチェは、残念そうな表情になった。


「……そう……」


そして彼女は、ゴードンにも馬の手綱を握らせると、ビーグルに話しかけた。


「……じゃあ、行こう……」


すぐにビーグルは、馬に近づき、上手くなだめると、その馬に乗った。


二人は、ニーフェの森を抜け、北西にあるレイアークの町へ戻ることにした。


木々のない見晴らしのよい夜の草原を、ひたすら二人は馬で駆けた。


振り返り、東の空を見ると、赤く夜空が染まっている場所があるのがわかった。


どうやらエストの町とニーフェの森の一部が燃えているようだった。


ミィーチェは、ゴードンのマントを右手で強く握り締め、その景色を見た。


ビーグルは胸を撫で下ろしていた。


(………あぶなかったぞ……あと少し遅れたら………)


そして、その空を二人で見ていると、ミィーチェがビーグルを真っ直ぐ見つめ、感謝の言葉を述べてきた。


「ビーグル………ありがと……」


ミィーチェは、宿屋で咄嗟に彼が下した判断と、ここまで来れたことに感謝していた。


それを聞いた彼は、少しだけ照れながら答えた。


「……よして下さい、お嬢さん。これが俺の仕事なんです……(そう……俺自身が……光と共にあるための……)」


そして再び二人は、目的の場所へ馬を向け、走り出した。


走る中、ようやく落ち着ける所まで来れたと思ったビーグルは、先ほどの賊たちのことを考えていた。


(あいつら……何人か腕にサソリの刺青があったな……だから、恐らく……島の南東にいる賊だな……)


オリディオール島の南東に山があり、そこを根城にして海賊行為などを主にやっている者たちがいることを、ビーグルは聞いたことがあった。


そして、その者達は、サソリの刺青を好んで入れていると言うことだった。


(じゃあ、北から来ていた奴らは、どこの奴らだろうな……遠くからしか見えなかったから、良くわからなかったな………)


ビーグルがそんな事を考えながら走っていると、二人の目の前を青白い光の矢が飛び去っていくのが見えた。


それを見たビーグルは、思わず声に出していた。


「なんだ、あれは!?」


ミィーチェは、知っていたようだった。


やや強張った表情で、その矢が過ぎ去った場所を見ながら呟いた。


「マナサーチ……」


ビーグルは、それ聞いた瞬間、叫んだ。


「―――しまった!………何者かに捕捉された!!」


彼は今、自分たちがどうするべきか考えた。


(こんな場所でマナサーチか……何者だ?……まあ、どうせろくでもない事の方が多いだろうな……)


そしてビーグルは、ミィーチェに話しかけた。


「お嬢さん!マナサーチを頼めますか?」


ミィーチェは、すぐに頷いた。


「うん、わかった……」


右手を握り締め、顔の近くまで持っていくと、目を閉じ、魔法の詠唱に入った。


そして彼女は、マナサーチを唱えた。


「………マナサーチ」


握り締めた拳を、夜空へ突き上げ、手を開いた。


四方に魔法の青白く光る矢が、勢い良く飛び出していく。


目を閉じたまま、ゴレアの娘は、周囲の様子を伺った。


(………ん)


すぐに彼女は、何かを感じ取った。


「ビーグル……北東から来て、今は後ろについた……しかもたくさんいる……」


「―――なんだって!?」


ビーグルは、すぐに後方を見た。


「………あれは……」


既に、黒い影の集団が近づいてくるのが、ぼんやりとだがわかった。


(………何者かが来る……)


ビーグルは、ミィーチェに話しかけた。


「お嬢さん……嫌な予感がします。レイアークまでは、あと少し……なんとか逃げ切れるよう、飛ばしましょう!」


ミィーチェは、頷いた。


「うん……飛ばす……」


彼女がそう言うと、ゴードンが口を真一文字に結び、両方の眉を寄せていた。


そして、二人は謎の集団から離れるために、馬の速度を上げた。


だが、相手もそれに気づいたのか、速度を上げてきたようだった。


それに気づいたビーグルの心は焦った。


(やばいな………向こうの馬の方が足が速いみたいだ……追いついてきてやがる……)


謎の集団が先ほどよりも近づいてくるが、夜空に雲がかかっていたため、相手が何者なのか、相変わらず分からないままだった。


(月明かりが無いから、まだ見えないな……)


しかし、相手がじりじりと近づいてくる事で、その正体が分かり始めた。


正体が分かった途端、ビーグルは、顔をしかめた。


「悪い予感が当たりやがった………」


先ほどから、二人を追いかけてきたのは、夜盗の集団だった。


エストの町で見かけた者たちと、同じ姿をしていた。


彼らは西のレイアークの自警団に、情報がいかないように、見張っていた者たちだった。


表情一つ変えることなく、彼らは迫ってきていた。


(あいつら……戦争でもおっぱじめるつもりか……どれだけ、奴らはいやがるんだ……)


ビーグルがそんな事を考えていると、弓矢が一本、彼の近くをかすめた。


―――ヒュッ!


ビーグルは思わず声を上げた。


「―――うお!撃ってきやがった!」


ビーグルは、ミィーチェに注意を喚起しようと顔を彼女に向けた。


「お嬢さ……!?」


すると、ミィーチェの手の平から、魔法が撃ち出されていた。


「―――大地よ……魔弾を解き放て……―――ロックシュート!」


ゴレアの娘によって、撃ち出された魔法の岩は見事、弓を持った人物に当たっていた。


当てられた男は、夜の草原に弾かれる様に落ちた。


ビーグルは、感謝の言葉を述べた。


「助かります。お嬢さん!(流石は……魔法学院の魔道師だ……)」


ミィーチェは、無言で頷いた。


そしてビーグルを見た彼女は、何か気づくと、彼に話しかけた。


「……ビーグル」


ビーグルは、後方を気にしながら答えた。


「どうしました?お嬢さん」


「私の荷物……捨てて……」


「……いいんですか?」


ビーグルに尋ねられたミィーチェは、手綱を握っているゴードンの頭を軽く撫でると答えた。


「また買えば良い物ばかりだから……いらない……(ゴードンさえ……いれば……)」


彼女はそう言ったが、「自分を助けるために、そう言っているのだ」と、ビーグルには分かった。


すぐに感謝の言葉を述べ、捨てる準備に入った。


「……わかりました。俺のために、ありがとうございます!」


ビーグルは、貴重品が入った皮袋をすばやく抜き取ると、大きなカバンを放り投げた。


「………おらよっと!」


カバンは小さな放物線を描き、近づいてきた敵の肩に当った。


地面に落ちたカバンから中身が周囲に飛び散っていた。


当てられた男は、二人を睨み付け、殺意を込めて叫んできた。


「―――いてえ!おい、待ちやがれ、てめぇ!」


先ほどよりも、更に敵は近づいてきていた。


完全に相手の姿が見えるほどだった。


ビーグルは歯を食いしばり、馬の手綱を強く握り締めた。


(―――追いつかれる!!)


そして近づいてきた敵に、再びミィーチェが馬に乗りながら、魔法を放とうとしたとき、走っている二人の前方から人影が現れた。


それに気づいたのは、ビーグルだった。


(……まずい!正面からも、きやがった!!)


