第十三話 それぞれの思いと調査の始まり

夜の闇が広がる森の中。


炎が上がっていた。


それは、小さな炎だった。


炎は時に、人に害を与えるだけではなく、温もりと落ち着きを与える。


そして、硬く閉ざされた心の奥にある闇をも照らす効果が、あるのかもしれない。


今日もまた、その炎に集まる人々がいた。


ユラト達は、赤いブラッド・ウーズの集団がいた場所を避け、森の中で野営をしていた。


彼らが冒険を主に行っていた東側も、かなりの範囲にわたり、聖石によって黒い霧が払われ、既に1日では村に帰れなくなっていた。


そして野営のため、魔物が寄り付かないように木を集め、焚き火をし、敵が来ないか見張りを一人づつたてながら、他の者は眠りについていた。


そんな夜、ユラトはダリオの心の闇の一端を知ることになった。


森の中で、この辺りだけ木が余りなく、大きな岩が2つほどある場所だった。


その岩の間に洞窟のような空間があった。


彼らはその入り口辺りで火を焚き、開いた空間の中で雑魚寝していた。


ユラトはその日の夜、なかなか寝付けなかったので、自分が見張りを代わろうと思い、見張りをしていたダリオの所へ向った。


ダリオは、パーティーから少し離れたところで焚き火の炎を背にして小さな岩に座り、辺りをなんとなく見ていた。


そこへユラトは後ろから近づいた。


「………」


小さな音に気づいたダリオは顔を僅かに動かし、途中から目だけを動かした。


来たのがユラトだと分かると、再び視線を元の場所に戻し、静かに話し掛けてきた。


「……まだ見張りの番じゃねぇだろ。次はレクスだったはずだ……さっさと寝ろ……」


ユラトは彼に眠れなかった事を告げた。


「今日は、なんだか眠れなくて……」


それを聞いたダリオは、ユラトを馬鹿にするような目つきで見ると、静かに喋り始めた。


「へっ、お前みたいな幸せに生きてきた奴に、眠れないことなんてあるのかよ」


ユラトは焚き火を見つめながら答えた。


「俺は……ダリオさんが思うような、幸せな人生だった訳じゃないですよ」


「ふんっ……俺はてっきり、甘ったれた家庭で育ったのかと思ったぜ」


そう言われた彼は、自分の生い立ちを少し話す事にした。


「別に不幸を自慢したい訳じゃないですけど……俺には両親は……もういないんです……だから……」


ユラトが思いつめたように話しているのを見たダリオは顔を背けた。


「……そうかよ、そりゃ悪かったな……だけどよ、今の時代、まともに育ってる奴なんてそうそういないぜ……リュシアにしたってそうだ……」


「ええ、そうですね……」


ユラトがそう答えると、しばらく2人は沈黙する事になった。


「………」


火の粉が舞い上がり、たまに焚き火の中にくべられた水分の含んだ枝が音をたてていた。


煙は真っ暗な夜の森の上空へと向って、一本の帯びのように立ち上っている。


しばらく無言でいたダリオが突然、静かに語り始めた。


「……俺はよう……ジルメイダが好きなんだ……」


その告白を聞いたユラトは驚く事は無かった。


なぜなら、旅をする中でダリオがジルメイダに対して友人以上の眼差しを彼女に対して向けているような場面を、彼は何度か見たことがあったからだった。


ユラトは黙って聞いていた。


「………最初にジルメイダを見つけたのは俺なんだ……クライスじゃなかったんだ…………」


ダリオはその頃を思い出し、少し目を細めると、空を見上げ、話しを続けた。


「……俺の親父は武器商人でな。黒い霧が晴れだしたために、武器の需要が高まって、そこでひと財産築いたんだ。だが……母は店番をしているときに強盗に襲われてあっけなく死んじまったよ。店にある商品で胸を一突きだったらしい……」


そこでダリオは自嘲気味に笑った。


「ははっ……てめえの店の商品で殺される馬鹿がいるんだな……」


そう言い放ったダリオの顔から笑顔が消え、彼は苦々しい顔になって話を続けた。


「そのあと親父は酒に溺れ変わってしまった。しばらくして、新しい女が母親だって言ってやってきたが、俺のことが気に入らないみたいでよ。すぐに親父と出て行ったよ……それで、ばあさんと2人で暮らしていたんだ」


(そうだったのか……)


彼は独り言を喋るように話を続けていた。


「ばあさんは足が不自由でよ……おまけに家には金が全くなくて、いつも金が無くなると、親父の所へ俺が取りに行くんだ……酒に酔ったあいつのところにな……毎回罵声を浴びせられ、殴られながら、地面に飛び散った僅かな金を拾って帰るんだ……みっともなく悔しい気持ちを共に背負ってよ……」


やがて女も愛想を尽かして、出て行ったという。


「そんなある日、帰り道で一人のクレリックが俺の傷を魔法で癒してくれたんだ……」


ダリオはその人物を思い出し、懐かしそうに話していた。


「おっさんだったが優しい顔で俺の体中にある傷を見て、何かを悟ったらしく、励ましてもくれたよ。……その時、俺は魔法の偉大さを知ったんだ。震えたね……体に付いた傷だけじゃなくて、心も癒された気がしたんだ。それで俺はこんな糞みてえな現実を忘れたくて、いつしか魔法って言う不思議な力に憧れたんだ……」


そして彼は魔法に興味を持ち、ただで本が読める図書館に行き、勉強を始めた。


「そんなとき、親父が死にやがったんだ……酒の飲みすぎでな……冷たくなったあいつの手には、母の指輪が握られていたんだ……少年だった俺は、そこでやっと気づいたんだ……この男は、最後まで母を愛していたって……そして、ずっと母を忘れたかったんだって……酒に溺れたのも……新しい女と付き合ったのも……俺を殴りやがったのも……全部、母を思い出したくなかったんだってな……」


ダリオは地面に唾を吐き、森の闇を睨み付けながら喋った。


「へっ!……だけど、それは全部逃げてんだよ……あいつは逃げやがったんだ。全てを置いて……弱え奴だったんだ」


そしてその後、自分には、それなりの遺産が渡ったと彼は言った。


「俺は嬉しかったね。これで自由になれると思ったし、俺を育ててくれたばあさんに少しはいい暮らしをさせてやれると思ったんだ。だが……ばあさんも親父の後を追うように、すぐに死んじまいやがった……いつも俺に『ダリオ、苦労をかけるね……』って口癖のように言ってやがったよ……今よりは楽しく楽な生活ができただろうによ……」


そこでダリオは肩を落とし、しばらく黙っていたが再び口を開いた。


「そして俺は、たった一人になったんだ……」


彼は一人になった寂しさを消す意味も込めて一層勉強に励んだ。


「孤独で押し潰されそうになる中、魔法学院に入るために、ひたすら勉学に励む日々だったぜ……」


その後、彼は無事合格し、魔法学院へ入った。


彼はそこで友となるクライスと出会う事になる。


「その時の俺は人生で一番輝き、そして楽しかったのを今でも覚えているんだ……」


好きな魔法と同年代の仲間たちとの日々。


そんな日々の中、彼はジルメイダと出会うことになった。


「学院でクライスの奴の研究を手伝っていたんだ。すると毎日、バルガ族の奴らが山で採れる石を神殿や学院まで、運んでいるのが見えたんだ。だが……みんな活力の無い、死んだ目をしていたな……」


「……なんでですか?」


ユラトが不思議そうに尋ねると、ダリオは当然のように答えた。


「ん……そりゃそうだろう。毎日、鉱山から石を運ぶだけの生活だぞ?行って戻って……行って戻って……それは、冥府の河でひたすら石を積み上げてる奴らと何にも変わらねぇんだ……」


「なるほど……」


「だけど、そんな中、一人だけ生きた目をした人がいたんだ……初めて見た時、俺は驚いたぜ……今より髪は短かったけど、こんなにも美しく、良い女がこの世にいるのかと思った……」


ダリオは、嬉しそうに空を見上げていた。


「その後、クライスもジルメイダを見て惚れちまったんだ。彼女はその時には既に家計を助ける為に鉱山で働いていて、石を毎日のように魔法学院に運んでいたよ。頬や服に汚れが付いていても気にするわけでもなく、静かに額の汗だけを拭っていたんだ。凄く綺麗だったよ。化粧なんてしていなくてもな……初めてだったぜ……飾り気なしに美しく、魅力的な人を見たのは……」


そこでダリオは少し、切ない表情になっていた。


(ダリオさん……)


「何か、強い意志を感じたんだ……彼女の真っ直ぐな瞳から……後で聞いたが、なんでもいいから自分の店を持って、家族を楽にしてやりたいって言っていたな……」


ユラトには思い当たる事があった。


(そうか……それで、ワイナリーの話をジルメイダにしていたのか?……)


ダリオは更に話を続けた。


「ジルメイダは、いつも一生懸命で真っ直ぐな女なんだ。自分の事だけを考えて生きてきた俺には凄くそれが眩しく見えたんだ……直視できねえぐれえによ……その時の俺は、魔法学院に入れたことで満足していたんだ。そしてただ親の遺産をかじって何となく生きているだけで、何かを成した訳でもなく、何かをしたい訳でもなかった。容姿も良いわけでもない、性格もこのざまだ……だから自分に自信が無くて、それ以上いけなかったんだ………結局、俺もあいつと同じで、弱え奴だったんだ……なんら変わらなかったんだ!」


