第93話 「美人になる」≠「愛される」
自分の顔が大嫌いだった!
腫れぼったい一重まぶた、あぐらをかいた鼻、エラが張った輪郭……どんな欲目に見ても、私の顔は十人並以下だろう。
当然、男にモテたことはない。小学校からずっと容姿のことで男子にからかわれてきた。高校は女子高だったので気にしないで自由にやってこれたが、大学は共学なのでブスの私は出来るだけ目立たないようにしていた。
ある日、大学の教室で男性から声をかけられた。ゼミを休んだのでノートを見せて貰えないだろうかと頼まれる。真面目な私はいつも一番前の席でノートに取っている。
ブスが社会で認められるには学業に励んで、スキルを上げ専門職で身を立てるしかないのだ。
日頃、男性から話しかけられたことなかったので、少し戸惑ったけれど、私の取り柄は勉強だけなので
まさかブスの私にお礼を返してくれるなんて思ってもみなかった、最初はからかってるんだと思っていたら、なんと! 彼の方から交際を申し込まれた。
彼の名前は
彼と一緒に歩いていると「王子様とブス」という陰口が聴こえてくる。やっぱり龍一に私は不釣合いだと周りは思っているのだろうか。
美男美女のカップルなら理想的?
こんな私と歩いてて龍一は恥かしくないかしら? なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
だけど龍一は、私のことを「可愛い」っていってくれる。色が白いと褒めてくれる。歯並びがいいから「美奈子の笑顔は素敵だよ」と褒めちぎってくれる。
そんなはずないのに……その言葉を信じてもいいの? 私は龍一が好きになればなるほど、自分の容姿が気になりだした。
ある日、カラオケでデュエットしたりして盛り上がった。だんだん二人の愛が深まっていく――。私にとって、これが初めての恋、龍一とは永遠に離れたくないと思っていた。
ドリンクバーで飲み物を作ってるときだった、女店員が二人お喋りしながら歩いてくる。
「さっき、入店したカップルさ、彼氏の方はイケメンよねぇ~」
「それに比べて、連れてるのアレが彼女なの? スゲーブスじゃん」
「ホント、よくあんなブスと付き合ってるわ」
「絶対に浮気されるって、あんなブスじゃ男も
こちらに気づかず、二人は笑いながら通り過ぎていった。
その言葉を背中で聴いていた私の、コップを持つ手がブルブルと震えていた。これは怒りではない。今まで幾度となく「ブス」という言葉を投げつけられてきたので、もうその言葉には慣れっこになっている。
だが、浮気をされるという言葉だけが胸に突き刺さった。その内、龍一はブスの私に愛想尽かして、もっときれいな女の子に目移りするかもしれない。
たぶん私は捨てられる。漠然とした不安に胸が震えた。
そんな時だった、母方の祖父が亡くなって遺産が入った。そこから結婚資金として、母が私に五百万円という大金をくれた。そのお金で美容整形しようと決心する。もちろん母には内緒だ。龍一と母には短期留学するからと嘘をついて一ヶ月ほど入院した。
いよいよ退院の日には、執刀した医者も絶賛するほど、まるで別人のように美しく生まれ変わった!
美しくなった私を早く見て貰いたくて、以前、二人で行ったカラオケ店に龍一を呼んだ。やっと留学から帰ってきたと、彼は喜んで来てくれる。
先に行って驚かそうと部屋を暗くして待っていたら、龍一がドアを開けて入ってきた。
「美奈子どこ?」
「龍一、ここに居るよ」
「どうして電気を消してるんだ?」
「驚かせることがあるの」
私は部屋の電気を点けた。一瞬、龍一はキョトンとした顔で私の方を見た。
「あれ? 部屋間違えたのかな」
「ううん。私は美奈子よ。美容整形したの。きれいになったでしょう?」
私の顔を凝視していた彼の表情が
「どうして整形なんかしたんだ」
「だって、私はブスだし……龍一に相応しい美人になりたかったの」
「僕が恋人を容姿で選んだと思ったのかい?」
「ブスのままだと浮気されそうだし……」
「浮気? 僕のことを信用してなかったんだね」
「龍一のことが好きだから、もっと愛されたいから、だから美容整形したのよ」
「美奈子の真面目で飾らない、ありのままの姿が好きだった。整形で自分を偽った君のことはもう愛せない!」
「そ、そんな……」
「僕がいなくても……美人になった君なら、男性に注目されて愛されるだろう。さよなら……」
そういって部屋から出て行ったきり、龍一は帰ってこなかった。
こんなはずじゃなかった! 美人になったらもっと愛されると思っていたのに……捨てられてしまうなんて……。おまけに整形したことが母に知れて「そんな顔の人は、私が生んだ娘じゃない!」と怒って家から追い出されてしまった。
美容整形に成功したけれど、恋愛には失敗した。
容姿がコンプレックスだった私は、美人にさえなれば、もっと愛されると思っていたのに……
結局「美人になる」≠「愛される」の図式で終わった。
どうすればいいの? 龍一の愛を失くした私は、美容整形でつくられた美しい顔だけを頼りに、これから生きていくしかない。
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