視線の先にいるのは、どうやら一人だけのようだった。


(一人か……なら上手くいけば、なんとかなるかもしれん)


ミィーチェが再び、ロックシュートの魔法を放った。


「―――ロックシュート!」


だが、敵に当たることはなかった。


そして、ビーグルが前方に新手が現れたことをミィーチェに告げると、彼女はすぐに正面を見た。


(間に合わない……)


影の形からすると、どうやら正面の者も馬に乗っているようだった。


そして、二人が前にいる人物を見ていると、雲の隙間から月明かりが、差し込んだ。


その光は、正面の人物に当たり始める。


最初に分かったのは、その人物の顔だった。


まだ完全に見える位置ではなかったため、詳しくは分からなかった。


ビーグルは馬に乗りながら、目を細め、相手を見た。


(女か?……)


その人物は、目線を下にしているため、良くはわからなかったが、繊細で綺麗な顔立ちをしているようだった。


月明かりが強く、その人物の髪を照らした。


(白い髪……)


そしてその者は、二人に気づいた。


顔を上げ、正面を見た。


そこで体が現れ始めた。


ミィーチェは、その人物の性別に気づいた。


(男の人……)


月明かりが、その人物の全体を照らすと、マントで全身を覆い、馬に乗っている姿が見えた。


そして、顔立ちは美しい顔をしていたが、肩幅の広い体であることがわかったため、ミィーチェはすぐに男だとわかったようだった。


男は、ミィーチェとビーグルを見た。


(………ん、あれは……)


魔道師と思われる少女と、商人風の中年の男の姿が見え、奥にはさらなる人影があった。


男は、一瞬でどういう状況なのか気づいた。


(夜盗に追われているみたいだね……だけど、僕には関係ないかな……)


だが、自分の進む道の先から来るため、どうやら避けて通ることは難しそうだった。


男は軽く息を吐いた。


「………はぁ、しょうがないね……僕は本来、雑魚とは戦わないんだけど……」


そう言うと彼は、右腕を背中へ伸ばした。


その人物は、背中に大きな大剣を背負っていた。


軽々と片手でその大剣を引き抜いた。


大剣が月明かりに照らされる。


すると、刀身にいくつものルーン文字が掘り込まれているのが見えた。


そして謎の男の左手の辺りが、もぞもぞと動き出し、マントを軽く動かした。


男は、なぜかその動いた場所に向かって謝った。


「おっと、起こしてしまったみたいだね。ごめんよ……『エメラーダ』」


正面の人物の詳細が分かる所まで二人がたどり着いた時、ビーグルは、その男が誰であるのかに気づいた。


「………あいつは………」


そして名を叫んだ。


「―――ラグレス!!」


その人物は、人間の中で最強と言われる戦士、ラグレス・オリュムだった。


彼もまた、オリディオール島に帰ってきていた。


そしてゼグレムが東の大陸レムリアにいる事を聞き、バルディバへ向かっている途中だった。


ラグレスは、名を叫んだ商人の男を見た。


(知らない男だ……だけど、僕の事を知っているなら話は早いね……)


彼は、自分の目の前で止まった二人に、話しかけた。


「君たち……追われてるんだろ?」


ミィーチェは頷き、ビーグルは答えた。


「そうだ!俺たちは、ゴレアの者だ!悪いが助け……」


ビーグルの言葉を遮るように、ラグレスは話した。


「………どうでもいいよ、そんな事……それより、さっさと行きなよ。君たちが邪魔になって、この剣が振れないだろ」


ラグレスは美しい顔を不気味な笑顔で歪ませた。


その不気味さに、二人は一瞬体が硬直してしまった。


(なんて奴だ……戦いを楽しんでやがる………)


ミィーチェは、初めて見たラグレスから狂気を感じ取った。


(この人……)


そして賊の矢がラグレスに向かってやってきた。


ラグレスは大剣を軽々と振り下ろし、その矢を両断した。


その音によってミィーチェとビーグルの硬直が解けた。


そしてビーグルがミィーチェに向かって叫んだ。


「―――お嬢さん、行きましょう!」


その声を合図に、ミィーチェは馬を走らせた。


ビーグルが後に続く。


そしてビーグルが振り返ると、ラグレスが賊の集団に向かって剣を振り回しているのが見えた。


何人かの賊の男が宙を舞っていた。


賊の男達は、すぐに気づいた。


「やべぇ……誰かと思ったら……」


「……こいつ……」


「―――ラグレスだー!」


ラグレスは剣を正面の敵に向けた。


「覚悟しなよ……君たち……殺意を抱き……戦いを僕に向かって始めたんだから……」


「お、おい、ラグレス、俺たちも馬鹿じゃねぇ。お前さんと、戦おうなんざ……」


ラグレスは、彼らの主張を聞くことなく、話し始めた。


「僕は、お前たちみたいな奴らが、特に嫌いでね……強い者とは戦わず、弱い者を見つけては、奪い取る……それを繰り返しているんだろ?……どうしようもないクズじゃないか……」


「なんだと!」


「おい、よせ!」


一人の男が怒り、反論しようとしたのを隣の賊の男が、それを止めた。


そして止めた男がラグレスに、遠慮がちに話しかけた。


「ラグレス、俺たちは、お前と戦うようなことはしない。お前が言うとおり、強い奴とは戦わないことにしているんだ。だから……」


それを聞いたラグレスは、少しだけ笑い声を上げた。


「ふふふ………自分たちがどうしようもない人間だってことを認めるのかい?」


「こいつ……!」


「やめろ!……こいつとは絶対に戦うな……殺されるぞ……」


ビーグルとミィーチェを追っていた賊たちが、必死なってラグレスとの戦闘を回避しようと、話していると、彼らの後方から、新手の賊が何人か現れた。


そして先頭を走っていた者が、叫びながら近づいてきた。


「おい、何やってる!さっきの二人を追っていないのか!」


男は、周囲に倒れている仲間を見つけた。


「………これは……おい、どういうことだ!」


ゆっくりと前に進み、ラグレスが見えるところまで来た。


「………あいつは……―――ラグレス!」


ラグレスは、冷たい笑みを浮かべながら、新手の男に話しかけた。


「おや、また増えたね………ろくでなし共が……ふふ……」


「おい、迂回して、さっきの奴らを追いかけろ!」


「無理だ。もう遅い!追いつけねぇ」


「ちっ!なら引くぞ!町の南の森で何者かが両方を殺して回っているって話だ。助けに行くぞ!」


賊の男達は、すぐに引き返し始めた。


ラグレスは、大剣を握り締めたまま、そんな彼らを冷たく見つめていた。


(………どうする……こいつらを………殺るか?……)


剣を握る力を強くした。


そして、馬の腹を蹴ろうとしたとき、左手に抱えていたものが、またしても、もぞもぞと動きを見せた。


「………ん」


それを見たラグレスは、剣を背中へ戻し、彼らを追うのを止めた。


(………運が良かったね……君たち……今日はこれで終わらせておいてやるよ……)


そして彼は、マントをめくり、左手に抱えているものを見た。


それは、月明かりが当たると泣き声を発した。


ピイィィィー!