空には綺麗な月と星の見える夜空が木々の隙間から見えていた。


その月を見ながらダリオは続きを話した。


「クライスは、俺にとって唯一なんでも話せる友人だった……俺を理解してくれたのはあいつだけだった……見た目も俺なんかよりずっと良かった。だから俺は、引いたんだ……心に思いを秘めたまま……それで、気が付いたら、いつの間にか言えないまま、今に至ってるってわけだ……」


「今なら言えるんじゃ……?」


「言えたら苦労しねぇよ、親友を裏切ることにもなってしまうんだぞ!あいつは俺と違って良い奴だった……だから俺は、あの時、諦めたんだ……心から祝福したんだ……なのに……あいつは逝ってしまった……」


(ジルメイダはダリオさんの事、どう思っているんだろ……)


なぜかユラトは、両親が亡くなった時、食事がしばらく喉を通らなかったことを思い出した。


そのとき、やせ細った体を見た村長が、悲しさや悔しさを押し殺しながら、やさしく頭を撫で自分に言ってくれた。


「生き残った者は今を生きなければならんのだ……ユラト、それは辛く苦しいだろうが、お前の両親が命をかけた思いでもあるんだ……だから、少しづつでいい……食べれる物からでもいい……食べて、そして生きておくれ……」


(生きている人は、今を精一杯生き、そして幸せを求めつづける……だったら……ダリオさんやジルメイダも……)


ユラトはダリオに今のジルメイダの幸せを考えてあげるのは必要だろうと言おうと思ったが、そんなことは既にダリオならば考えていることだろうと思い、言う事を止めた。


(きっと、ずっと前に、俺の言おうとしたことなんて考えているんだろうな……その上で……か……。はぁ……俺があの2人にできる事なんて何もないのかな……)


そして、ダリオは突然ユラトの方に顔を向け、話し掛けてきた。


彼の顔の側面に、焚き火の明かりが当たり、その目には炎が宿っているように見えた。


「お前……時間で積み上げることの恐ろしさってのを、まだ知らねぇみてえだな。これは色んなことに言えるんだ。時間ってものほど恐ろしいものはねぇんだ……良い事ならいいが、悪いことなら絶対に積もらせないほうがいいぜ。例えば金で例えると 少ない額を少しづつ借りる、最初は少ないが時を経るごとに、その額はどんどん大きくなる。そしてあるときを境に感覚が麻痺してくる。この麻痺するって事もやべぇんだ。そして、借りても当初より罪悪感を感じなくなって……しまいにゃ……破産ってやつだ。だが、ここまでは誰でも良く知っているだろ?」


「……はい」


「そこでだ、お金を人に対する思いって奴に変えて見ることは、なかなかしないんじゃねぇか?」


(思い……?)


「こっちは借金より、もっと怖いぜ……見えねぇんだよ……さわることもできねぇし、どれだけ積もってるのか、相手の積もり具合も自分の積もり具合もな」


ユラトは息を呑んだ。


「いつの間にか、相手に恨みってもんを積もらせてた場合、自分にとって近ければ近い存在ほど、気づき難いもんだ。しかも近い奴ほど付き合う年月は長くなるだろ?ってことは、積もる高さも近い奴ほど高くなりやすいもんなのさ。俺は冒険者をやっている中で負の感情が頂点に達した奴をたくさん見てきた……狂気に駆られた奴だ。これほど恐ろしいもんはねぇぞ。俺はこんな性格だからよ、誰かに恨みをかってるかもしれねぇけどよ……」


ダリオは視線を下へ移し、両手の拳を強く握り締め、ユラトに話していた。


「……だけどよ、今の俺には、もっと怖いもんがあってよ。それは今のジルメイダとあの子供達に会えなくなる事だ。初めて会った時から、ずっと思いつづけているんだ……俺はいつの間にか、凄い高さまでその思いを積み上げていたんだ……彼女と共に冒険の日々を過ごすことで……気づいたときには、その高さは死ぬことの恐ろしさを遥かに超えていやがったんだ……超えていやがったんだよ、畜生!……だから怖えんだよ。色んな修羅場をジルメイダと共に潜り抜けてきたってのによ……でも、これが1番怖えぇんだよ……だから、今はただ傍に居れるだけでいいのさ……それだけで……」


ダリオは本当は復讐の旅をしているジルメイダを止めたかった。


自分も親友の仇を取りたいとも思っていたが、現実的にそして冷静に見て、あのデュラハンに勝てるとは、到底思えなかった。


しかし、彼女は、真っ直ぐで意志の強い人物でもあり、そして誇り高きバルガの戦士でもあった。


だからこそ、戦士である彼女が何もできないまま、愛する人を目の前で殺した相手を絶対に許すはずがないことも分かっていた。


だから、彼は黙ってジルメイダに付いていたのだった。


「ダリオさん……俺……」


ユラトの言葉を遮るようにダリオは組んだ両手の平を自分の後頭部へつけ、夜空を見上げながら、何かを諦めたように話した。


「あ~あ、なんでお前なんかに、べらべらしゃべっちまったんだろうな……この高さにいるのに疲れちまったのかも知れねぇな……」


その時、後ろから落ち葉を踏みしめる音がした。


2人は慌てて振り返った。


そこにはレクスが立っていた。


ダリオは目を細めレクスを睨みつけた。


「……盗み聞きか?レクス」


「レクスさん……」


レクスは無表情のままで答えた。


「……聞くつもりは無かった。だが、会話を邪魔できるような雰囲気では無かったようだったからな。それに、悪いとは思ったが、俺にとっては興味深い話だった」


ダリオは諦めたように2人に話していた。


「ちっ、そうかよ。笑いたきゃ笑えよ。ユラト、お前もだぞ、普段からお前等に悪態ついてるんだ……いいんだぜ?」


「俺は、別に……そんな風には……」


レクスは、ダリオに静かに話し掛けた。


「……ダリオ、森の木を見てみろ。木はたくさんの葉を年月をかけ、大地に落とし、積み上げていく。だが、森が葉で埋まることはない。時をかけ土に返っていくのだ。木々にとって葉に思いはあるのだ。だが彼等は大地を使い、葉を肥やしにするのだ。それは、その木にとってもいいことだし、若い新しい木が生えるのにも役に立つ。お前は 積み上げたものを自分の中で時をかけ、消化しきれていないのではないか?もしくは、正面から見れていないのかもしれんな。それは本当に高く積み上がっているのか?」


ダリオは、またしても自嘲気味に笑った。


「ふふっ……ははっ、ウッドエルフに言われるとはな……確かに、そうかもしれん。俺は逃げている部分があるのかもな……あの野郎と同じようにな……」


ダリオにウッドエルフの視点から助言してみたレクスだったが、それは自分に向けたものでもあった。


(偉そうに言ったが、私はダリオと逆で何も思いを積み上げていなかったのかもしれない。私に積み上げたものなどあったか?彼はただ積み上げただけ……私はすぐになんでも適当に消化してしまっていた……それでは、両方とも木は成長しないのは、同じではないか………)


2人のやり取りを見たユラトは、思ったことを呟いた。


「大切なら、なおさらそこから逃げてはならない……か…」


「ふんっ……お前らに逆に言われるとはな……だが、そういうもんなのかもな……」


3人とも夜空を見上げていた。


それぞれの思いを胸に秘めて。


また、3人の男たちの話は、焚き火の奥で寝ているジルメイダにも話は聞こえていた。


(そんな大きな声で話したら聞こえてるよ!……全く、馬鹿な男達だよ!)


その時、世界の七不思議が書かれた本を大事そうに抱えながら近くで熟睡しているリュシアが寝言を呟いた。


「……むにゃ、やっと……見つけた……むにゃ……猫さんの会議……」


ジルメイダは静かに目を瞑り、ダリオの事を考えていた。


(ダリオ……あんたの気持ちは嬉しいよ……だけど、今は……デュラハンのことしか考えられないのさ、奴を倒さない限り、前へ進むことができないんだ……あの人の無念を思うとね……許しておくれ……ダリオ……今は……)


女戦士は、そのまま静かに眠りに付いた。


そして一人を除いて、それぞれの夜はふけていった。


翌日の昼ごろ、ユラト達はウディル村に着いていた。


彼らはいつものように冒険者ギルドへ報告をしようと向った。


臨時で建てられた布製のテントへ向いながらユラトが感想を漏らした。


「今日も……人は少ないな……」


東の新大陸発見から、この西の森の冒険者は相変わらず減りつづけていた。


ついこの間まで多くの冒険者で賑わっていた村の中心部は、まばらに人々がいる程度だった。


また、ここで発見された武器や防具などのアイテムを買い取りに来る商人たちも、かなり減っているようだった。


当初よりも、小さな袋を持って来ているだけだった。


そして、「この森の辺りには目的のハイエルフの国は無いのではないか?」と言う噂が出始めていたが、残った冒険者達は、あると信じて探索を続けていた。


いつもの様にギルドへの報告を終え、料理屋兼酒場のある建物へ向い、その建物に入ろうとしたとき、ユラトは思いがけない人物と再開を果たした。


(―――あそこにいるのって!?)


