第91話 ガングリオン
みなさん、ガングリオンって知ってますか?
まるで戦隊物に出てくるロボットのような、北欧神話に登場する勇者の名前みたいでしょう?
実は足や手の指、甲などにできる軟骨みたいなコブのことなんです。別に痛くも痒くもないし、ある日、気づいたらグリグリしたシコリができていたって感じ。
ガングリオンが発症する原因は、まだはっきりと解明されてなくて、おそらく手などを使い過ぎたり、ぶつけたりしたとき、ガングリオンができやすいらしい。
……ですが、私のガングリオンには医学的なことは関係ありません。
あれは一週間ほど前のことだった。
左の手首が急に痒くなって、ポリポリ掻いてたら赤く熱を持ち、しばらくするとジンジンと鈍い痛みがあって、患部を触ると少し腫れていた。最初は虫に刺されたのかと思って、虫さされの薬を塗っていた。
翌日になると痛みは収まったが、プクッと小さなシコリができていた。
日を追うごとに、手首のシコリがしだいに大きくなっていく、米粒から小豆粒くらいに、大豆ほどのシコリになったときは、さすがに医者に診て貰おうと思いました。
それが病院へ行くために外出したら、お腹が急に痛くなって、その日は止めました。翌日も病院にいく準備をしていたら、頭がガンガン痛くなってきて、薬飲んで休むことに――。
どういう訳か、病院へ行こうとしたら体調が急に悪くなるのです。
そうこうしている内に、手首のシコリはピンポン球の大きさになりました。これはもう放っとけない! どんなに体調悪くても絶対に行くぞと決めて、タクシーで病院に向かいました。
やっと皮膚科の受付に着いて、保険証を渡して、病状を説明しようとしたら……なんと! 声が出ないのです。
ビックリした私は病院から飛び出し、外で何度も深呼吸をして、「あぁ~~~」と発声しました。もう一度受付に戻って喋ろうとするが……口をパクパクさせるだけ。
何度も出たり入ったりして試しましたが、病院の中だとやっぱり声が出ません。ガングリオンが治療されるのを拒絶しているみたいだった。もしかしたら、私の脳はガングリオンに支配されているのかも? 想像すると背筋が寒くなった。
結局、診察もしないで、その日は家に帰りました。
自分の手首にできたガングリオンが、別の生き物のように思えて気味が悪い! 終いには身体を乗っ取られるのでは?
この不気味なコブを潰さなければ……私は自分で潰そうと決心した。安全ピンを消毒して、ガングリオンに向かって、針を突き刺そうとした瞬間、「止めて!」と誰かの声が聴こえた。
見ると手首のガングリオンに小さな口がある。そして叫んだ声は紛れもなく私自身の声だった。
「ワタシはあなたの体の一部なのよ。殺してもいいの?」
「だって……気持ち悪いよ」
「どうしてもワタシを追い出したいなら、ひとつだけ方法がある」
ガングリオンが私に意外なことを告げた。
あるテレビ局に『都市伝説認定委員会』いう番組がある。
視聴者から新しい都市伝説を聴いて、それが都市伝説に相応しいかどうか判定する番組だ。キャストは民族学者、UFO研究家、漫画家、お笑い芸人、女優、そして辛口コメンテーターのクリスティーン・佐渡というオカマタレントである。
私はその番組の予選に出場することになった。
ディレクターやカメラマン、番組進行役のクリスティーン・佐渡の前で、自分自身のガングリオンついて語り始める。
「なんか嘘っぽいわね。都市伝説って単なる作り話じゃダメなのよ」
いきなりクリスティーン・佐渡の辛口コメント。
「でも、本当です」
「じゃあ、あなたのガングリオンを見せてちょうだい」
袖を捲しあげて、テニスボールほどに膨らんだモノを見せる。
「あらー、ずいぶん大きいのね。早く医者に行った方がいいわよ」
「ガングリオンが治療させてくれない」
「……そう、じゃあお大事に。ハイ、次の人!」
クリスティーン・佐渡がそっぽを向く、誰も私の話を信じてくれなかった――。
突然、『私のガングリオン貰ってくださーい!』大声で叫んだ。すると、手首のガングリオンが風船のように膨らんでパンッと弾けた。
「驚いた! 風船の手品? もういいから行って」
はらうように手を振って、私の退場を促した。
私のガングリオンは跡形なく消えた。
そしてテレビをつけたら、『都市伝説認定委員会』の、クリスティーン・佐渡のおでこに、大きなガングリオンができていた。
泣きそうな顔で、『アタシのガングリオン貰ってよぉー!』と画面の中で叫んでいた。
次の日から街中にガングリオンの人が増えた。きっと『都市伝説認定委員会』を観ていた人たちだ。この調子でいくと、日本中の人がガングリオン持ちになることだろう。
都市伝説は『私のガングリオン貰ってよ!』と人に向かって叫ぶと、ガングリオンが新しい宿主にうつるだったのです。
数日後、『都市伝説認定委員会』から都市伝説認定証が私の元に届けられた。
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