「………起こしてしまったみたいだね。ごめんよ……」


彼の左腕には、ふわふわの綿毛のような淡い黄緑色の羽で覆われた鳥の雛がいた。


よく見ると、通常の鳥の雛の何倍もの大きさがあり、足の爪とクチバシが非常に鋭く、ラグレスは左手に、皮の手袋と腕には皮のガントレット(籠手)を装備するほどだった。


この雛は、ユラトが初めてラグレスと出会った時に、彼が手に入れていた青銅の怪鳥『スタンファロス』の卵が孵化したものだった。


ユラト達と別れ、ウディル村にたどり着く寸前に、彼の腕の中で怪鳥の卵にひびが入った。


「………おや?……」


そして、小さな泣き声と共に、殻を自ら破りながら出てきていた。


目を開け、最初に見た生き物は、バルガの血が半分入った孤独の戦士だった。


しばらく動くことも、瞬きすることもなく、ラグレスを見つめた。


「おいおい……卵のまま、持って帰りたかったのに……これは困ったよ……」


困惑しているラグレスをよそに、スタンファロスの雛は、彼をこの世界で唯一の親だと心に刻み込んだ。


そして小さく短い声を元気よく発した。


「ピー!」


ラグレスは、どうするか考えた。


(面倒なことに、なったね………)


彼はこのまま、ここに置いていこうかと一瞬思った。


(僕は、君をかまっている暇はないんだ……だから……)


しかし、彼はここで幼少のころ、鳥の巣から落ちた雛を飼おうとした時の事を思い出した。


(……あの時、僕は……)


ラグレスは、雛を飼っていいか、母親に話に行った。


そして許可を貰えたので、すぐに雛の所へ向かった。


向かう途中、名前を考えた。


「何にするかなー」


他にも、大きくなった時の事や、共に遊んでいる時のことなど、楽しいことがたくさん浮かんできては消え、心が躍った。


(忙しくなるぞ!)


自然と足が進み、いつの間にか、走っていた。


そして『ガルーダ』と言われる神鳥の名を思い出した。


(あの鳥は、ガルーダみたいに、強くなって欲しいな……)


そして成長すると綺麗な緑色の鳥だったので、宝石のエメラルドの名を少し加え、『エメラーダ』と名づけることにした。


「力強く空を飛ぶ、翠玉の鳥……うん、これはいいかもね!」


そして彼は、たどり着いた。


「………あっ……」


鳥の雛は、既に鳴き声を発していなかった。


近づき、手にとって見た。


どうやら落ちたときの衝撃が致命傷になっていたようだった。


「………ああ……」


鳥の雛はラグレス少年に、その名を呼ばれることなく、この世を去った。


この時ラグレスは、初めて命の儚さを知った。


(なんて脆いんだ……こんな事で死ぬなんて……)


そして彼は、初めて墓を作り、その雛を弔った。


目を閉じ、祈りながら、ラグレスは暴走する父親の事を思い出していた。


(僕たちは体が君達より強いけど………心は弱いのかもしれないね……まあ、ここでゆっくり休んでおくれ……)


祈り終えたラグレスに悲しさが、やってきた。


「はぁ……なんか悲しくなっちゃったよ………やっぱり、生き物を飼うのはよそうかな………」


その後、彼は生き物を飼うことはなかった。


あの日の事を思い出したラグレスは、雛を見つめ呟いた。


「いま気づいたよ………あれから、ずっと僕は、君の事が心の奥底で心残りとして存在したんだ………」


たまに、力の衝動に駆られる自分の心の中には、いくつもの穴があることをラグレスは知っていた。


(一つずつ……この僕の心に開いた穴を埋めていけば……この苦しみから解放されるのかもしれない……)


ラグレスは、笑みを浮かべた。


「ふふ……わかったよ……君を一緒に連れて行くことにしよう……」


そして彼の中で、この鳥の名前は決まっていた。


「今日から君の事を『エメラーダ』と呼ぶことにするよ……」


ラグレスは、雛をマントで包み、持ち上げた。


「さあ、行こうか……エメラーダ……僕は最強の戦士となり、君は最強の怪鳥となるんだ………ふふふ……面白い旅になりそうだ……」


こうして彼は、青銅の怪鳥スタンファロスの唯一の肉親となる事を決めた。



ラグレスは、この鳥と出会った日の事を思い出していた。


「あれから……少しだけ日にちが経って君も成長したもんだ……もう大丈夫だよ、エメラーダ……邪魔者は皆、どこかへ行ったよ……安心してお休み………」


雛の頭を優しく撫でると、エメラーダは目を閉じた。


そして、再び眠りについたようだった。


それを確認するとラグレスは、マントを軽く上からかけてやった。


そして、ラグレスは、道の先を見た。


「さあって……行くかな……心の隙間を埋める旅は、まだまだ続きそうだ………ゼグレム……君が一番大きい隙間を埋めてくれると、僕は信じているよ……」


最強と言われる戦士は、もう一人の最強の人物を求め、夜の草原の中を馬で駆け抜けていった。



突然現れたラグレスによって、賊の集団から上手く逃げることが出来たビーグルとミィーチェは、その後、何事も起こることなく、無事にレイアークの町にたどり着けることができた。


そしてビーグルは、ミィーチェを学院の寮へ送り届けた。


寮母のリーネ・パルトワに呼ばれたシュリンは、眠い目を擦りながら現れた。


「………どうしたんですか?……まだ朝じゃない……れすよ……」


シュリンは眠気のためか、口も上手く回っていないようだった。


そんなシュリンに、リーネは話しかけた。


「ちょっとマーベリックさん!あなたのルームメイトのゴレアさんが帰ってきたのよ!しかも、エストの町で何かあったみたいなの!」


リーネに強く言われても、シュリンはまだ眠いのか、寝ぼけているようだった。


「……え、ミィーちゃん?……ミィーちゃんは……(眠い……)ロンバールの実家に帰ったところですよ……ふあぁぁ……」


未だに眠い様子のシュリンを見たリーネは、彼女に近づくと、両肩に手を置き、軽く揺らし始めた。


「何を言っているの!もう帰ってきて、寮の入り口にいるのよ!寝ぼけていないで、迎えにいってあげて頂戴!」


肩を揺らされミィーチェが帰ってきたと言う言葉を二度聞いたところで、ようやくシュリンは少しだけ眠気が飛び、寮母の言葉が頭の中に入ってきた。


そして彼女は驚いた。


「えっ………ええっ!?」


「詳しくは、ゴレアさんから聞いて!あたしは朝早く用事があるから、もう寝るわ。あとは頼んだわよ!」


リーネは、シュリンにそう言い残し、自分の部屋へ戻っていった。


シュリンは、すぐに寮の入り口へ向かった。


(うそ……どういうこと?)


そして、入り口にたどり着いた。


「………あっ!……」


彼女の視線の先には、少し薄汚れた姿でゴードンを抱いたミィーチェとビーグルがいた。


「シュリン……ただいま……」


シュリンは、目を丸くして驚いていた。


「………帰ってくるの……―――はっや!」


迎えに来たシュリンを確認すると、ビーグルは話した。


「確か、シュリンと言ったな。お嬢さんを、あんたにまかせるぞ」


「え、え?」


シュリンは、まだ理解できていないようだった。


口を開け、目を瞬かせていた。


そんなシュリンに構うことなく、ミィーチェはビーグルに話しかけた。


「ビーグル……ありがと……そして、おやすみ……」


ビーグルは暗く静まり返った学院の敷地内を見渡してから、ミィーチェに話した。


「おやすみなさい……お嬢さん。今日はゆっくり休んでください。自分は、自警団にエストの町の事を連絡してきます………それでは……」


「うん……」


ミィーチェが頷くのを確認すると、ビーグルは二人に背を向けた。


そして、素早く馬に乗ると、自警団の詰所へと向かった。


ビーグルが去った後、ミィーチェが呆然としているシュリンの手を引っ張った。


「シュリン。行こ……」


そこでシュリンは、現実に引き戻された。


「あ……ミィーちゃん!」


ミィーチェは、大きな声を出したシュリンに向かって、ゴードンの手を口に当てながら話しかけた。


「しー……シュリン……ここじゃ、迷惑がかかる……部屋に行こ……」


シュリンは、小さな声で返事を返した。


「うん、わかった……だけど、ちゃんと話してよ!」


「大丈夫……ちゃんと話す……色々あった……」


ミィーチェの言葉に、シュリンは興味を持ったようだった。


「え!?なになにー!」


彼女の後に、急いで付いて行った。


そして二人は、学院の寮の中にある、自分たちの部屋へと向かった。



学院の敷地を馬で走るビーグルは、色々と考えを巡らせていた。


(……最悪だ……まさか、こんな事になるとはな………)