その人物はブラウンの癖のある短髪の髪型の男で、ファージア冒険者学校で同級生のガイン・ウォードだった。


彼は無事だった。


ユラトは驚き、そして嬉しく思った。


すぐにガインの後ろから声をかけた。


「ガイン!」


その叫びを聞いたガインは、声のした方へ振り向いた。


「ん……?」


声の主がユラトであったのを理解したガインの顔は、満面の笑みを浮かべた。


「ユラト!!」


ユラトは、すぐに走ってガインのもとへ近づくと、彼の元気な姿に安心したのか、この前の再開のお返しと言わんばかりに、冗談交じりに話し掛けた。


「ガイン!やっぱり、生きていたか!ははっ!」


それを聞いたガインは「この前のお返しだ」と理解したのか、笑っていた。


「はははっ、当たり前さ!」


そう言ってガインはユラトの肩に拳の甲を軽く当てた。


お互いの姿を見た2人は、相手が冒険者として成長したことも感じ取った。


(ガイン……この森で会ったときより随分、精悍になった気がする……きっと厳しい戦いがあったんだろうな……でも、無事で良かった……)


(再開したときより、更に強くなってる気がする……なんだろう……この滲み出ている自信と覇気は……ユラト、いつも君は僕よりずっと先にいるんだね……今回の旅で僕も少しは成長できただろうか?……)


そのとき、近くにいたジルメイダが気を利かせ、「先に行くと言い」、リュシアを連れて、その場所を離れていった。


「ユラト、あたし達は先に行ってるよ!」


「ごゆっくりー」


「うん、わかった!」


そのやり取りを見たガインは、安心したようにユラトへ話し掛けていた。


「ユラト、ちゃんとパーティーメンバー揃ったんだね。良かった、心配していたんだ」


「ああ、ありがとう!いい人たちにめぐり会えたと思ってるんだ……そっちはどうだった?」


「僕のところは……あ、そうだ。ここじゃなんだから、僕たちも席に座ろうよ!」


「ああ、そうだな。そうしよう……」


2人は店に入り、席に着いた。


ちょうど、ジルメイダ達の隣りのテーブルだった。


二人は食事を注文し、待っている間、この森での冒険の日々をどう過ごしていたか語り合った。


ガインは、ガリバンに鍛えてもらっていたようだった。


嬉しそうにその時の事を話していた。


ユラトは彼の話を聞いて、ジルメイダの言っていた事を思い出した。


(……ということは、やっぱり、ジルメイダの言う賛同者の一人なんだろうな、ガリバンさんは……)


ユラトがそう思っていると、ガインは楽しそうに話を続けた。


「最初は、新人って僕だけだったからさ、こき使われるのかなって思ってたんだけど、全然そんなことなくて、みんな良い人ばかりだったから、凄いありがたかったさ」


「そうなのか、よかった」


「ウッドエルフの人からも色々森の事を教えてもらったりもあって、ほんとあっという間だったよ」


どうやら、ガインは今回の冒険は楽しく出来ているようだった。


(ガインは、素直すぎるところがあるからな……騙されていないか心配だったけど、大丈夫みたいだな……よかった)


「ユラトの方はどうだった?危険なこととかなかった?」


「んー魔物と何度も戦ったけど、仲間の人達が強いおかげで、今のところ大丈夫さ……そういや、ラグレスって人に会ったよ」


英雄と呼ばれる人物の名を聞いたガインは驚いた。


「―――!?ラグレスって、あのラグレス・オリュム?」


「うん、そう」


それを聞いたガインは目を輝かせ、尋ねた。


「凄いね!どんな人だった?」


ユラトはその時の事を思い出しながら話した。


「噂通りの強さを持った人だったよ……強そうな敵を一撃で倒してた……圧倒されたよ」


ガインは羨ましそうにユラトの話を聞いていた。


「こっちに来ているって聞いたけど……そうか……いいなー……僕も見たかったよ、最強の戦士……」


ユラトは、レクスとラグレスのことやジルメイダから聞いた生い立ちの話しなどがあり、彼に対して複雑な思いがあったため、それ以上話題にしたくはなかった。


「ん、まあ、冒険者を続けていれば見る機会もあるんじゃないかな……そういや、宝とかそう言うの、そっちはどうだった?」


それを聞いたガインは、嬉しそうな表情になっていた。


「僕の方はね、発見した物があるんだ!」


ガインは小さな袋を取り出し、そこから、乾燥している木片を取り出した。


手のひらに乗るほどしかない大きさだった。


ユラトには、それがその辺りによく転がっているものにしか見えなかった。


「……え、これってただの木じゃ?」


ユラトの言葉を聞いたガインは笑みを浮かべた。


「ははっ、そう思うでしょ。匂いを嗅いでみて、ユラト!」


ユラトは怪訝な顔をしながらガインに言われた通り、匂いを嗅いでみた。


「―――これは!……良い香りがする……ただの木なのに……?」


なんと木から爽やかな甘い香りがした。


ガインは木について話した。


「ウッドエルフの人に教えてもらったんだけど、これは『香木』って物らしいよ」



【香木】


様々な芳香を持つ木材。


種類は様々あり、熱することで香る物やそのままでも香る物もある。


産出地や状態などで内容が変わり、甘い、苦い、辛い、酸っぱいなどの香りもある。


お香や扇子、ブレスレットなどにも使われることもある。



「そんな物もあるのか……」


ユラトが驚きながら感想を言うと、ガインは嬉しそうだった。


「ふふ……これは僕が見つけたんだ!新発見だよ!」


ユラトは目を瞑り、もう一度香りを嗅いでいた。


「へぇ、凄いな……心が落ち着く香りだ……」


「ここの村で作られた、花の香水も買ったんだ。セラリスとシェイミーに渡そうと思ってね」


「きっと喜ぶよ、良い香りだし」


ガインは嬉しそうに返事をした。


「うん!」


「俺の方の新発見は、新しい葡萄の木を発見したんだ、それから、あとは……」


ユラトは、禁呪を前の分のものと合わせて覚えたことなどをガインに説明した。


「ええっ!その青い模様ってそんな意味があったのか……」


「俺もまだ良く分らないんだ……」


「だけど、真実に近づいていることは確実だよね?」


「まあ、そうだといいけど……」


(ユラト……)


浮かない様子のユラトを見たガインは、彼を励ますことにした。


「旅を続けていれば、きっと見つかるはずだよ、その調子なら……僕も何か見つけたら、必ず君に教えるよ。だから、大丈夫さ!」


「ありがとう、ガイン。確かに……そうだな、頑張ってみるよ」


ユラトが思いつめていなかったことに安心したガインだった。


(良かった……ユラトのその模様、呪いだって聞いていたから、ずっと心配していたんだ……だけど、禁呪って……一体……)


ユラトは話題を変え、気になったこと聞いていた。


「そういや、ガリバンさんや他のメンバーは?」


尋ねられたガインの表情は沈んだ。


「実はね……今日、僕のパーティー……解散したんだ……」


「……え、どうしてまた?……」


ガインは沈んだ表情のまま、ユラトに説明をした。


「ウッドエルフの人が大きな怪我をしてね……その人は冒険が無理だって判断されたんだ……そしたら、丁度いい機会だから、東に行きたいって人が出たんだよ」


「なるほど、そう言うことか……」


「それで、メンバーを募集しても恐らく来ないだろうってことで……そういうことになって……ガリバンさんも東に行くことになって……」


「じゃあ、ガインはどうするんだ?」


「僕も誘われたんだけど……僕は、そろそろ帰るよ……あの2人と約束した期限がきているからね。だから丁度良い機会だと思ってるんだ。これ以上ここに居たら、凄く怒られるからね。セラリス一人でも厄介なのに、シェイミーにまで怒られたら……ああ、恐ろしい……」


ガインは、怒る2人のことを想像し、顔色を変えていた。


「……そんなに怖いのか?」


ユラトが尋ねると、ガインは身を乗り出して力強く答えた。


「……あのね……ある意味、ここのモンスター以上だよ!」


「おいおい……それ聞いたら2人から怒られるぞ……」


呆れ顔のユラトを見たガインは表情を変え、今度はばつが悪そうに話していた。


「2人には秘密にしといて!僕って口では、あの2人には絶対勝てないんだよ……いっつも2人一緒になって僕一人に言ってくるんだ!だから……今回は一人で別の世界を見てみたかったってのもあったんだ……」


どうやらガインは、セラリスとシェイミーに、いつも口うるさく色々言われているようだった。


「そうか……ガインも色々あるんだな」


ユラトの発言が気に食わなかったのか、やや怒り気味にガインは話し掛けてきた。


「あのね、ユラト……僕だって楽に生きてないんだよ!」


「ははっ、悪かったよ。そりゃそうだ……」


「はぁ……ほんとは続けたかったけど、2人にも会いたくなって来たし、実家の仕事も大切だしね……ユラトは続けるんだよね?」


「ああ、もう少しここで頑張ってみるよ」


「そうか……ここの仕事が一段落ついたら、うちの農園に来てよ!みんな待ってるから!(特にセラリスが!)」


「うん、そうさせてもらうよ。実は一度行って見たいと思ってたんだ」


学校にいたころは、よくセラリスとガインからラプルの実をもらっていたので、一度そのお礼に手伝いに行きたいとユラトは思っていた。


「そうだったんだ。うちは広いからね……あ、そうだ!あれも……」


ユラトとガインは食事をしながら他にも色々話していた。


そして、食事が終わるとガインは実家へ帰えるため、ここから立ち去ろうとしていた。


「ユラト、無事でいてよ……ほんとにみんな待ってるからさ……」


「ああ、ありがとう。だけど、大丈夫さ。また会おう、ガイン!」


2人は再び再会することを約束すると、軽く握手を交わした。


ガインは手を振りながら、村の外へ向かって歩き出した。


「うん、絶対だよ!それじゃあ!」


ユラトは静かに彼を見送った。


(ガイン……また機会があったら、セラリスやシェイミーと共に冒険しよう。ガインはガインで2人に負けず頑張れ……だけど……ほどほどに……俺は俺で頑張るよ)


ガイン・ウォードを見送ったユラトは、建物の中へ戻り、ジルメイダとリュシアの座っている席へ座り、しばらく談笑をしていた。


そして、ある程度話しを終えたユラトが建物から出ようと立ち上がったとき、ダリオが店の中に入ってきた。


「おっ、いたいた!」


ユラトたちを見つけると彼は、ジルメイダとリュシアのいる同じテーブルの席に着いた。


食事を注文すると、ギルドの新情報を見てきたらしく、ユラト達に話してきた。


「おい、お前ら。島の中央の町『レイアーク』でなんかあったらしいな」


その町の名をユラトは知っていた。


(レイアークって……確か、エルのいる町だったよな?)


