第33話 私の失恋履歴

 私の人生で今まで失恋したのは、たぶん五回くらいだったと思う。

 二十五年の人生でその数が多いのか少ないのかはよく分からないが、未だにボッチということは恋愛に置いて勝ち組ではないということだ。


 最初の失恋は幼稚園の年長組の時だった。

 慎之介しんのすけくんという『クレヨンしんちゃん』みたいな男の子に恋をしたのだ。しんちゃんとは大の仲良し、お弁当を食べる時も、お昼寝する時もいつも一緒だった。

 それがある事件のせいで、しんちゃんに嫌われてしまった。

 その事件というのは、しんちゃんのお誕生日会にお呼ばれした時だった。幼心おさなごころにもしんちゃんが好き好きで堪らない私はサプライズで喜ばせたいと思った。当時、子どもたちの間で『妖怪ランド』というアニメが大人気で、しんちゃんも怖い顔の妖怪のカードを集めて自慢していた。

 そこで考えた! 妖怪の格好でしんちゃんに受けようと、ママのお化粧とお祖母ちゃんの着物で妖怪ババアに変身した私は、しんちゃんの家に忍び込み、押し入れにこっそり隠れていた。

 部屋の電気を消してバースディケーキのローソクを吹き消すタイミングを見計らって「うお―――ッ」と叫びながら飛び出してきたら、びっくりしたしんちゃんは火のついたケーキに顔をうずめ、眉毛と髪の毛を焼いてやけどした。他の子どもたちも驚いてパニックになり泣き叫んだ。散々な誕生日会になり、怒ったしんちゃんのママに私と遊ぶのを禁止されてしまった。

 あの時の妖怪ババアのコスプレが受けて、小学校卒業までニックネーム『妖怪ババア』と、呼ばれ続けた私――。


 その後、失恋の痛みからすっかり恋愛恐怖症になってしまった。

 だが時間と共に痛みも忘れ去られていった、そして私は十年振りに恋をした。相手はクラスメイトの隼人はやとくん。ジャニーズ系のイケメンでスポーツ万能で勉強もできる。まさに少女漫画から抜け出たようなカッコイイ男の子だった。

 だから、当然ライバルが多い、私は隼人くんに振り向いて貰おうと必死だった。彼の趣味や行動を調べるために、学校や家の前でいつも見張っていたら、なぜかストーカーだと言われた。

 先生や親からも厳重注意をされたが、ただ好きだから隼人くんを見てただけなのにあんまりだわ。


 高校二年生の時にも失恋を経験した。半年ほど付き合っていた部活の先輩に、突然、新しい彼女ができたから、おまえとは別れるといわれフラれてしまった。

 新しい彼女は一年生の新入部員で私よりも美人とは思えない、てかブスだったし、それなのに彼氏を奪われた。

 メッチャ悔しいので、その子の上靴や体操服を隠してやった。さらに先輩の学生鞄に煙草を入れて先生にチクッて、停学処分にしてやった。

 ふん、私を甘くみると後でひどいわよ。


 次の恋は大学に入ってから、とりあえず大学生活をエンジョイしようと私はサークルに入った。

 通称、出会い系サークルと呼ばれる『英会話倶楽部』に席を置いたが、周りはカップルだらけで面白くない。そこでモテない同士で拓也たくやというブサメンとカップルになった。私としてははなはだ不本意だが、ボッチよりはマシなので付き合っていただけだった。

 それをあいつは勘違いして、私の方が惚れていると思い込んで、何かとエラソーな態度に出る。弁当を作ってこいとか、俺の部屋の掃除をしろとか、ブサメンのくせして何さっ! こういう男は一生女に相手にされないようにしてやる。

 ある時、二人で満員電車に乗ったら前に女子高生が立っていた。私は彼女のお尻や太腿をわざと触ってやった、振り向いた彼女は「痴漢」と叫んで、私の隣のブサメンを指差した。痴漢の濡れ衣を着せられて拓也は警察に連行されていった。

 事情聴取で、「彼が触ってるのを見ました」と泣きながら答えましたとも。あははっ。


 ついに最後の失恋についてお話しましょう。

 大学を卒業した私は商社に入社、そこで知り合ったのが上司の竹田課長でした。仕事ができて、女性にモテる渋い二枚目、竹田課長は憧れの人でした。

 私は有能な部下として彼の役に立とうと必死になった。その内、真面目な仕事振りを認められて彼の直属の部下になって、プライベートでも親密な関係になりました。――ですが、竹田課長には妻子がいます。二人は不倫関係なのです。

 ああ、悔しい! 奥さんが憎らしい! 竹田課長のことが好きになればなるほど、彼の家族に嫉妬してしまう私――。

 真夜中に無言電話をかけたり、下校中のお子さんに声をかけたりして、奥さんを怖がらせたからと激怒した竹田課長は、この私と別れると言い出したのです。

 別れるなんて、絶対に嫌よ! 別れ話に発狂して、私は竹田課長の胸にナイフを突き刺しました。血を流し苦しむ彼を見て、我にかえって救急車を呼びましたが、ついに竹田課長は帰らぬ人となりました。だから失恋したというよりも、殺人者に私がなってしまったのです。

 ――今は留置所でこれを書いています。


 以上、これが私の失恋履歴です。 

 ここまで読んでお分かりのように、私はとことん男運のない女でした。ご愁傷さま。 

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