そして今後の事を考えた。


(このままだと、バンゲリス様の葬儀に、間に合わなくなってしまうぞ……だが……)


ビーグルは、ミィーチェの事を思った。


(……父親のあんな姿……見ない方が、ある意味、いいのかもしれん……)


そして、町の区画に出てきた。


(とにかく自警団に、この事を知らせるか……事態が早く終息する事を願って……)



ビーグル・リーゲンによって、エストの町の出来事は自警団に伝えられた。


そしてその情報はすぐに、この地域の治安を守る責任者であるジェラルド・ダルグレン自警将にも伝わった。


ジェラルドは直ちに、レイアークの町にいる団員をかき集め、最低限の人員を残し、自らが先頭に立ち、エストの町を目指した。


そして彼が到着した時には、両方の賊の頭は3人のウッドエルフによって倒されていた。


しかし、それは、いくつもの小さな賊の集団を生み出す事になってしまった。


それぞれが好き勝手に、周囲の町や村を襲い始めた。


そのため、ゾイルとマルティウスの境目の地域一帯は、混乱が生じてしまい、治安を回復するのに日数を必要とする結果となった。


その間、エストからロンバールへの道は封鎖されたため、ミィーチェとビーグルは、しばらくレイアークの町に滞在することになった。


その間にアレクがいるロンバールでは、バンゲリスの葬儀や後継者の指名の儀などが執り行われた。


ミィーチェは、通常通りの学院生活を送り、ビーグルは、ロンバールへの道が通じるか、毎日調べていた。


そして数日経ったある日、ようやく治安が回復し、ロンバールへの道の封鎖が解かれ、ミィーチェとビーグルはアレクのもとへ向かった。


そして二人は無事に、たどり着くことができたと言うことだった。



説明を聞き終えたアレクは、ビーグルに礼を述べた。


「ビーグル……妹を守り、ここまで来てくれたこと……感謝する……」


「いえ……若……自分はゴレアに所属する者として、当然の事をしたまでです」


ロナードもビーグルの肩に手を置き、礼を述べていた。


「良くやったぞ……ビーグル……お前を行かせて正解だったな」


そして、ビーグルの後方から馬車を降りたミィーチェが、やってきた。


アレクは、久しぶりの妹を見て、笑顔になった。


そして、彼女の名前を叫んだ。


「ミィーチェ!!」


名を家族に久しぶりに呼ばれたミィーチェは、兄のアレクを見た。


「あに………」


心が開放され、安堵する気持ちがあらわれた。


すると、彼女は今まで色々あったことが恐怖や悲しみとなって、込み上がって来るのを感じた。


兄に近づく足が、小走りになった。


そしてゴードンを抱きしめたまま、彼女は兄の胸に飛び込んだ。


今までの思いや感情が溢れ出た。


「うっ……ぐすっ……」


普段は、あまり感情を表に出す妹ではなかったため、アレクは少し驚いた。


「ミィー……」


しかし、すぐに彼は肩を震わせる妹へ、両腕を伸ばすと、しっかりとミィーチェを抱きしめた。


彼女が大変な思いをして、ここまでたどり着いた事や、しばらく会えなかった事などを思った。


アレクは、この数日間ずっとすることの無かった優しい兄の顔になり、たった一人の妹に囁いた。


「辛かっただろう……そして心細くも……あっただろう……だけど、もう大丈夫だ……みんなここにいる……そしてお前も、ここにいるんだ……良く帰ってきた……おかえり……ミィーチェ……」


妹の頭を優しく撫でてやった。


ミィーチェはアレクの腕の中で、小さく返事を返した。


「ただいま………あに……」


妹を抱きしめながら、アレクは思った。


(ミィーチェ……お前のことだから、ずっと言えずに我慢していたんだな……)


アレクはミィーチェが、ほとんど顔に出すことなく、無理をする性格であるのを知っていた。


(だが、今は我慢しなくていいんだ……)


緊張の糸が切れたミィーチェは、涙を流し続けた。


この家に既にいなくなってしまった母。


いつも優しかった父。


二人が最後に見せた笑顔。


それを思い出しながら彼女は泣いた。


そんな妹を見ながらアレクもまた、既に他界した両親の事を思い出した。


(……俺たちに親と呼べるものは、もういない……たった二人になってしまった……だけど、それでも、お前が生きているのなら……まだ、やれるさ………いや……やらなくてはならないのだ……)


アレクの中に力が湧き上がった。


二人の近くにいたロナードは、久しぶりに帰ってきたミィーチェを孫を見るように目を細め、黙って見ていた。


(この前お会いしたときよりも、少しばかり成長されておられますな………年々、奥様……リーザ様に、似てきておられる……よくぞ、お戻りになられました……このロナード、大変嬉しく思います……お嬢様の成長と、ご無事であられたことに……)


ロベルはミィーチェの無事を喜び、ビーグルは二人の兄弟を静かに見ていた。


(………これが……全うな家族ってもんなのか……羨ましいぜ……だが俺は、これに関わる事が出来たんだ……なら俺の進んでいる道は、正しいものなんですよね?バンゲリス様……)


そして、その日ゴレアの家では、ささやかな食事会が催された。


この館の料理長が久しぶりに返ってきたミィーチェのために、腕によりをかけた食事がテーブルを所狭しと、うめていった。


そこにはビーグルやロナードなども共に座り、食事を共にすることとなった。


そして、もう一人、本来は座る予定だった者がいたが、その人物はビーグルがレイアークから、この館へ帰ってきた時には既に姿を消していた。


それはネクロマンサーを目指している人物、ニバル・ハイエだった。


ロナードの話によると、ビーグルと共に説明のために訪れた彼だったが、ビーグルがレイアークの町に向かった日に、姿を消したということだった。


ビーグルは葡萄酒を飲みながら、そのことについて考えていた。


(あの爺さん……何を考えているんだ?………まあ、自宅のある場所については、大体わかるからいいか……何か必要になったら、訪ねることにしよう……)


ビーグルは、群島からオリディオール島に向かう船の中で、彼の自宅の場所を大まかだったが聞いていたのだった。


(確か……ニーフェの森の奥深くとか言っていたな……)


そして酒を飲み干したところで、彼の正面に座っているアレクが手を組み、両肘をテーブルにつけると、鋭い目つきで尋ねてきた。


「………ところでビーグル。お前は……マルベーラと私……どちらに付く?」


突然のことで彼は、どう答えてよいかわからなかった。


(……そういや、あの女と若は、戦うことになったんだったな……俺は……どうする?)