食事を終えたリュシアが口の周りを『ラシ』と言われる木の葉っぱで拭くと、ダリオに尋ねていた。


「どんなことがあったんですか?」


この葉も、この森で新たに見つかった物で、繊維の多い葉で、天日干しした物を手でくしゃくしゃにしてから使うと、爽やかな清涼感のある香りがする葉だった。


「興味あるみたいだな……いいぞ、話してやる……」


ダリオは、書かれてあった情報について話した。


しばらく、ユラトたちは黙って彼の言う話に耳を傾けていた。


そして、その話の概要を聞き終えたジルメイダは、表情を曇らせた。


「物騒な話だね……犯人は見つかったのかい?」


「それがだな……」


ダリオは、話を3人にさらに続けた。


話を聞きながら、ユラトは幼馴染のエルディアのことを思い、心配した。


(エル……何もないといいんだけど……)


――― 数日前 ―――


場所は変わってここは、オリディオール島中央のとある場所。


カラーン!コローン!カラーン!コローン!


何かの合図なのだろうか、鐘の音が甲高く鳴り、辺りに響き渡っていた。


周辺の建物の中では一番高く、淡い青色の屋根の大きな鐘の付いた細長い建物だった。


周辺にいた鳥たちが音に驚き、一斉に羽ばたいていく。


まだ日は高く、丁度お昼時のようだった。


そして周囲の建物から続々と堰を切ったかのように外へ出て行く、若さ溢れる者たち。


「おい!あっちで今日は食べようぜ!」


「アミネー!先生が呼んでるわよ!」


「はは、お前ってそればっかりだなー」


全員、首に魔法陣の刺繍が入った、様々な色のスカーフのようなもの

を巻き、黒に近い紺色の首から下を覆うローブを羽織っていた。


ローブの襟や袖先のところに奇麗な花と植物の刺繍、そして雷や炎等の四元素を簡略化させた模様も施され、背中にはフードが付いていた。


どうやらここは学校で、その学校の制服のようだった。


その制服を着ている生徒達を近くにある図書室の建物の1階から、本を読むのを止め、窓越しに眺めている者がいた。


(もう……お昼………)


ここは、オリディオール中央のゾイル地域にある、地域最大の町『レイアーク』。


町の東西を標高が高く険しい岩山に囲まれ、その内側は森だったが、人々が大地の神殿の近くに町を必要としたため、森を切り開き、町を作ったと言われている。


そのため、町や魔法学院、大地の神殿は森に覆われている。


名前の由来は、魔王と戦った伝説の光の戦士たちの一人、大魔道師『ウィハル・レイアーク』から名づけられたと言われている。


この地域には、大地の神殿や北の方に島で一番標高の高い山『アルフィス山』、そして南の方には一番大きな森『ニーフェの森』もあり、その森の中に湖があって、そこにはこの島一番と評判の占いの館がある。


噂では、その館にはエルガイア三賢者の一人、『ベルキフォール・ラディンガー』の一番弟子、魔女『メディア・バルフロイ』が住んでいると言われていた。


しかし、それは誰も見た者がいないため、噂でしかなかった。


レイアークには、他にも審議会本部、冒険者ギルド本部、裁判所、人間たちの叡智の結晶が保存された大図書館、古代の名画や芸術品などが置いてある美術館、歌や楽器の演奏を行うことができる野外ホール、一年に一度行われる闘技大会の闘技場など、政治、学問そして芸術や文化などの中心地でもあった。


そして魔法学院もあり、学生達の町でもあった。


そのため中央の地域としては、唯一の人口の多い場所であった。


先ほど本を読むのを中断し、外の景色を眺めていたのは、女性だった。


ミディアムストレートの深い青色の髪で眼鏡をかけ、肌は白く、やや細い体の人物だった。


綺麗な二重の憂いを帯びた瞳、薄いピンクの唇、鼻筋の通った鼻。


美人と言われるものに属する人物のようだった。


制服を着ているのでどうやら、ここの学生らしいが、授業に出ていないところを見ると、そうでもないのかもしれない。


ここは、『ラドルフィア魔法学院』。


全寮制の学院である。


男女共学でオリディオール島の全地域から魔道師になるために人が集り、研究室などもあって学校としての規模は、島最大であった。


レイアークの町の北側の場所は、学院のある場所となっていた。


学院の西の方の敷地に魔法訓練場と寮があり、東には様々なアイテムなどが保存された博物館や、それらを研究する建物があった。


中央には大きな楕円状の広い中庭があり、そこを囲むように校舎が建っていた。


北側の中心に鐘の鳴る高い建物があり、そこに学院長室や教師たちの部屋、そして怪我の治療などを行う部屋があり、その建物の左右には図書室や自習部屋などがあった。


また中庭には、新発見によって見つかった新しい植物などが植えられていた。


回りに川のように流れる水があり、その中は広い陸地になっていて、そこに植物などが植えられ、色とりどりの花を咲かせ、よい香りを放っていた。


またここは、学生達の憩いの場でもあった。


談笑したり、本を読んだり、寝そべったりしている場所だった。


東の研究室の研究対象は様々で、新しく見つかった古文書やグリモワール(魔道書)などの分析や解読、魔族に関する闇のアイテムなどの鑑定、新しい動植物や鉱石を調べたりと数多くあった。


そして、その学院のある場所から更に北へ行った奥に地母神イディスの神殿があった。


この神殿の地下に聖なる大地の泉があり、そこで聖石は作られていた。


彼女は、再び本を読むのを再開しようと、目線を本の方へ移した。


そのとき、勢いよく木製のドアを開けて入ってくる者がいた。


その者は先ほど見た、この学院のローブを着ていた。


どうやら、ここの学生のようだった。


若干幼さの残る愛らしい顔立ちで、背中まで真っ直ぐ伸びた綺麗な艶のある銀色の髪を持ち、浅黒い肌で背丈は同年代と比べると低く、先ほどから図書室で本を読んでいた青い髪の女性を見つけると笑顔になり、元気よくその人物に話し掛けていた。


「あっ!やっぱり、ここにいた!エル先輩!」


エル先輩と呼ばれた女性は、静かに本を閉じると声をかけてきた女性の方へ顔を向けた。


「……どうしたの?シュリン」


シュリンと呼ばれた人物は、デュラン・マーベリックの妹のシュリン・マーベリックで、青い髪の女性は、ユラトの幼馴染のエルディア・スティラートだった。


彼女達は、同じ魔法学院の先輩と後輩の間柄だった。


この学院では、レイアークの町の人々からのクエスト(依頼)を受けることができる。


そして、それを卒業までにいくつか達成しなければならなかった。


また、実家にあまり経済的に迷惑をかけたくない者は、積極的に報酬の貰えるクエストをこなすことで、生活費の足しにしている者も少なくは無かった。


シュリンは元気で明るい女の子で、友達もたくさんいるようだった。


エルディアは、どちらかと言うと人見知りするタイプで、喋ることもあまり得意ではなかった。


シュリンは、自分には無いものをたくさん持っていると彼女は、やや羨ましく思っていて、その明るさにエルディアは何度も救われていた。


イシュト村にいるときは、ずっとユラトがシュリンと同じように明るい声で自分を引張ってくれた。


この学院に入った一年目は、ほとんど友達も出来ず、馴染めないことも多く、一人寂しい日々を彼女は送っていた。


しかし、二年目になったときに、シュリンはやってきた。


ある日、クエストのことで困っているシュリンを、エルディアが助けることがあった。


それは、この学院の伝統で新入生全員に、やや高い難易度のクエストを与え、先輩の力を借り、共にクエストこなすと言うものだった。


同じ寮で生活していく上級生と下級生をうまく馴染ませるために行われているものだった。


シュリンは、なぜか学院の中庭の端の方で一人黙って座り、本を読んでいるエルディアを見つけ、近づくとクエストの手助けを頼んできた。


そして、そのことがきっかけで2人は知り合い、なぜかシュリンは、エルディアのことが気に入ったようで、彼女を見つけては声をかけて来たり、共に食事や買い物に出かけたりするようになり、いつの間にか仲の良い関係になっていた。


