第19話 美人の基準
駅前のバスターミナルでボーと立っていたら、誰かに肩を叩かれた。振り返ったら見知らぬ女性が、しかも女優かと思うほど垢ぬけた美人だった。
「
誰? こんな美人の知り合いはいない……私がキョトンとしていると、
「あたし
「ええー!?」
嘘? その女性は高校の同級生だった
「驚いた? 私、整形したのよ」
「美容整形?」
「そうよ。いろいろ触ったから別人みたいでしょう」
確かに眼、鼻、顎、そして胸まで大きくなったような――思わず、彼女の顔をしげしげと見てしまった。
「今まで男に相手にされなくて
梓は誇らしげな顔で笑った。こんな美人だったら絶対に男が放って置かないだろう。
その時、赤いフェラーリがすぐ側で停まって、車の窓から梓の名前を呼んだ。セレブなイケメンが運転している。梓は赤いフェラーリに乗り込んだ。
「結局、女って顔よね!」
それは私に向けられた助言のように感じた。高校を卒業して数年振りに再会した同級生は整形美人になっていた。
そして、私は
彼氏が新しい彼女を作って、私は捨てられてしまったのだ。最後の会話で酷いことを言われた。
「今、付き合ってる彼女はすんごい美人なんだぜ。一緒に歩いてると男たちが
一方的に喋って電話を切られた。
私がブスだから別れるって……酷い理由だと悔し涙が出た。《ブスだから別れる》女性にとって、これ以上残酷で無慈悲な言葉はない。《ブスだから別れる》その言葉が頭の中で何度もリフレインする。
あいつは最低な男だった。
お金にルーズだったし、女癖も悪かったし、本気で好きだった訳ではないが、あんな酷いことを言われたら見返してやりたいという気持ちにもなる。
私の容貌は切れ長の一重まぶたで、おちょぼ口、彫りの深い顔ではない。日本的な地味顔で、今どきのアイドル顔じゃない。――この顔じゃあ、一生モテない女のまんまかも知れない。
「私も美容整形しようかなあー」
整形美人になった梓と再会したことで、私は背中を押された気がした。
美容整形・
今日は予約を入れたので、どんな整形をするか、費用についての説明がある。貯金で足りない分はローンを組んででもやるつもりだ。――超美人になって見返してやるんだ!
「ヘーイ! ミス・アサコ」
病院に入ろうとした瞬間、大声で名前を呼ばれた。
振り返って見たら、大学時代の知り合い留学生のジョンが満面の笑みで立っていた。彼は身長が180センチ以上あり、カナダから日本文化を勉強に来ていた。
「あらっ、ジョン。お久しぶり」
「ボク、アサコさんと会えて嬉しい!」
まだ時間があるので、ジョンと立ち話をした。美容整形の病院へ入っていく姿を見られるのは、たとえ外国人であっても恥かしい。
「アサコさんは日本美人ね」
「えっ? 私は古臭い顔で今どきはモテないし……ブスです」
「ノー! 大和撫子チャーミング。日本人の黒い髪と小さな瞳の女性は可愛いね」
「そうかなぁー、日本人の男はテレビのアイドルみたいな派手な顔が好きだよ」
そういうとジョンは顔をしかめて、
「日本人には日本人の美しさがある。それは長いトキを経て日本の風土が育てました。自分の顔に誇りを持ってください」
「そういわれても……」
男に《ブスだから別れる》といわれた私には、この顔に誇りなんて持てない。
「ああ、ここは美容整形の病院ね」
看板を見てジョンが言ったので私は焦った。
「ボク、顔をつくり変える人は嫌いです。それって、みんなに嘘ついてること!」
その言葉にドキリとした。
「顔を変えても心は変われない。美人だから好きだという男は、年取って美人でなくなったらポイするよ」
「容姿で判断する男は浮気者?」
「イエス! だけど、ボク、ずっとアサコさんがきれいだと思ってた」
これって外国人男性のリップサービスなのかしら?
「オー! アサコさん信じてないね。だったらボクと付き合ってよ。絶対に後悔させない!」
かなり強引だけれど、ジョンがいい奴だってことは大学時代から分かっていた。彼は親日家で日本の風習や文化もよく勉強している。
「ボク、アサコさんと再会して運命を感じた」
そういうジョンに男としての包容力を感じちゃった。
私の整形を阻止するためにジョンと再会したのなら、それは新たな運命の始まりかも知れない。やっぱり顔を偽って生きるのは辛い。だったらブスでもいいや!
――てか、世界中にたったひとりでも私をキレイだって思ってくれる男性が居たらいいよ。
取り合えず、病院の予約はキャンセルしようかな。
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