ビーグルは、考えた。


(単純に勝ちたいなら、あの女だろ……どう考えても……西を押さえ込まれたのは、厳しすぎる……それに、若は経験不足だしな……)


今まで、自分は不利な戦いはしてこなかった。


それが自分が生きた世界で生き残る鉄則だった。


(………だが……あの女が勝ったとしたら……)


レイアークの情報屋から聞いた話を思い出した。


(再び……闇の世界に戻るだけだ……じゃあ、俺は何のためにこのゴレアで頑張っていたんだ?……)


だが、いま一つ踏み込む事が彼は出来ないでいた。


(……だけどよ……どう考えても、若に付いていくには……)


考え込んでいるビーグルを、アレクは真っ直ぐな瞳で見ていた。


(ロナードから聞いたが……裏の世界にいたらしいな……この男……不利な私と有利なあの女を対等に思って考えてくれているのか……)


アレクは、そんなビーグルに話しかけた。


「ビーグル、西は諦めて、俺は青き海へ出て行く。レムリアと、まだ明かされていない世界に活路を見出すことにした。その為にも、お前が上手く支配している、あの島が拠点として必要なんだ……だから、手を貸してくれ、頼む!」


アレクに、そう言われたビーグルだったが、彼は即答を避けた。


自身の中に沸いた不安を拭い去ることが出来なかったからだった。


「少し……時間をください……申し訳ありません……」


「いや、かまわん……ゆっくり考えてくれ……とは言っても、時間はあまりないかもしれんが……」


そしてビーグルは、アレクに即答できなかった詫びとして、レイアークの町にいた情報屋から聞いた話しを彼にした。


それは、マルベーラが裏の世界の人物と手を組み、その市場などを狙っていると言う話だった。


それを聞いたビーグル以外の者たちは驚いた。


ミィーチェやロナードは、顔を険しくし、アレクはテーブルを叩いて立ち上がった。


「………なんだと!?あの女……どこまで、ゴレアを汚すつもりだ………」


そこで皆、食欲が無くなり、誰も食べることをしなくなった。


そしてその日の食事会は、後味の悪い結果を残して終わることとなった。



次の日、アレクとミィーチェはロベルを伴い、父親が埋葬されている場所へと向かった。


そこは、ロンバールの町の北側の森の中にある場所で、オリディオール島の有名だった人物たちや、裕福な者たちのみが埋葬されている墓地だった。


また、歴代のゴレアの人々も、そこに葬られている場所でもあった。


ゴレアの為に、用意された墓の土地は大きく、通常の家の何倍もの面積がある敷地に、立派な白い石造りの建物の中に、父と母は眠っていた。


穏やかな春の太陽の光が、部屋の中に差し込み、建物の周りには、草花が咲き、蝶が舞い、数匹の蜜蜂が忙しく働いている姿があった。


アレクたちは光の差し込む、真っ白な空間に花束を持って、父親の墓石の前に立っていた。


アレクが父の眠る墓を見つめていると、ミィーチェが花束をそこに静かに添えた。


そして目を閉じ、父のために彼女は祈った。


昨日たくさん泣いたためか、彼女の気持ちは落ち着いているようだった。


その姿を見てアレクは安堵した。


(………もう大丈夫みたいだな……またお前が悲しむのを見るのは辛い……)


そして彼女は、立ち上がった。


ミィーチェは隣にある、母の眠っている墓も見つめた。


(お母さん……)


アレクは、妹の肩に手を置いた。


「ミィー……大丈夫か?」


ミィーチェは呟くように返事を返した。


「………大丈夫……だから……もう……」


ミィーチェは、母の墓を見るのは、今回が初めてだった。


ずっと母の死を認めることができなかったため、ここに来る事がなかった。


だが、学院での生活が彼女を成長させていた。


彼女は母の墓に来ることで、ようやく、その死を受け入れたのだった。


悲しさが再び込み上げてきた。


しかし、ミィーチェは、それを堪えながら父と同じように、祈りをささげた。


(………学院で友達できた……頑張ってるから……あにの事も助ける……だから……見守っていて……)


そしてミィーチェは、母に貰ったゴードンを抱きしめながら、母の墓石に触れた。


―――ピィィィーーン!


その時、墓石から音が鳴り響いた。


耳の中を突き抜けるような高い音だった。


アレクたちは、驚いた。


「―――これは!?」


すると、今度はゴードンが光を発し始める。


ミィーチェは、すぐに立ち上がった。


「―――えっ!……」


そして、ゴードンの光っている部分を見た。


どうやら、彼の体の一部分が発光しているようだった。


ミィーチェは、彼のマントを取り、服を脱がせた。


すると、ゴードンの胸の中あたりが光っていた。


「中に何か入っているのか!?」


アレクが咄嗟に叫んだ。


ミィーチェは、ゴードンの背中を開き、中を開けてみた。


(この中には……確か……)


そこには、母から貰った形見の指輪が入っていた。


見ると、その指輪の石が光っていた。


ミィーチェは、おもむろにその指輪を取り出した。


指輪には、『アメトリン』と言う宝石が付いていた。


これは、アメジストとシトリンと言う石が合わさっている物で、淡い紫色と淡い黄色の二色で構成された石だった。


「お母さん……」


ミィーチェは、その指輪を指にはめた。


指輪は光り続けていた。


アレクには何が起こったのか分からなかった。


「………どういうことだ!?……何が起こっている?」


アレクとミィーチェが驚いていると、二人の後ろに控えていたロベルが何かを感じ取った。


そして、後ろ側にあった墓を指差し叫んだ。


「若様!ミィー様!あそこから音が聞こえます!」


二人はすぐに、彼の指差す場所を見た。


「あそこは……」


「………」


そして3人は、その場所へ向かった。


「確かに音が、ここからするな……」


アレクがそう呟いていると、ロベルとミィーチェが、墓を調べ始めた。


そして、ロベルが何かに気づく。


「―――若!ここに、何か模様があります!」


それは、墓石の裏側だった。


僅かに何か模様が薄っすら描かれているのが分かった。


アレクは、そこへ近づき、その模様を手で触った。


(……何が描かれている?)


パラパラと粗い砂のようなものが、地面に落とされていく。


(この模様は……?)


そして描かれた模様が浮かび上がった。


それは赤く細い何本もの糸で、ヒトデを形作ったようなものだった。


墓石の裏側に貼り付くかのように存在していた。


そして絵を良く見ると、炎のような揺らぎが見えた。


アレクは、驚いた。


「僅かに動いている………なんだ?これは……」


「あに……ちょっと見せて……」


ミィーチェが、いつの間にか隣に来ていた。


そして彼女は、描かれている真っ赤な謎の模様に、指先を触れさせようとした。


「―――よせ、ミィーチェ!」


アレクが慌てて止めに入った。


彼は、この模様から禍々しさのようなものを感じ取った。


(何か……危険なものじゃないのか?……)


二人に、ロベルが話しかけてきた。


「あの……じゃあ、僕が……」


「お前も駄目だ、ロベル。見たところ、魔法か何かで出来ているようだ。何かの呪いかもしれん……だから……」


アレクがそう言ったとき、ミィーチェが再び、手を謎の絵に近づけていた。


「………」


「よすんだ、ミィーチェ!」


兄の言葉を聞いても、彼女は手を絵に近づけた。


「大丈夫……お母さんは……そんなことしない……」


ミィーチェは、母が何かを言いたがっていると、思ったのだった。


そして指先は、その絵に触れた。


アレクとロベルは、息を呑んだ。


「………」


ミィーチェが触れても、特に変化は起こらなかった。


男二人は、胸を撫で下ろした。


「あまり無茶をするな……ミィー……」


「ミィー様………」


ミィーチェは、食い入るようにその絵を見つめながら、手でなぞった。


模様の中心に、アメトリンがはめ込まれているのが見えた。


(同じもの………)