シュリンと知り合うことで、エルディアの灰色だった日常は、彩られた日常へと移ったように思えた。


たまに彼女の明るすぎる性格を持て余すこともあったが、それは贅沢な悩みだとも思っていた。


シュリンは、今日も元気にエルディアに話し掛けていた。


「エル先輩、もうすぐ、『ヴァルプルギス』ですよね!」



【ヴァルプルギス】


この世界の場合、『ヴァルプルギスの夜』と呼ばれ、その夜は死者と生者との境が弱くなる時間とも言われる。


島全体で行われる春の祭り。


町の中央に大きなかがり火が焚かれ、飾り付けをし、春の歌を歌い、豊穣を願う。


大人たちは蜂蜜酒を飲み、子供はラプルの果汁を飲み、皆で豪勢な食事を楽しむ。



エルディアは、シュリンほど楽しみでは無かったので、適当に答えた。


「ええ、そうね……」


「あれー、楽しみじゃないんですか?」


「……シュリンは、楽しみみたいね」


シュリンは、目を輝かせて話していた。


「そりゃあ、そうですよー。お祭りは昔から大好きなんです!町が華やかになって、みんな楽しそうな顔で……それに、美味しい物も食べれるんですよ!」


エルディアは、ユラトがここに居たら楽しめただろうなと思った。


視線を少し宙に浮かせて想像していた。


(二人で……)


それを見たシュリンは、少し意地悪な表情になり、エルディアに質問していた。


「あれ、あれ~エル先輩、ひょっとして、故郷の彼のことでも考えてたんですか~?」


図星を指されたエルディアは驚き、そして狼狽えた。


「……っ!……違うわ……特に何も……考えてなんか……」


そんな彼女の様子を見たシュリンは笑いを堪えながら、澄ました顔で答えていた。


「はいはい、ご馳走様です!(相変わらず……ふふっ……)」


エルディアは、シュリンの明るすぎる性格だけで無く、たまに見せる彼女の意地悪な部分に困ってもいるようだった。


「いつもそうやってシュリンは……茶化さないの……」


堪えきれず笑みをこぼしてしまったシュリンは、その後、普段の表情に戻り、心配そうにエルディアに尋ねていた。


「ふふっ……でも先輩、その人、先に冒険に行ったんでしょ?先輩を置いて……」


エルディアはシュリンの質問に、やや伏せ目がちに、そして少し寂しそうに答えた。


「……ええ、手紙にはそう書いてあったわ……(今はハイエルフの国を探して深い森の中……とにかく無事で……ユラト……)」


それを聞いたシュリンは、まるで自分の事のように抗議の声を上げた。


「ええ~!約束してたんでしょー、酷いじゃないですか!」


「好奇心だけは旺盛だから……待てなかったみたい……」


シュリンは腕を組み、眉をひそめ、力強く叫んだ。


「ん~、それならここへ、迎えに来るべき!」


「私がもうすぐ村に帰れそうだって、言えてなかったのもあるから……」


エルディアは、本当は冒険者などにはなりたくはなかった。


しかし、ユラトが冒険者になって、自分の呪いを解くことを自分の手でしたいと言い出したため、彼の傍に居たかった彼女は、渋々冒険者になる道を選んだのだった。


本当は同じ剣士の学校へ行こうかと思ったが、自分は小さい頃から、体を動かすことがあまり得意ではなかったため、魔道師になる道を選んだ。


今思えば、あの黒髪の青年は、小さいときから好奇心旺盛で、村のあちこちに自分を連れまわし、色んな目に合わされた。


だが、それは楽しい毎日だった。


村長の家に引き取られ、二人とも両親がいなくて寂しかったが、同じ痛みを知る人が自分だけではなかった。


夜中、突然目が覚め、2人で手を握って、何度も泣いたこともあった。


また彼は、最初凄く落ち込んでいたが、いつの間にか元気になっていて、部屋に塞ぎ込みがちだった自分を外へ連れ出してくれた。


「エル……一緒に外へ行こう……君の傷は見えない……俺の傷も……触れて擦ってあげることもできないんだ……」


ユラトは自分の胸に手を当て、服を握り締めると苦しそうに顔を歪め、視線を少し下へ向けた。


悲しい気持ちが、胸を締め付ける苦しみとなって、溢れ出てきた。


それをぐっと堪え、今度は真っ直ぐ彼女を見つめた。


「……それは………心の傷だから………」


「ユラト……」


「決して誰も見ることも触れることもできない場所なんだ。だけど、俺には分かるよ、その傷の大きさも……痛みも……俺にもあるから……その傷は大きいんだよね……とっても……そして苦しいんだ……」


「……うん」


エルディアの不安で悲しげな表情を見たユラトは彼女に近づくと、優しい声で囁くように言ってきた。


「……だからエルが不安になる度に言うよ、大丈夫だって、心配しないでいい、怖くないって……何度でも……何度でも言うさ!……そうやって、君の心の傷を俺が治してやるから……だから、一緒に外の世界の広がる青空を見て、風を匂いを知って欲しいんだ!」


「……匂い?」


「うん!色々なところがあって、草や花の香りがする場所もあるんだ!……それから他にも綺麗な景色のところとかね。だから、俺が連れて行ってあげるよ……エルが望む場所へ!」


そう言って、彼はエルディアの手を握り、頭を撫でながら、その言葉を言ってくれた。


(その大きな傷に直接触ることすら出来ないのなら……いくつもの言葉で君の心の傷に触れ、少しでも痛みを和らげてあげよう……いつも一緒さ……エルディア……)


「ユラトは……苦しくないの?」


「……俺はもう大丈夫さ……ほんとだって!(エルの笑顔を見れば、俺の心の傷は、塞がっていくよ……)」


たまにそういう表情をすると、他のことだと面倒くさがるのに このことに関してはすぐに、彼はそれを察知してしてくれるのだった。


同じ傷を背負い、2人は助け合いながら村の中で共に成長した。


少しづつお互い、本当の笑顔が戻り、今ある幸せを噛み締めた。


この黒い霧に包まれた暗黒世界と言われる世界の中で、2人は生きると言う光を生み出し、そしてその照らされた場所に小さな居場所をつくり上げた。


自分たちの努力によって。


エルディアの夢は、普通の家庭を持つだけでよかった。


共に田畑を耕し、作物を育て、たまに本を読みながら、子供の面倒や家事をしてイシュトの村でのんびり平穏な毎日を過ごす。


もしくは、アートスの町やイシュト村の教師として働き、彼が島の自警団にでも所属して、過ごしてもいい。


それでいいではないか。


何も自分から危険な冒険者になど、なる必要なんてないはずだ。


呪いを解く方法なんて、別の誰かが霧を払っていく中で、いつか見つけてくれるだろう。


普通の生活を営むぐらいなら支障もないはずだ。


それなのに彼は、行くと言った。


でも、しばらく冒険をしたらきっと飽きるか、危険だと知って安定を求めるだろうと、彼女はそう思っていた。


それまでは、ユラトに付いて行くために、何事も起こらせないようにするだけの実力を身に付けよう。


そして、彼の背中を守ろう。


(そうすれば……きっと……だけど、それは私の勝手な願いでしか……ユラトはどう思っているの……)


シュリンが上の空でいるエルディアを見て肩を揺すっていた。


「エル先輩!考え事ですか?」


エルディアはいつの間にかユラトとの事を深く考えてしまっていたようだった。


「……ごめん、シュリン。ちょっと考えちゃってたみたい……」


シュリンは、思い悩んでいるエルディアを見ることは中々なかったので少し驚いていた。


「いやー、珍しいですねぇ。先輩がそんなに集中して考え事するなんて……まあ、いいですよ。それより……」


バタンッ!


シュリンが話を再開しようとした、その時、勢い良くドアを開け、部屋に入ってくる者がいた。


その者は、部屋に入るなり、辺りを見回すと、エルディアを見つけ、すぐに彼女のもとへやって来た。


「こんなところにいたのね……手間をかけさせないで頂戴!エルディア、学院長が呼んでいるわよ」


「……学院長が?」


「ええ、そうよ、ちゃんとあなたに伝えたわよ!全く、私は忙しいのに!クエストだって言うから……」


このヒステリックな声を上げた人物は女性で、名前を『エレーナ・マキュベル』と言った。


釣り上がった目に、すらっとした手足の長い体型、明るい黄土色の腰まである長い綺麗な髪に、涼しげな水色のリボンを付けた女性だった。


見た目は体型の良い、美しい女性だった。


この魔法学院で学ぶことによって、一定の知識や教養を身につけることが出来るため、社会的に地位の高い人物の子供や、裕福な層の子供たちも、多く在籍していた。


彼女の父親は、オリディオールでも3本の指に入るほどの有名な宝石商だった。


一人娘で両親に溺愛され、欲しい物は何でも買い与えられ、我がままに育っていた。


そして、エルディアにきつく当たっていたのは、他にも理由があった。


それは、エレーナの意中の男性が、エルディアを気に入っていたからであった。


それもあってか、彼女はずっとエルディアに対抗意識や嫉妬心を向けてきていた。


しかし、エルディアはそういったことには、ほとんど気づかなかったし、気にもしていなかった。


それが余計にエレーナを怒らせる結果になっていた。


エレーナは何かを思い出したのか、不敵な笑みを浮かべながら、エルディアに話し掛けていた。


「今度のヴァルプルギスにお父様主催のパーティーがあるの……ふふっ、彼も来るの……あなたも呼んであげてもいいのよ?……だけどちゃんとした格好で来てね!そしたら、入れてあげる……ふふふっ」


