第83話 【 寓話 】神さまの実験
今この瞬間にも世界中のどこかで人々は争い血を流している。どんなに神さまに祈っても戦いのない世界などどこにもないのだ。
戦争が命をなくす破壊行為だと分かっていながら、いつまで経っても人間は平和な世界を築けないままでいる。
敵対している二つの種族のことを、天上から神さまが見ていた。
この種族は100年以上も前からずっと紛争が絶えたことがなく、人種の違いや宗教の違いなどでお互いに憎み合ってきた。
子どもたちは生まれた時から、鉄砲の弾や爆弾、地雷といった危険なものに身を晒しながら育ってきたのです。戦争で犠牲になるのは、いつも弱い子どもたちなのだ。
もういい加減に平和になってほしいものだと神さまは思っています。
戦いをやめて平和を築くために、この二つの種族を使って実験しようと思い立った。
まず、二つの敵対する種族を神さまが創った仮想世界へと移送する。
そこで彼らの行動を観察しながら、平和への道を模索しようと神さまは考えました。
■ 実験 1
外界から遮断された世界で二つの種族は暮らし始めた。
最初の頃は、お互いに生活基盤を作るために必死で働いていたので戦いもなく平和だった。神さまは「よしよし」と頷いて、100年ほど時代を早送りしたら、なんと!? 二つの種族は戦争をしていた。
どうやら領土問題で、「ここはうちの土地だ!」「違う! そこは我々のものだ」お互いに一歩も譲らず血みどろの戦いをやめない。
■ 実験 2
神さまはもう一度リセットしてから、丁度半分づつ領土を分けて文句をいわないように設定し直した。
すると、二つの種族はお互いを気にしないで生活するようになった。戦いもなく平和な時間が続いたが……ある日、自分たちの方が優れた種族だと主張し始めた。容姿や言語などの違いで、相手を
神さまから見たら人間なんてみんな同じなのだが、人間同士ではお互い肌の色や言葉の違いを嫌悪するものらしい。
そして
■ 実験 3
またダメかと神さまはがっかりしたが、ならば二つの種族の容姿も言語も全く同じものに設定しよう。
二つの種族が今では一つの種族になった。何もかも同じなのでもう相手に対してケチをつけられない。
融合しあって彼らは平和に暮らしていたが、ある日「わたしは神だ!」と叫ぶ男が現れた。「天からご神託があった。この国は我が神のものだ」という。神の教えだという経典を作り、あちらこちらに寺院を建てて、我こそ教祖だと名乗って、人々に賽銭や貢物をねだるようになった。
すると「そいつは偽物の神だ!」という者が出てきた。「我こそが本物の神なのだ」新たに神を主張するものが現れ、Aの宗教とBの宗教との宗教戦争が
お互いの信じる神のために壮絶な戦いが始まった。あまりに残虐な聖戦に神さまは思わずリセットボタンを押してしまった。
神さまなんて……最初からひとつしかいないのに、人間が勝手にいろいろ作ってしまうから争いの原因になるのだ。
やれやれ……神さまが困った顔した。
■ 実験 4
領土・人種・宗教と全部同じにする。これならどうだと神さまの実験を開始した。
しかし人間には頭の良い者と悪い者、要領がいい奴と悪い奴、それぞれ固体差があるのだ。平等だった彼らの世界に、成功者と失敗した者との間で貧富の差がだんだん出来てきた。やがて金持ちは貴族となり、貧乏人は奴隷のように働かされていた。
とうとう貧しい者たちの怒りが爆発して革命が起こった。
革命軍に捕まった貴族たちは次々と断頭台のギロチンにかけられていく――ああ、もう嫌だ! 愚かな人間たちに神さまはうんざりだった。
■ 実験 5
最後に、神さまは人間から『心』を奪ってしまわれた。
するとどうでしょう、誰も争ったり血を流したりしない平和な世界になった。しかし、何もする気力がなくなって、ただただ寝てるばかり人間たちは……自然と消滅してしまいました――。
どんなことをしても戦いをやめさせることができない。そう悟った神さまは深い溜息を吐くと二つの種族を元いた世界に戻した。
すると彼らは再び戦いを始めた。「これは平和のため戦いだ!」「正義に勝利を!」と叫びながら、血みどろの戦いをやめようとしない人間たち――。
平和のために人を殺すなんて
いっそ人間なんか絶滅させてしまおうかと考えたが……結局、何もしないで放って置くことに決めた。
このまま戦い続けて人類が滅亡してしまうのか、戦いをやめて平和への道を歩むか、それは神さまにもわからない。
完全な平和とは、神さまにも手に負えない案件かもしれない。
―「心から世界の平和を願う」神さま より―
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