そして、彼女は何かを思い出した。


「………これ……大図書館の本で見たものに……似てる……思い出した……」


アレクは、すぐに尋ねた。


「……知っているのか?」


ミィーチェは頷き、そして話した。


「これ……『血の封印』って言うもの……」


「血の封印………」


「この絵の中心に、この指輪と同じものが、はめ込まれてる……多分、お母さんの墓にもある……」


そこでアレクは気づいた。


「3つのセットアイテムか!」


ロベルが二人に話しかけた。


「つまりセット効果が発動したってことですか?」


頷くミィーチェ。


「うん……」


アレクはミィーチェと同じように、赤い模様に触れた。


何か、懐かしいような感覚が彼の心に訪れた。


母に再会したような、そんな感覚でもあった。


そして彼は、そんな感覚を抱きながら、妹に話しかけた。


「………だが、これは音を発するだけなのか?」


「この指輪の石は、それだけかも……だけど……血の封印は別……」


彼女の説明によると、血の封印を解くことで、何かが作動する可能性があると言うことだった。


そして彼女は話を続けた。


「多分……この絵のついた墓の中に……何かある……」


気になったアレクは、どうすれば解けるのか、妹に尋ねた。


「どうやって解けばいい?」


「ゴレアの血を絵の中心に付ければ解けるはず……」


それを聞いたアレクは、ロベルに尋ねた。


「ロベル、何か持っていないか?」


ロベルは、懐から、護身用のナイフを取り出した。


「………えっと……これならありますけど……どうでしょうか?」


アレクは、ナイフを受け取った。


「それで、かまわん……」


すぐに手に取ったナイフで、自身の親指に刃先を軽くゆっくりとつけた。


「………っ」


アレクの親指から、ほんの少しだけ、血が流れ落ちた。


若きゴレアの血だった。


そして、彼は親指を墓石の裏に描かれている赤い模様の中心に、近づけた。


白い石に囲まれた部屋に日が入ることで、周囲はより白く輝いている。


そして、そこに真っ赤な模様と、彼の指先から流れ落ちる赤い血。


腕を伸ばすことで、ロベルの顔にアレクの影が現れた。


ロベルは、アレクを見ていた。


(この人は……ゴレアの後継者なんだ……そして僕は……この人と共に、これから始まる何かを成し遂げる為に、先へ進むんだ……それは、きっと……きっと……凄いことなんだ!……そんな気がする………)


ロベルにとって、その光景は神々しくもあり、自身の人生にとって重要な出来事の始まりだと思った。


ミィーチェは、兄を無言で見つめていた。


(あに……)


そしてアレクの指は、血の封印にたどり着いた。


指が赤い封印に触れた瞬間、アレクの体に、電撃を喰らったかのような衝撃が走った。


「―――くっ!」


それを見たミィーチェとロベルは驚き、思わず駆け寄った。


「……っ!?」


「―――若様!」


アレクは、そこから微動だにせず、苦笑しながら答えた。


「………ふふっ……少し痛みがあっただけだ……大丈夫だ……」


そして彼が、そう言い終わった後、アレクが触れた赤い模様は、ガラスが割れるかのように音を立てながら、大きないくつかの断片となって、その場に崩れ落ちていった。


すると、今度は墓石の下の部分が、指を押し当てた方向へ、動き始めた。


石と石が擦れるような音を出しながら、ゆっくりと動き出した。


その光景を、アレクは黙ってみていた。


(血の封印か……一体……何が……)


石の墓石がずれていき、墓の中が見え始めた。


3人は、そこへ近づくと顔を覗かせる。


最初にミィーチェが呟いた。


「………暗い」


一緒に中を伺っていたロベルがミィーチェに話しかけた。


「まだ何も見えませんねぇー。ミィー様」


アレクは、黙って見つめていた。


そして、日の光が差し込み始める。


動く墓石は振動し、周囲にあった砂を落としながら動いていた。


暗かった墓の中が見えてきた。


中に何があるのか、すぐにアレクには分かった。


「………階段だ……」


そして、完全に開ききった墓石は動きを止めた。


3人の目の前に地下へと続く、石で出来た謎の階段が現れていた。


胸を高鳴らせたロベルが二人に尋ねた。


「あの……どうしますか!?」


アレクとミィーチェは目を合わせ、頷いた。


「行こう……」


「……うん」


そして、アレクが階段に足をかけたとき、ロベルが叫んだ。


「若様、危険です!戦士の訓練を受けている自分が先頭に立ちます!」


彼の強い意志を感じたアレクは、ロベルを先に立たせることにした。


「わかった、お前に頼む……だが、危険なことはするな」


アレクはそう言いながら、ナイフをロベルに返した。


「はい!」


元気に返事を返し、ロベルはそのナイフを受け取ると、すぐに階段の中へ入った。


アレクが、その後に続き、ミィーチェが二人の後を追った。


天井、壁、床、全て石で出来ている場所だった。


中を降りると、真っ暗である事に気づく。


そこで、ミィーチェがマナトーチの魔法をロベルのナイフとゴードンの髪にかけた。


「………マナトーチ……」


ロベルのナイフとゴードンの頭髪は、青白い光を放った。


そして彼らは、階段を慎重に下りていった。


下りていく中、ロベルは色々考えていた。


(地下の迷宮とか……神殿とか……そういうのあるのかな!)


少年の心は、冒険への憧れから、様々なことが浮かんでいるようだった。


アレクは、母リーザの事を考えていた。


(母よ……私たちに、何が言いたいのですか?)


ミィーチェは、アレクと同じように母の事を考えた後、光る髪を持つゴードンを見ていた。


(今度……このゴードンで……シュリンを……)


3人がそれぞれ様々な思いで、階段を下りていると、早くも終着が見え始めた。


それに気づいたロベルが振り返り、後ろの二人に話した。


「若様!到着したみたいです!」


「着いたのか……」


光るナイフをかざしながら、ロベルは、階段をアレクに譲った。


階段の幅は、ちょうど人が二人なんとか同時に下りる事が出来るぐらいの幅だった。


前に出たアレクは、正面を見た。


「扉か……」


階段を下った先にあったのは、扉だった。


真ん中の所に、ゴレアの鷲が描かれていた。


(こんな場所があったとは……父からは……何も聞いていない……)


そして彼は扉の前に立つと、両手を扉につけた。


(金銀財宝でもあれば、いいんだが……ふっ……まさかな……)


息を整え、一気に押し込んだ。


(母よ……言葉を受け取りに参りました!)


彼が扉を開くと、真っ暗な空間が現れた。


「ロベル、ナイフをかざしてくれ」


ロベルは、すぐにアレクの前へとやってきた。


そして彼が、たどり着いたとき、部屋の壁に、いくつもかけてあったランタン全てに炎が宿った。


一瞬にして部屋は明るくなり、中の様子がわかった。


どうやら扉に、仕掛けがあったようだった。


ミィーチェが二人の体の隙間から顔を出した。


「あに……どんな様子……」


そして3人は、部屋の中を見た。


部屋の中を見てまず目に付くのは、至る所に棚があり、その中に瓶詰めが大量に置いてあった。


棚と棚の間の道はゴミになるものは一つもなく、良く整頓された部屋で、瓶詰めをみると、どの瓶詰めにも、何かが入っていた。


また、色の違うレンガを組み合わせて壁が作られており、その壁は、ランタンの火があたることで、さっきまでアレクたちがいた白い世界とは違う、温もりに満ちた空間をつくり出していた。