エルディアは表情を変えることなく、答えた。


「……興味ないわ」


シュリンもやや挑戦的にエレーナに不参加を表明していた。


「あたしも興味ありませーん!」


それを見た、エレーナは目を吊り上げ、シュリンに言い放った。


「あんたには言ってないわよ!貧乏宿屋の小娘なんかに言うわけないでしょ!」


それを聞いたエルディアは、すぐに反応した。


「エレーナ、それ以上言うなら許さない……」


エルディアは眼鏡を取り、目を細め、冷たい眼差しでエレーナを静かに見つめた。


エレーナはエルディアの迫力に、恐れおののいた。


「ひっ!……な、何よ、あたしに何かしたらお父様が黙っていないわよ!」


「あなたのことなんてどうだっていい……だけどシュリンや家の悪口は許さない……」


エルディアは知っていた。


シュリンの家の家計が苦しく、彼女の母親が必死になって娘の夢を実現させるために、学費を捻出していたことを。


そして、父親がいないことも知っていた。


彼女の夢は世界の料理や料理史の研究者になることだった。


世界の様々な料理を実家の宿屋のメニューにして、島一番の宿屋にし、有名になれば、父親も帰ってくるかもしれないと言うものだった。


それだけに、エレーナの言葉は許せなかった。


「ふん!確かにあなたに連絡は伝えたわよ。私だって、あんたたちなんか、どうだっていいんだから!」


そう言ってエレーナは、ドアを強く閉め、部屋から出て行った。


シュリンはドアに向って顔をしかめ、舌を出していた。


「べーっだ!私、あの人凄く嫌いです!ちょっとお金持ちだからって、いつも偉そうにしてて、あたしの友達にも言ってて、評判悪いんですよ!」


「……放っておけばいいわ、相手にする必要なんてない……」


「だけど、先輩。代わりに言ってくれてありがとうございます。ちょっと、すーっとしました!けど、あのまま、あの人が言ってたらどうなってたんですか?」


「……焼いてたわ」


シュリンは驚き、止めるように言った。


「―――えええっ!それは、流石に不味いですよ!」


「……冗談よ」


「そ、そうですか……まあ、そりゃそうですよね……(たまに冗談か本当かわからないときが……)」


「……焦がすぐらいで許すわ」


シュリンは再び驚いた。


「えっ……」


そして彼女の驚く顔を見た、エルディアは、少し笑っていた。


「ふっ……これも冗談よ」


からかわれたことを悟ったシュリンは、両方の頬を膨らませ抗議した。


「もうっ!先輩!からかわないで下さいよ!」


膨れっ面の彼女を見たエルディアは軽く笑みを浮かべた。


「ふふ、ちょっとだけさっきのお返し……シュリン……学院長に呼ばれているみたいだから、私は行くわ」


「……そうですか。でも、なんの用事でしょうね?」


「……さあ」


エルディアは眼鏡をしまうと立ち上がり、本を元にあった場所へ入れ、部屋から出て、学院長のいる部屋へと向うことにした。


そして部屋を出た瞬間、シュリンが男の学生とぶつかった。


中性的な顔立ちの線の細い、黒髪の男だった。


「―――痛っ!」


彼女は、その男の胸の辺りに頭を打ち付け、軽くよろめき、壁に手をつき、男は僅かに体制を崩しただけだった。


しかし、手に持っていた本が落ちる。


「あ……」


男はシュリンを睨みつけると、甲高い声で怒鳴り声を上げた。


「おい!気をつけろ!」


エルディアはシュリンに近寄り、彼女の安全を確かめながら、落ちた本を見ていた。


(……見たことのない文字……あれは……?)


シュリンは口元を膨らませ、反論した。


「……むぅー、そっちもちゃんと前を見てなかったでしょ!……あっ……」


「うるさい!どけ!」


男はすぐに彼女を跳ね除け、本を拾うと、どこかへ行ってしまった。


エルディアは、先ほどの本が気になっていた。


(ちょっと見てみたい……だけど、あれは、新発見か何かで見つかった物?……)


エルディアは、シュリンのことをすぐに思い出し、無事なのか彼女に尋ねた。


「シュリン、大丈夫?」


「はい……」


シュリンは何かを思い出したのか、怒るのをやめ、冷静になっているようだった。


「エル先輩、あの人って確か……」


「シュリン、知っているの?」


「前に見たことがあるんですけど……確か、名前はクリ…ス……『クリス・ヴィガル』だったかな?」


エルディアは、その名前を聞いて思い当たることがあった。


「『ヴィガル商会』……」


「あっ!そうですよ、あの人、ヴィガル商会の一人息子のクリス・ヴィガルですよ」


2人は学院長室目指して歩き出した。



【ヴィガル商会】


近年、急成長をしオリディオールにある商会の中でも上位に属する商会である。


しかし、評判は良くなかった。


儲けている主なものは、盗品などが集まる闇市や娼館、闇賭博などで、財を成したと言われている。


最近は世間の目も気になるのか、表の仕事で儲けていることになっていた。



ヴィガル商会の事を思い出したシュリンは、自分が知っている事をエルディアに話した。


「しかも、あの人の親が学院にかなりの額の寄付をしていて、なんでも特別扱いされているとか……確か、男子の友達に聞いたんですけど、寮の最上階の一角にあの人専用の部屋があるって言ってましたよ。だから、誰も入れないみたいなんです……」


「そうなの……」


しばらく歩いていると、外の景色が見える廊下へ2人は辿り着いていた。


学院長の部屋は、もうすぐそこの場所だった。


エルディアが辺りをふと見ると中庭が見え、学生たちが談笑しながら昼食を取っているのが見えた。


(……そう言えば、お昼だったわね……あとでシュリンと一緒に寮の部屋で……)


寮の部屋は基本的に相部屋になっていた。


エルディアとシュリンは同じ部屋だった。


最近、学院を去る女生徒がいた。


それは、シュリンの部屋だった。


そこで彼女はすぐに寮長に掛け合い、交渉の末、エルディアに来てもらっていた。


だから、階の一部を独占することなど、信じられなかった。


「羨ましいと言えば羨ましいですけど……広すぎて寂しくないんですかね?」


「……そうね……だけど、今の部屋が少し狭く感じるのは、シュリンが色んな物拾ってくるからでしょ……」


そう言われたシュリンは少しだけ、うろたえた。


「うっ……そうですけど……けど、必要なんです!」


「シュリン……ちょっとは片付けて。寮母のリーネさんは、凄くうるさいんだから……」


2人は学院長のいる部屋の前に、いつの間にか着いていた。


他の部屋の扉と比べると大きく、頑丈そうなつくりの木製の扉だった。


「はーい……あっ、もう着きましたよ」


「ええ、そうね……じゃあ、行ってくるわ……」


「はい!行ってらっしゃい!私は、一足先に寮の部屋に行ってきますね。あとで一緒に!」


そう言ってシュリンは、手を振ると走り去っていった。


それを確認したエルディアは、木製のドアを軽くノックした。


コンッ!コンッ!


そして、名を告げようとしたとき、部屋の中から高齢の男性の声がした。


「……入ってきなさい」


エルディアは、すぐに部屋に入った。


「はい……」


部屋の中に入ると、学院長と他にも2人の男がいた。


一人は、白い髪を持ち、褐色の肌の男で、耳に少し大きめの金で出来たイヤリングをし、首にはネックレスをしていて、普段着の上にクロークと言う、襟があり、袖のない深い朱色の外套を着ている者だった。


見た目は優男と言う感じだった。


もう一人は青味がかった灰色の髪をもち、整った顔立ちの切れ長の目つきの鋭い男で、スケイルアーマーという、シーサーペントの鱗で作られた青い鎧を着て、腰にはロングソードをぶら下げていた。


2人ともエルディアよりも遥かに背は高かった。


そして学院長は2人の男を前にして大きく重量感のある、机の近くの椅子に座り、待っているようだった。


2人の男は彼女が部屋に入るなり振り返った。


「………」


「あ……」


二人は、それがエルディアだと分ると彼女を見るなり、笑顔になっていた。


白い髪を持ち、褐色の肌の男が声をかけてきた。


「やあ、エルちゃん!まさか、あなただったとは!」


もう一人の男も声をかけてきた。


「エルディアか!それならば、この話考えてやってもかまわんぞ、学院長」


褐色の肌の男が、目つきの鋭い男に向って、やや呆れ気味に話し掛けていた。


「あなたは分り易いですね……『クフィン』……」


すぐに青い鱗の鎧を着た男は反論していた。


「黙れ、お前は金のためだろ、『カーリオ』」


カーリオと言われた男は、やれやれといった感じで青い鎧の男に話した。


「……失礼なことを言わないで下さい、クフィン……他にも理由はたくさんありますよ?それにエルちゃんが手伝ってくれるなら早く終わりそうですし……」


「貴様!さっきから馴れ馴れしいぞ!」


エルディアは2人を軽く睨み、静かにするように言った。


「2人とも静かにして……」


クフィンと言われてた男は無表情なまま黙り、カーリオと言う人物は両手を広げ、にやけながら黙った。


クフィンと呼ばれた男は、名を『クフィン・ダルグレン』と言った。


彼は、『オリディオール自警団』に所属する人物である。



【オリディオール自警団】


冒険者ギルドと並んで、審議会の下部組織。


最初は、オリディオール島を守る為に組織された団体だったが、近年、開拓地が増えたため、新たに開かれた町も守護する対象としている。


主な仕事は、治安の維持、暴徒の鎮圧、災害救助、滞納している税の徴収、要人の護衛、そして、時には海賊や山賊とも戦ったり、町に現れた魔物との戦闘など非常に多くの任務をこなす。


軍隊のように階級が存在する。


また、冒険者から自警団にクラスを変えることもでき、その逆も可能であった。


そのため、冒険者を引退した者などが多く在籍していた。



クフィンは、何となく生きていた。


剣の腕はかなりあったが、冒険者には興味を示さなかった。


人付き合いもあまり得意ではなかった。


一日中喋らないでいても平気なほどだった。


彼は一度だけ冒険をして魔物と戦い、それなりの報酬を獲得することに成功していたが、特に冒険者として喜びや、やりがいを見出せなかった。


だから彼は比較的安全な自警団へ道を進めた。


彼の配属先は、このレイアークの町だった。


町に配属された彼は、何も起こることのない日々を過ごしていた。


クフィンは、学院の警備を中心に行っていた。


いつものように校舎の回りを巡回する。


そして、今度は庭園の中を歩いた。


毎日同じ事をすることに飽きていたクフィンは、その日、いつもと違うことを少しだけしようと思った。


それは普段巡回しないところをするというものだった。


そんな時に、彼はエルディアと出合った。


彼女は中庭の庭園の大きな木が茂っている場所の近くで座り、毎日同じ場所で本を読んでいた。


表情一つ変えることなく。


いつも一人だった。


それは自分も同じだった。


クフィンは、そこに親近感を感じた。


この女も何もなく、何となく生きているのか?


