第22話 君のファンクラブ

「君のファンクラブ作ったから!」

「はあ?」

 私、高瀬未菜たかせ みな高校二年生、容姿はなみ。放課後の教室で、いきなり幼馴染の同級生章太しょうた、そんなことを言われた。

「ファンクラブって? 私ってば普通の女子高生だよ。――で、メンバーは誰?」

「B組の伊藤誠いとう まことと俺」

「たった二人?」

 二年B組の伊藤君とは吹奏楽部で一緒だけれど、特に意識したことない相手だった。

「そう。俺たち“ ラブリーミーナ ”ってファンクラブ作ったんだ」

「もう! あたしをからかってるんでしょう!?」

「マジだよ。さっそくファンの集いをやろうぜ!」

「嫌だ!」

 何がファンクラブよ。絶対に私をネタに遊んでるんだ。怒って帰ろうとしたら、

「遊園地に行こう」

「えっ?」

「入園料は出すから」

「嫌」

「食事も奢るし」

「嫌……」

「お土産付きでも」

「――嫌でーす」

「生クリームたっぷりチョコバナナのクレープも付ける」

「よし!」

 大好物のクレープでえ無く陥落かんらくしちゃった。


 ファンの集いとやらで、私たち三人で遊園地に行くことになった。

 遊園地の正門前で待ち合わせ、一番先に待っていたのは伊藤誠君で私と章太はゲート近くで合流した。

「本日は高瀬未菜さんのファンクラブ“ ラブリーミーナ ”にお集まり下さいまして、ありがとうございまーす」

 たった三人のファンクラブなのに章太がうやうやしく挨拶をする。

「俺から自己紹介、会員番号1番、木戸章太きど しょうた、高二。ファン歴十年、趣味はミーナをからかうこと」

「やっぱり、からかってるのね!」

「違うよ。僕らは高瀬さんのファンなんだ。会員番号2番、伊藤誠いとう まこと、同じく高二、吹奏楽部。ファン歴はミーナさんに出会った時から……」

「ウッソー!? 私は普通の女子高生だし、そんなオーラ放ってません」

 章太なら冗談だと分かるけど、吹奏楽部で一番真面目な誠君まで私をからかってるとは思えないし……何なの? この三人の関係は――。


 遊園地の券売機では約束通りフリーパスの入園券を買ってくれた。――アイドルでもない私は申し訳ない気分になる。

 とは言っても、遊園地にきたからには楽しまなくっちゃ損だ! ジェットコースター、大観覧車、メリーゴーランドなど三人で盛り上がった。

 遊園地内のゲームセンターで遊んだ。クレーンゲームで誠君がスヌーピーのぬいぐるみを、章太がくまモンを取って私にプレゼントしてくれた。

 これって私への愛なの? ちょっと……マジ感動しちゃった。

「お昼だし腹減ったなあー」

「そろそろ食事にする? ミーナは何がいい?」

 章太の声をフォローするように、誠君が私に訊いてくる。

「章太と誠君はいいコンビ」

「うん。小学校の頃に通っていたスイミングスクールで仲良しだった。偶然だけど、高校で再会したんだ」

「へぇー、そうなの!」

 初耳だった。

「章ちゃんとはスイミングスクールでライバルだったんだ」

「そうそう、バタ足で勝負してたんだっけ」

 そんな昔の話をしながら二人は楽しそうに笑っている。うるわしき男の友情って訳か。

 

 園内にあるオープンカフェで食事をしながら三人でお喋りをする。

 不安定な女一人に男二人のグループだけど会話もはずんで楽しい。私をからかう章太に細かく気を使う誠君。章太のボケに鋭い突っ込みを入れる私。大雑把おおざっぱな章太は案外、誠君の言いなりだったりして……何だか、この三人息が合ってきてるから不思議だわ。

「ミーナの好きなクレープを買ってくるよ」

 カフェから離れたクレープ屋さんまで誠君が買いに行ってくれる。まるでアイドル扱いに感謝。

「章太と誠君って仲が良いよね」

「誠は本当にいい奴なんだ。だから、ミーナのこと好きだって知った時ショックだった。俺もずっとおまえが好きだったし……」

「喧嘩になったの?」

「いいや、俺も好きだと知って……あいつが諦めるっていうもんだから……俺も諦めるって言ったんだ」

 私のことを荷物みたいに譲り合わないでよ。

「散々悩んで決めたんだ。二人でミーナを好きでいようって!」

「三角関係のまま……」

「ああ、俺と誠の出した結論がこれさ!」

「だから、ファンクラブなの?」

「俺たち友情も恋も捨てたくなかった」

「ふ~ん。もし、私が二人以外を好きになったら?」

「そん時は誠と失恋カラオケでも行くさ」

「どっちか、一人とだけ付き合うって言ったら?」

「ミーナの判断だったら、潔く身を引く……」

「じゃあ、章太と誠君が愛し合っていたら?」

「悪いなあー、俺たちと別れてくれ!」

「うわ~ん。そんなの嫌だぁー」

 そんな話で爆笑していたら、クレープを買った誠くんが、こっちに歩いて来るのが見えた。

「おおーい」

 章太と二人で手を振ると、誠君も嬉しそうに手を振っている。

「あのな、俺たちの関係はだ」

「ん?」

「友情+愛+仲間」

「どの辺も等しく」

「ミーナのことは俺たちが守る!」

 章太に言葉に胸が熱くなった。――こんななら素敵かも!

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