アレクたちは、その空間に足を踏み入れた。


「ここは……一体……」


3人は、棚にある瓶詰めを何となく見ながら、部屋の奥へと歩いた。


ロベルは物珍しげに、キョロキョロと周りを見ていた。


「ここは何の部屋なんでしょう……若様……」


アレクにも分からなかった。


「さあな……」


そして、部屋の奥と思われる場所に、たどり着いた。


そこには、簡素な作りの木製の机と椅子があった。


机の上には見たことの無い道具や、すり鉢のような物などがあった。


また、近くの壁を見ると、アレクの背丈よりも高い本棚があるのが見えた。


中は、ぎっしりと書物で埋まっていた。


そして、アレクが本の一つを手に取ろうとしたとき、机の上に手紙があるのが見えた。


「んっ……これは……」


アレクは、手紙を読んだ。


それは、母リーザが病に倒れる寸前に書いた手紙だった。



『この手紙を読むことが出来るのは、ゴレアの者だけです。つまり、今読んでいるあなたは、ゴレアの者ですね?私の名前は、ゴレアの当主バンゲリス・ゴレアの妻リーザ・ゴレアと言います。あなたは、私たちから何代目のゴレアの者なんでしょう……。私の望みとしては、私の子供たちがこの手紙を読んでいることを願います。ミィーチェは、まだ小さいし、アレクはあの人と共に、各地を回っています……本当は息子に、この場所を教えておきたかった……だけど、あの人はアレクには厳しく臨むと言っていましたし、最近バンゲリスは、おかしくなってきている……あのマルベーラとか言う女がこの館に使用人として来てから……もし、この場所の事がばれれば、取り上げられてしまうでしょう………だから、私の命が尽きる前に、私が知りえたことをここに書いておきます……」



リーザは、この館で魔法のサフランを見つけてから、他にも何か無いか調べた。


その中で彼女は、ここを見つける事に成功したと言う事だった。


リーザの手紙によると、ここは5代目ゴレア、『ザルツ・ゴレア』が作った場所で、様々なスパイス(香辛料)を調べるためにつくられた場所だった。


暗黒世界になる前の時代に、ザルツはスパイスによってゴレアを一気にメルティスへと押し上げた。


彼は研究熱心で、様々なスパイスを熟知していた。


その時の研究部屋が、ここであると言うことだった。


しかし、リーザがここに辿り着いたときには、この部屋にある瓶詰めの中に入っているスパイスは全て、時が経ち過ぎたらしく、使用できる物は一つもなかった。


『ですが……ここに辿り着いた者よ……近くの本棚を見てください』


アレクは見渡した後、書物を一つ手に取った。


「どう言うことなんだ……」


手に取った書物を机に広げると、ミィーチェも隣に来た。


「どうした……あに……」


二人は、そこに書かれている事に目を通した。


「………これは!?」


そこに書かれていたのは、様々なスパイスに関する情報だった。


どんな種類があり、どんな葉や茎で、どんな花や実をつけるか。


そう言った詳細な情報が挿絵と共に描かれ、書かれたものだった。


アレクは、すぐにこの本の持つ意味を悟った。


「ゴレアが、なぜここまでの富を築き上げたのか……詳しくは分からないと聞いていたが……スパイスだったとは……そして……―――これは凄い!!」


「あに、これ新発見……」


ロベルは目を輝かせていた。


「スパイスなんて……オリディオールもそうだし、二つの新大陸でも、いくつかのハーブ以外は、ほとんど見つかって無いですよ!」


「樹皮もスパイスになるものがあるのか……こんなこと、誰も知らないぞ……絵も描かれているから、この本があれば、ひと目で、どれがスパイスか分かる………それに他にも栽培方法、加工方法、保存方法などの本も棚にあるようだ……」


スパイスは、黒い霧に包まれる前の世界に存在したと言う話が存在しているだけで、今の時代には、ほとんど無いと言って良い状態だった。


だが人々は、物語や伝承でその存在を知っていたため、多くの者がそれを口にしたいと思っていた。


しかし、植物であることぐらいしか、分かっていなかった。


それだけに、多くの冒険者や商会が血眼になって探している物の一つでもあった。


見つけることが出来れば、莫大な利益を生み出せる。


その詳細な情報を、アレクは手に入れた。


本来は、スパイスそのものが、瓶詰めの中に入っていたようだったが、ミィーチェとロベルがそれぞれ、中を調べたが、全てが真っ黒な灰のようなものになっていた。


そして手紙は、こう締めくくられていた。


『どうか、この情報を用いてゴレアを再び、鷲として舞い上がらせて下さい。私はそれを望みます。アレクかミィーチェがこの手紙を読んでくれていることを願って………エンチャンター(付与魔術師)リーザ・ゴレア』


読み終えたアレク、聞いていたミィーチェは、ゴレアの先祖と母に感謝した。


(偉大なるゴレアの先人と母よ……本当に……感謝します!)


(お母さん………)


そして3人は更に本棚を調べることにした。


調べている中、ロベルが嬉しそうに、本の一つを開き、アレクに見せてきた。


「若様!これ、食べてみたいです!」


「どうした、ロベル」


アレクは、彼が見せた場所を見た。


「なになに………」


ロベルが見せたのは、スパイスを使った料理が書かれた本だった。


そして、アレクが見たのは、最後のページだった。


「スパイスの集合体にして究極の料理………その名は……『カリー』……」


ミィーチェが、ロベルの肩にゴードンの手を軽く置いた。


「ロベル……ちゃんと……調べる……」


「ああ!ごめんなさい。ミィー様」


そう言われたロベルは慌てて、他に何かないか、調べる作業に戻った。


「いや、それも貴重な情報だ。覚えておくさ……ミィーチェの方は、何かあったか?」


アレクは振り返り、妹に尋ねた。


ミィーチェは、自分の後ろに積んでおいた本の中から一冊を取り出した。


「一つ、見つけた……」


そして、表紙をアレクに見せた。


「あに、これ見て……」


アレクは、本の題名見た。


「妖精の島………『アヴァロン』」


そこに書かれていたのは、スパイスの成功によって巨万の富を築いたザルツのその後の話だった。


彼はメルティス・イーグルに登りつめた後、ある島を買った。


それは太古の昔、様々な妖精とその王が住んでいたと言われる島だった。


名前は、その妖精王の名前から『アヴァロン島』と言った。


そこに彼は自身の夢だった錬金術を研究するための、錬金工房を作った。


そこで彼は『マジック・オートマトン』と言う、自らの意思で動く人形の研究に生涯を捧げたと言うことが書かれていた。


そして彼が作った人形の中に、ゴードンの絵があるのをミィーチェは見つけていた。


「母はこの部屋からゴードンを見つけ、ミィーチェに託したのか……」


ミィーチェは、この島に行けばゴードンにさらなる力を与えてやれると思った。


「あに、この島に行きたい……」


「今は、無理だが………いつか連れて行ってやる」


ミィーチェは、それを聞いて安心していた。


「うん……」


そして一通り調べ終えた彼らは、地下にあるこの部屋から出ることにした。


アレクは最初に手に取ったスパイスの本だけを、外へ持ち出すことにした。


(この新発見……ギルドにも、他の連中にも……特にあの女……マルベーラに知られるわけにはいかない……絶対に!……これは私の……いや、私たちの最後の切り札だ。これを使って、あの女を倒す……そのための……)


アレクたちはゴレアの墓地を出て、自分たちの屋敷へと向かった。


馬車は素早く乗り込んだロベルが巧みに鞭を使うことで、すぐに動き出していた。


そして墓地のある場所を抜けると、今度は広範囲に渡って木々などがよく手入れされた場所へ出てきていた。


道の両脇に花が植えられ、芝生が一面に生え、剪定された大きな木が左右にそびえ立っているのが見えた。


その景色を眺めていると、アレクは妹の学院生活がどうだったか、聞くのを忘れていたのを思い出した。


「そう言えば色々あって、お前に聞くのを忘れていたが、学院生活はどうだ?友人は出来たか?」


ミィーチェは、シュリンの顔が浮かび上がった。


そしてゴードンを見ながら、ミィーチェは呟いた。


「シュリンは、良い子……」


「シュリンと言う、友人がいるのだな……お前が良いと言うんだ。きっと良い奴なんだろう……しかし……ふふっ、こっちが色々考えなければならないのは、相変わらずだな………」