自分と同じように。


校舎で見かけても誰かと会話しているところも見なかった。


彼女は、いつもつまらなさそうにしているように見えた。


毎日繰り返される同じような出来事。


変わり映えのしない会話。


その後、一年ほどが経ったある日、この女に友人が出来ているようだった。


彼女は一見すると変わらないように見えたが自分には分った。


以前より明るく、活き活きとしていた。


そして、さらに嬉しそうにしている日があった。


それは手紙を読んでいる時だった。


嬉しそうだったり、寂しそうだったり、懐かしそうに僅かだが表情を変え、手紙を読んでいた。


いつも読んでいる本では、そんなことは無かったのに。


クフィンは、なぜか気になった。


そしてあるとき、彼女が何かを一人で雨の中、中庭を探していたことがあった。


どうやら、眼鏡を無くしていたようだった。


そのとき初めてクフィンは、エルディアに声をかけ、探すのを手伝った。


エルディアは「自分で探すからいい」と言っていたが、それを無視して彼は無言で手伝った。


しばらくしてクフィンが彼女の眼鏡を見つけることに成功した。


(……ん、これか……)


しかし、どうやら誰かに意地悪されていたようだった。


彼女の眼鏡が割れていた。


「……おい、女。これはお前のか?」


クフィンから奪い取るように眼鏡を取ると、割れていることにエルディアは気づいた。


「あ……」


彼女はそれを大事そうに抱え、その場でうずくまった。


2人とも無言でしばらく雨に打たれていた。


「………」


ある程度時間が経った所でクフィンが沈黙を破った。


「……とりあえず、ここにいても冷えるだけだ……その眼鏡は諦めるんだな。そうなってしまってはどうしようもない……」


エルディアは無言で立ち上がった。


クフィンは、その時、彼女が悲しそうな顔をしているのを初めて見た。


(大事な物だったみたいだな……そう言えばカーリオの奴から聞いたな……あの手紙は故郷の人間から送られてくると……いつまでもそんなことでは……)


クフィンは彼女の腕を引張り、呼び止めた。


「おい、いい加減、故郷と言う過去ばかり見るのはよせ!今を見つめ、この場所で精一杯生きろ。お前は、今この学院にいるんだ。だから、その眼鏡は俺が忘れるために捨ててやる。もうそうなっては必要ないだろ、俺に渡せ!」


彼はエルディアから奪い取ろうとした。


しかしクフィンは思いっきり、頬を引っ叩かれた。


雨のせいで濡れていたためもあって、水面を叩くような音が辺りに響いた。


「―――っ!」


そのときクフィンは、肉体的な痛みだけではなく、心にも痛みが走った。


その痛みは全身に駆け巡るようだった。


(―――これは!?)


この瞬間、彼は自分が生きていると初めて実感した。


今まで自分が経験したことの無いこと。


少しだけ気になった人物に頬を叩かれた。


ただそれだけなのに。


何もない灰色の夢の中を彷徨うような日々に突然起きた、痛みと言う現実。


肉体的な痛みは、これまで何度もあった。


だが、心の奥底まで来る痛みは今まで無かった。


(これが生きると言うことか!……これが!)


胸の奥に熱い炎が宿ったように思えた。


彼の灰色の日常はその時、色をもった。


そして彼は思った。


(いつの間にか、好いていたんだ……俺は……この女を……なぜかはわからんが……自分が感じたことを信じてみよう……それが、今までの俺に無かったことだ……そして、始まりと言うやつは、こんなもんでいいんだ……今の俺にとってはな!)


雨降る中、クフィンは叫んだ。


「おい、女。俺はお前が好きになったらしい……だから、俺の女になれ!」


エルディアは、そんなクフィンを無視し、その場を走り去った。


そこには雨に打たれ、呆然と立ち尽くすクフィンだけがいた。


(どういうことだ……?)


そして何日か経ったとき、クフィンはエルディアのもとへ謝りに来た。


自分が失礼なことをしたと言うことを、カーリオに言われ、気づいたクフィンは彼女に謝った。


どこか自分は他の人と比べて、何か欠如しているところがあるとも言っていた。


だが、好きだと言うことは本当だとも言っていた。


そしてカーリオからの助言だったが、「友達でいいから、たまに話をしてくれるだけでいい」とクフィンは彼女に言った。


エルディアも、あの後、眼鏡を見つけてくれたのはクフィンだったのを思い出し、その相手に暴力を振るってしまったことを少し後悔していた。


だから彼女は、渋々許すことにした。


たまにクフィンから、他愛もない話をエルディアにする程度の間柄だった。


そして今に至るのだった。



もう一人のカーリオと呼ばれていた者は、名前を『カーリオ・バルド』と言った。


彼はジルメイダ・バルドの息子だった。


このラドルフィア魔法学院を卒業し、学院の東に研究部屋を持っており、父親と同じく鉱石の研究をしていた。


エルディアが学院に入った年に始めて行った新入生のクエストで、人見知りが激しい彼女が困っていた時に、カーリオがそれを察したのか、声をかけてくれた。


彼はその時、最上級生だった。


そしてクエストを無事終えたときに、彼はエルディアに甘い言葉を巧みに使い、口説いてきた。


だがエルディアは、すぐにはっきりと迷い無く断った。


あまりの速さにカーリオは目をしばたかせ驚き、声を上げて笑った。


「ははははっ!こんなに早く拒否されたのは初めてですよ……だけど、なんとなく最初からわかってました。断られるかなって……ね」


「……じゃあ、なぜ手伝ってくれたんですか?」


「んー、「困っている魅力的な女性は、絶対に助けなさい」って親にそう言われて育ったんです」


その答えにエルディアは呆れていた。


「何それ……」


彼女の呆れ顔を見たカーリオは、軽く笑った。


「ははっ!」


そしてそのことを教えた人物を思い出した彼は、なぜか先ほどのような元気はなくなっていた。


「……詳しく言うと父親なんですが……ね……」


「変わった人ですね……」


「ああ、私にはそんな畏まった言い方しなくていいですよ。好きじゃないんです……私の家の者は、みんなそうなんですよ」


「……わかった……」


彼女の答え方に満足したのか、カーリオは再び表情を明るくさせ、エルディアに話しかけた。


「ふふっ、それでいいですよ。よろしく……そして、ようこそ!ラドルフィア魔法学院へ、エルちゃん」


カーリオは一度断られたら、すぐに諦め、また別の可能性のある新たな出会いを求めて向って行く人物のようだった。


エルディアを口説いたのは、その一度限りで、そのあとは普通に友人のように、困っていたら色々と教えてくれていた。


だから彼女はカーリオには感謝もしていた。


だが、魅力的な女の人を見つけたら、すぐに声をかけているのは相変わらずだった。


そして、クフィンとカーリオは学院である事件が起こったことをきっかけに知り合ったと言っていた。


「スティラート君の言う通りだ。まだ彼女は決めていないんだぞ!全く……」


ここでやっと学院長が、口を開いた。


学院長の名前は『オイゲル・ラドラー』と言った。


彼は最近、学院長に就任したところだった。


元々この男は、中堅の商会を運営していた。


魔法学院の学院長は審議会のメンバーになることができる。


メンバーになることができれば、様々な美味しい思いが出来るのだと言う。


前任の学院長が年老いたことにより、引退すると言う話を聞き、彼は審議会のメンバーになるために各地に根回しや賄賂などを送り、政治的な思惑で就任した人物だった。


だから魔法とは無縁の人物だった。


またオイゲルは金目の物に目が無い人物でもあった。


今日も良く見ると、手に何やら不気味な杖を持っていた。


杖の頭の部分に4つの小さな骸骨がある杖だった。


それを見たカーリオが学院長に聞いていた。


「なかなか良い杖を持ってますね、学院長」


オイゲルは嬉しそうに答えた。


「……ん、おお、君には分るかね?……フフフ、これはね、つい先ほど届いた物だ。知り合いからの頂き物だよ」


クフィンは眉をひそめながらオイゲルに尋ねた。


「それは……『ユニークアイテム』か?」


冒険者は、冒険などで、武器や防具や道具などのアイテムを手に入れることがある。


そして、それらのアイテムは鑑定士に見せることで、様々な等級のようなものに分けられる。



【アトリビュート】 神が持っていた、もしくは神が直接生み出した、作ったと言われるアイテム。


【レジェンド】  伝説の偉人が持っていたと言われる物。


【ユニーク】   古代の名工や名のある職人が作った一点もの。


【レア】     通常のアイテムより、良い魔法のルーンなどの特殊効果がたくさんついていたりする。


【ノーマル】  低級のルーンなどが数個ある程度の物や量産品等の普通のアイテム。


【セットアイテム】  特別なルーン等が施された物で、全て揃うことによって、特殊な魔法の力が発動することが出来るアイテム。


これらは、重なることもある。


そう言った場合は、より高いものから名を呼ばれることもある。


レジェンドユニークとか、ユニークレアなどと呼ばれる。


エルディアは、その杖が持つ邪悪な姿に、思わず自分が思ったことを口に出していた。


「……呪われていそう……」


それを聞いたオイゲルは軽く笑うと、髑髏の杖を見ながら大丈夫だと言ってきた。


「ははっ、私も最初はそう思ったがね、発見されてすぐに鑑定に出したら、どうやら呪われてはいないみたいなんだ。しかし、今のところ、どの文献にも載っていないらしくてね……だから、アイテム研究の方へ渡そうと思っておるのだが……まあ、ユニークなのは確実だよ、はははっ!あとは、レアかレジェンドか……値の張る物に違いは無いはずだ」


