第36話 すーちゃんのおねえちゃん
『すーちゃん、すーちゃん』
「ママ、今、だれかの声がしたよ」
「えっ? そんな筈ない。この家には
田舎にある古家に住むことになった。
この家はパパのお祖母ちゃんが亡くなる日まで一人で暮らしていた。戦前に建てられた日本家屋で、地主だったという旧家の立派な建屋である。
こんな
パパは自由な時間がいっぱい、この家で小説でも書くと作家気取りで張り切っている。
イラストレーターのママはパソコンがあれば原稿も送れるので仕事に支障なし、田舎暮らしに興味深々。
五歳の涼香は幼稚園をお休みしているが、元々人見知りの激しい子なので、家族水入らずの毎日が楽しいようだ。
『すーちゃん、お帰り。ずっと待ってた……』
「あなたはだぁれ?」
『すーちゃんのおねえちゃん』
「スーは一人っ子だから、おねえちゃんはいないよ」
「なに独りごと言ってんの?」
不思議しそうに、ママが涼香の顔を覗き込んだ。
「ううん。そこにキモノを着た女の子がいるの」
涼香が座敷の隅を指差しましたが、
「嘘!? 誰もいないわ。気味悪いこと言わないで!」
怖がりなママの顔が引き
その夜、ママはパパに相談しました。
「スーが見えない誰かと話をして気味悪いわ」
「古い家だしお化けくらいは出るだろう」
パパは笑って相手にしません。
「キモノ着た女の子がいるって言うの」
「以前、独り暮らしのお祖母さんをうちの両親が引き取ろうとしたら『あたしゃ、一人じゃないよ。寂しくなんかない』と
「止めてよー! 怖くて夜中にトイレに行けなくなっちゃう」
ママは半ベソをかきました。
「パパ来て! 宝物があるの」
昼寝中のパパの元に涼香がやって来て、突然そんなことを言う。
「……宝物?」
「うん。おねえちゃんが教えてくれた」
「お姉ちゃん?」
「すーちゃんのおねえちゃん」
パパは涼香に連れて行かれるまま台所へ……
「おねえちゃんが、これスーにくれるって!」
なぜ人形の在り処を涼香が知ったのだろうか、パパは不思議で堪りません。
「お人形のことを教えてくれた、おねえちゃんってどんな子?」
「う~んと、スーよりも少し大きい、白いキモノ、オカッパ頭」
その説明を聞いて、パパは死んだお祖母さんの話を思い出した。
『あたしゃ、姉ちゃんがおったんよ。年子で仲良し姉妹やった。一緒に遊んでいたら、ぶらぶら人形の取り合いになって、姉ちゃんが隠しよった。姉妹喧嘩になって揉み合っていたら、足元にマムシがおった! 昔は鶏を放し飼いにしとるで、蛇が卵を狙って庭に入って来るんじゃ。そん時、先に気付いた姉ちゃんがあたしを突き飛ばして、自分が噛まれたんじゃ。医者を呼んだが血清も間に合わず、姉ちゃんはあっけなく死んでしもた……。人形の在り処も分からんまんま――』
夏休みにクワガタ獲りに来ていた小学生だったパパは、そんな話を聴いた記憶があった。当時はお祖母さんの話なんか興味なくて、クワガタに夢中だった。
すーちゃんのおねえちゃん……お祖母さんの名前は“ すずえ ”という。その子はお祖母さんの姉の霊かも知れないとパパは思った。涼香もスーちゃんだし、妹と勘違いしているのかな?
座敷童みたいで、悪い霊ではなさそうなので放って置こうと決めた。
見えない誰かとお喋りしながら涼香は一人遊びをしている。それを見る度、ママは気持ち悪がって、早く都会に帰ろうとパパをせっついた。
そんなある日、庭先から泣き声が聴こえた。見に行くと
古い灯籠だし、雨や地震で台座がずれて倒れたようだ。
「すーちゃんのおねえちゃんが、スーをグイッ引っ張ったから……」
あの子に涼香は助けられたようだ。この家と家族を守る自縛霊なのかも知れない。
パパは都会に戻る前に、お寺からお坊さんを呼んで、すーちゃんのおねえちゃんを手厚く供養しました。
引っ越しの車の中で『すーちゃんのおねえちゃんが“ ありがとう ”そして“ また会いましょう ”って、言ってたよ』そんなことを涼香が両親に話した。
十ヶ月後――ママは赤ちゃんを生みました。可愛い女の子を。
「スーがおねえちゃんになった!」
妹の誕生に涼香は大喜びです。
この赤ちゃんは、あの子の生まれ変わりかも知れない。大事に育てようとパパとママは思いました。
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