第84話 戯曲・バレンタインデー殺人事件

夕焼けに赤く照らされた放課後の教室。

中央に机と椅子が置かれている。うつ伏せで学生服の男が死んでいる。机の上には丸いアーモンドチョコレートが散乱していた。

三人の女生徒たちが、死んだ男の周りを囲うように立っている。


女生徒たち:キャー! 

 悲鳴をあげる。その声に舞台の袖からインバネスコートに鹿撃ち帽を被った探偵が現れる。

探偵:みなさん、落ち着いてください!

女生徒A:ああ、なんて怖ろしいこと。

女生徒B:教室の中で彼が死んでいました。

女生徒C:今日はバレンタインデー、女の子がチョコを渡す日です。

探偵:みなさんは全員容疑者です。ここから動かないでください。

女生徒たち:いいえ! 私は犯人ではありません。

探偵:みなさん、被害者との関係を話してください。

女生徒A:私は死んでいる演劇部部長とは幼馴染で恋人でした。

女生徒B:まあ! 部長の恋人はこの私です。

女生徒C:おほほっ。もう貴女方は過去の人よ。今、部長とラブラブなのはこの私なの!

探偵:おやおや、みなさん見解が違いますね。

女生徒たち:私こそ演劇部部長の恋人よ!

 女生徒たちが大声で叫ぶ。


探偵:では、この教室にいた理由をお訊ねしましょう。

女生徒A:もちろん、彼に本命チョコを渡すためです。

女生徒B:あらっ! 彼は私の手作りチョコしか食べないわ。

女生徒C:彼はベルギー製の生チョコが好きなのよ!

 女生徒たちはそれぞれ手にチョコを持っている。

探偵:このアーモンドチョコは誰が渡したのですか?

女生徒たち:私ではありません。

 探偵は虫眼鏡で死体を調べている。

探偵:ふむふむ。アーモンド臭が毒物は青酸カリです。

女生徒たち:まあ、怖ろしい!

探偵:犯人はここにいます! 毒入りチョコを食べさせたのは誰ですか?

女生徒たち:違います! 私たちがきたときには、すでに彼は死んでいました。

探偵:犯人は正直に名乗り出なさい!

謎の声:チョコを食べさせたのは俺だ!

 いきなり男の声が響いた。

全員:誰だ!?


 舞台の袖から、ふっなしーの着ぐるみが現れる。

ふっなしー:みなさん、こんにちは。ふっなしー探偵助手です。

女生徒たち:ふっなしーは探偵さんの助手なのですか?

探偵:いいえ。こんな奴はしりません!

ふっなしー:ちょっと探偵さん! 

探偵:なんだ?

ふっなしー:アーモンドチョコ食べていた被害者のアーモンド臭で、青酸カリはナイっしょ?

探偵:疑問があるのか?

ふっなしー:バッカじゃねーの? アーモンドチョコ食べてたんだから、とーぜんアーモンド臭がスルっしょ! 

探偵:いや、そのう……。

 痛いところを突かれて、狼狽する探偵。

ふっなしー:やーい、ぽんこつ探偵!

探偵:うるさい!

ふっなしー:俺は犯人知ってる。

探偵:なんだとっ! それは誰だ!?

ふっなしー:演劇部部長にアーモンドチョコやったのは俺っス。

探偵:な、なにぃー、お前が犯人なのか!?

ふっなしー:こいつさあー、俺の3DSのセーブデーターを勝手に消しやがったんだぜぇ。半年かけてコツコツやってたロープレのデーターだぞ!

探偵:それが殺人の動機か?

ふっなしー:人として許せない悪行じゃんか!

探偵:しかし、そんなことで人の命を奪っていけない。

ふっなしー:そうそう、それとチョコ貰えないからひがんで……。

探偵:殺害方法は?

ふっなしー:アーモンドチョコを3~4粒口に放り込んだ頃合いを見計らって、おもっきり背中にパンチを喰らわしやった。

女生徒たち:Oh no!!

ふっなしー:アーモンドチョコを喉に詰まらせて死にました。アーメン!

探偵:ぎゃはははっ!

 探偵が腹を抱えて笑った。


「いい加減にしろ!!」


いきなり死んでいたはずの男がスクッと立ち上がった。

「こんな脚本はダメだ! ダメだ!」

「ええっー? ここまで書いたのに俺の脚本はですか?」

「そのふっなしーの格好はなんだ? それじゃあ、シリアスな内容じゃなくてお笑いだろう?」

「あたしたちもふっなしーの着ぐるみで舞台に出てきたときはマジ? って思ったわ。あははっ」

 女生徒たちも爆笑している。

「せっかく体育館借りて練習してるのに、こんなおふざけた内容じゃあ、顧問に見つかったら怒られるぞぉー」

 演劇部のメンバーは、秋の文化祭に向けて出し物の練習をしていた。

「あぁーあ、僕の芸術的センスは理解されないのか」

「バーカ! お笑いセンスなら十分だよ」


「今日はバレンタインデーだし、女子3人から男子にチョコのプレゼントだよ」


 そういうと、それぞれ手に持ったチョコを部長、探偵、ふっなしーに渡した。

「ありがとう!」

「義理でもやっぱりチョコは嬉しいなあー」

「あれれ? 俺のだけ手作りチョコだ!」

 ふっなしーがいうと、女生徒Bが顔を真っ赤にして、

「だって、それ本命チョコだもん……」

「ええー!?」

 その言葉に部員たちは口々に、

「なんだよ、お前ら付き合っていたのかよ」

「ふっなしー君、良かったね!」

「大胆な愛の告白! 俺は義理チョコでも有難く頂きまーす」

「羨ましいなあ、あたしも来年は本命チョコ渡したーい」

 ふっなしーと女生徒Bのカップル誕生である。

「さぁ、片付けが済んだら、みんなでマックにいこう! 女子はチョコのお礼に俺が奢るから」

「わーい。さすが部長、太っ腹だね!」

「えっ? 俺らは?」

「男子は自腹に決まってんだろう」

「部長のドケチ!!」 


 わいわい騒ぎながら、舞台の袖に消えていく演劇部員たち。


 Happy valentain to you♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る