そう言ってオイゲルは嬉しそうに杖を撫でていた。


「……それで学院長、私達に話とは?」


カーリオが本題を聞こうとしていた。


「ああ、そうだった。実はな、今日3人を呼んだのは、あることを調べて欲しいんだ」


それを聞いたエルディアが怪訝な顔をし、尋ねていた。


「……あること?」


そこでオイゲルの表情が曇った。


あまり言いたくなさそうに、彼は話を始めた。


「……まだ、噂程度の話らしいいんだが………どうやら最近、学生達の中で悪魔を呼び出す儀式をしている者がいるという話があってな」


クフィンもエルディアと同じような顔になり、オイゲルに聞いていた。


「そんなことをして何になるんだ?」


エルディアが答えた。


「願いを何かと引き換えに叶えてくれるって、本で読んだことある……」


彼女の話を聞いたカーリオは、良からぬ事を考えているようだった。


表情を緩ませ、天井を見ながら呟いていた。


「願いですか……それなら私も叶えて欲しいですねぇ……」


その呟きを聞いたクフィンが、カーリオを睨みつけながら話し掛けた。


「お前はどうせ、女か石のことだろ」


カーリオは全く気にすることなく、クフィンに答えた。


「お、分ってますね、クフィン。これ以上最高なことなんてありますか?」


クフィンはすぐに反論していた。


「それはお前だけだ、一緒にするな!それに……」


2人のやり取りを我慢して聞いていたオイゲルが話を本題に戻そうと会話に割って入ってきた。


「こら、君達、話が逸れているぞ!」


カーリオが、すぐにオイゲルに謝っていた。


「これは、これは、申し訳ありません、ラドラー学院長。それで、私たちにどうしろと?」


「君達には、その噂が事実かどうかを調べて欲しいんだ。そして、もし、そのようなことをしている者がいた場合、直ちにその行為を中止させ、私のもとへ連れて来て欲しい」


エルディアが最悪の事態を想定して聞いていた。


「………既に呼び出されていたら?」


「その場合は、直ちに私のもとへ連絡を。そして、自警団にも連絡をしてくれ」


クフィンが部屋にいる全員に、ふと思った疑問について尋ねていた。


「しかし、召喚魔法さえまだ一つも見つかっていないんだろ、どうやって呼び出しているんだ?」


オイゲルは髑髏の杖を丁寧に机に置くと、それに答えた。


「……実はな、このオリディオール島から北東で新大陸が発見されたのは知っておるな?」


「ええ、ゼグレム・ガルベルグが発見したと言う場所ですよね?」


「そうだ、新大陸に行った者の話だと、その大陸で新たに霧が払われた場所で、古代の町が見つかったらしいんだ」


「……そんなものが見つかってたんですか」


「海沿いの所らしいが……そこの領主らしき人物が住んでいた家の中に、悪魔にまつわる儀式の書『ギルベイロンの書』と言う物があったらしいのだ……」


「らしい……?」


エルディアに曖昧な部分を指摘されたオイゲルは、表情を曇らせながら答えた。


「それなんだが……実はな、東のバルディバの港に夜着いたときに、強盗団が現れて、盗まれたという話だ。腕にサソリの刺青を入れた集団だったらしい」


「なんですかそれは……」


「だから、絶対に無いとは言い切れないのだよ」


「その盗品を学生が?」


「まあ、あくまで可能性の問題だ。それに、盗まれてから、この噂が流れ出しておるらしいからな……この時機を考えると噂だけで終わらせるわけにはいかんのだよ」


カーリオは腕を組み、右手を顎に当て、呟きながら考えていた。


「ふむふむ……それに、魔法になりますからね……そうなると、使う人物は魔道師しかいませんからね……限られてくると……ふむふむ……」


「今は、君達も知っているだろうが、自警団の人数が足りていないのが現実としてあるのだよ。西のラーケルとゾイルを結ぶ道の復旧作業もまだ完全には終わっておらんし、西の新大陸に出来た新しい町の警備などもある……とにかく忙ししいらしい……そこで、手の空いているだろう君達3人に学院からのクエストとして依頼したい、ちゃんと報酬も払うから安心してくれ」


オイゲルの報酬と言った部分にカーリオが素早く反応していた。


「素晴らしい!学院長のこの学院を思う気持ち、私は痛く共感しました!私は、しますよ!」


クフィンはまたしても、カーリオを睨みつけていた。


「お前は、どうせまた女に金使って、金に困ってるんだろ」


「クフィンさん、人聞きの悪いこと言わないで下さい!私は、一重にこの学院を思ってですね……」


遮るようにクフィンは言い放った。


「うそ臭い奴だ」


「そういうあなたはどうするんですか?自警団のあ・な・た・は」


「……俺か、俺は……」


そう言ってクフィンはエルディアを見た。


どうやら彼女がするなら彼もするようだった。


エルディアは考えた。


(卒業までに達成したクエスト数が、まだだったわ……)


人付き合いが苦手だったエルディアは、他の科目や試験などは修了していたが、クエストだけはまだ達成できていなかった。


それを忘れていてユラトや村長に、もうすぐ帰れそうだという手紙を出していた。


だが、クエスト数がまだ足りなかったために、帰郷することは出来ていなかったのだった。


しばし考え込んでいるエルディアを見た学院長が、彼女の事情を察して話し掛けてきた。


「このクエストを達成したら、卒業できるように私が取り計らってやろう。それでどうだね?スティラート君」


「……いいんですか?」


「ああ、かまわんよ。点数を多めに付けて依頼書にサインしておくから頼むよ。あの2人だけだと心配だからな……」


「クフィン、言われてますよ」


「学院長は2人と言っただろ……お前も同じだ」


「ちゃんと聞いてたんですね……」


「当たり前だ!」


学院長は2人を無視し、エルディアに尋ねていた。


「それで、どうするかね?」


エルディアは、やることに決めた。


(これが終われば、ユラトのもとへ行ける……なら、やるしかない……)


学院長を真っ直ぐ見つめ、彼女は短く「やります」と言った。


それを聞いたクフィンは、すぐに自分もやると言っていた。


学院長は嬉しそうにしていた。


「おお、そうか!じゃあ、頑張ってくれ!……だが、問題はくれぐれも起さないようにな。程々のところで切り上げてくれてもかまわん。学院として一応調査はしましたと言うものさえ残ってあればそれでいいからな」


その後、いくつか説明が続き、依頼書にサインすると、3人は部屋から出た。


部屋に出るなり、カーリオが2人に明るい表情で話し掛けていた。


「じゃあ、3人でうまくやっていきましょう!」


クフィンがカーリオを睨みつけ呟いた。


「……お前が一番心配だ」


それを聞いたカーリオは両手を広げ、抗議した。


「なぜです!」


「捜査を偽って、女を口説きそうだからな」


カーリオは、動揺していた。


「し、しませんよ!そんなこと……」


エルディアもクフィンの言う事に現実味を感じていた。


彼女は疑いの眼差しを彼に向け、名を呟いた。


「……カーリオ」


「い、嫌ですねぇ、エルちゃんまで……」


「俺とエルディアだけでも終わらせることが出来そうだ」


「クフィン、3人でサインしたのよ……3人でやるわ……」


エルディアは、歩き出した。


クフィンは苦々しく呟くとエルディアに続いた。


「ふんっ、しょうがないか……」


カーリオは歩き出した2人の背中に向って叫んでいた。


「そうそう、3人でしましょう!」


クフィンは、カーリオの方へ振り返った。


「おい、カーリオ行くぞ!」


「……全く、あなたは、せっかちですね……それじゃ、エルちゃんには振り向いてもらえませんよ?」


クフィンは一瞬、歩みを止めた。


そして、カーリオを鋭い目で睨み付けると、再び歩き出しエルディアに近づいて話しかけた。


「やっぱり、あいつは放っておこう、エルディア」


エルディアは、無言で歩いていた。


(これをさっさと終わらせて……私も西の大陸へ……)


彼女はユラトのことを思った。


力が湧いてきた。


(これが終わったら、そっちに行くから……待っててユラト……)


エルディアは、真っ直ぐ前を見つめながら歩いた。


カーリオは、自分の先を歩いている2人の背中を見て考えていた。


(クフィン、私にもちゃんとした目標があるんですよ……だから……ふふっ、まあ、早めに終わらせますかね……)


エルディア、クフィン、カーリオの3人の調査が、始まった。

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