彼女のそんな部分を少しは、解消してくれると思い、アレクは学院に妹を送っていたことを思い出していた。


(しかし……お前は家にいるときよりも喋る様になったし、強くもなった……だから……そのままで、いいんだ……そのままで……)


ミィーチェは、今見つめている人形を『ドンちゃん』と呼ぶ、友人の事を考えていた。


(シュリン……しばらく……戻れないかもしれない……ごめん……でも、帰ったら……『カリー』を一番最初に食べさせてあげる……)


この時ミィーチェは、兄に付いて行くことを決めていた。


そして馬車は、ゴレアの館へと辿り着いた。


帰って来ると、入り口にビーグルとロナード、そして他の使用人たちがいた。


ビーグルは、東の群島に帰る前に、アレクに挨拶しようと、待っていたのだった。


彼はアレクが帰ってくるまで、ずっとどうするか考えていた。


(正直、どちら側にも付きたくないってのが、俺の気持ちなんだが……)


そこで彼は、決まったら手紙を出すと言う事にしようと決め、ここでアレクを待っていた。


(とにかく、ゴレアの家への上納金は、しっかりと納めないと駄目だからな……まあ、部下のあいつらも、ちょうど独り立ち出来そうなぐらいに成長してきたから……大丈夫だろ……)


一定期間マルベーラ側が稼いだ金も、アレクが稼いだものも、全てこの家にいったん集められ、稼いだ額として、しっかりと紙に記録されていく。


そして、それをロナードが公平に両者へ分配することになっていた。


馬車を降りると、すぐにロナードがやって来た。


「お二人とも、お帰りなさいませ。ミィーチェ様。ご両親は、どうでしたか?」


ロナードは少し心配そうにミィーチェを見つめ、尋ねた。


彼もまたアレクと同じく、ミィーチェが母親の墓に行っていない事をずっと気にしていたのだった。


ミィーチェは、静かに頷き答えた。


「………ちゃんと、会って来た」


それを聞いたロナードは、表情を優しく崩した。


「そうで御座いますか………バンゲリス様と奥様もきっと喜ばれているはずです……」


そしてビーグルが、アレクの下へやってきた。


「すいません、若……自分は……」


ビーグルはすまなさそうに謝りながら、アレクの方へ近づくと、顔を上げた。


そしてアレクを見た。


「んっ………どうした?ビーグル」


「―――はっ!」


アレクの姿を見たビーグルは、一瞬で何かを感じ取った。


それは、彼自身が積み重ねてきた、経験によるものだった。


(………どういうことだ……朝、この家を出る前と今じゃ、まるで別人のように見える………なぜだ……ただ墓参りに行っただけだろ……だが、明らかに違う……俺には分かる!この人から、何か……)


ビーグルは、今まで感じてきた様々な感覚を思い出していた。


そしてあるものに行き当たった。


(―――そうだ!………これは金だ、金の匂いがするんだ!俺がいま一つ踏み出せなかったのは、この人から金の匂いが全くと言っていいほど、しなかったからなんだ!………だが、今は違う……そう、この人物からは、強く感じる……長年、人を見てきた俺には分かる……この人は、莫大な富を生み出す、そんな人物だ!間違いない!)


ビーグルは長年の経験から、確信めいた何かを若きゴレアの後継者から感じ取った。


ビーグルは、アレクと共に行くことをすぐに決めた。


背筋を伸ばし、真っ直ぐアレクを見つめた。


「若、自分は、あなたと共に行くことをここで誓います」


「そうか……」


アレクは短くそう答えると、この目の前の男に、自身の切り札を見せるか、考えた。


(………この男に、スパイスの事について話すか?………)


しかし、ビーグルが今一つ踏み切れなかったように、アレクもまた、裏の世界から来たこの男を、すぐには信じることができないでいた。


(裏の世界………なぜかマルベーラの顔がよぎった………本当に信用できる者だと思えるまでは、もう少し様子を見た方がいいのかもな……この情報を知る者は、少ないほど良いのだから……)


アレクは、ビーグルに今は話さないことにした。


「ビーグル。今の私は、あの女より、実力は無いが、すぐにその差を埋めてやる………大いなる富を私は得た……」


自信に満ちた表情で、アレクはビーグルに何かを匂わせるように話した。


それをビーグルは、すぐに感じ取った。


(………これは、絶対に何かあったな……)


自然と笑みがこぼれた。


(面白くなりそうだ……バンゲリス様、俺はあなたの息子を再び、メルティスにしますぜ!)


それが「自分を光の世界へ行かせるための道である」と、ビーグルは思った。


アレクは、すぐに自室に戻ろうと館の中に入り、先頭を歩いた。


(私は冒険者ではない……だから、まずは信頼できる冒険者を見つけなくては……この切り札を見せる事ができるほどの……)


ここでアレクは、振り返った。


彼はミィーチェやロベル、ビーグルにロナード、そして使用人たちを引き連れて歩いていた。


(やらなければならない事がたくさんある………そして道は遠い……忙しくなるぞ……)


妹に声をかけた。


「ミィー、お前はどうする?」


「学院に休学の手紙を書く………あにに、付いて行く……」


「………悪いな、ミィーチェ。本当は行かせたかったが……信頼できる魔道師は、お前しか私にはいない。だから……」


ミィーチェは首を振った。


「あに、言わなくていい……これは、私たちの事だから……」


「そうか……わかった……」


そして、アレクは、他の者達にも話しかけた。


「ロベル、旅の支度をしてくれ!ビーグルはバルディバへ赴き、我が商会の船の出港準備を!他の者達も頼む!」


ゴレアの後継者が商人として初めて下した命令に、ロナードを除いた全ての者が活力に満ちた返事を返した。


「はい、若様!」


「分かりました、若!」


「アレク様、おまかせを!」


ロナードは、一瞬驚いたが、すぐにアレクが何かを得たのだと思った。


(アレク様……見違えるようだ……これはきっと、お亡くなりになる前のリーザ様が必死になって、何かをなさっていた事と関係があるのかもしれんな………)


そして、アレクに声をかけた。


「若様、メルティスの鷲を目指して、ついに旅立たれるのですか?」


「ロナード、私はメルティスの鷲になることは、諦めたよ……」


意外な答えに、長年ゴレアに仕えた執事の男は、驚いた。


そしてアレクに近づき、話しかけた。


「―――なんと!?アレク様、それでは、バンゲリス様や奥様に、申し訳が立ちませんぞ!」


アレクは、軽く笑い声を上げてから話した。


「はっはは、勘違いするな。ロナード」


(どうなさったと言うのだ………アレク様……)


納得できないといった表情の執事に、アレクは鋭い眼差しを向けると、力強く彼に答えた。


「私は………メルティウスの龍になる!」


その言葉に、再びロナードは驚いた。


(―――おおっ!!なんと……なんと力強い、お言葉……)


ロナードは、眩しそうにアレクを見つめた。


(その野心に満ちた目……巣立ちの時と言う事ですか……)


ロナードは、少しばかりの寂しさを感じながら、その場に立ち尽くし、彼を見送った。


(若き鷲よ………どこまでも飛びなされ……)


アレクは懐にあるザルツの書いた本に軽く触れながら、心の中で叫んだ。


(欲しいものは手放してはいけない……絶対に手に入れる……それがあの女と私との差だったのだ……手に入れてやる……―――世界のスパイスを!)


若き商人の鷲は両翼を広げ、巣立ちの時を迎えた。


先祖が呼び込んだ強い風をその身に受け、翼を羽ばたかせると、大いなる野心が湧き上がった。


そしてより高きを目指し、舞い立つ。


この鷲の行き先は、香辛料の香る、青き海。


ゴレアの後継者、アレク・ゴレアとその仲間たちとの旅が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る