第54話 病気⑥
桃花からメールに苦しいという内容が増えてきた。
それでもメールできるということはまだ大丈夫であろうという願望とも言える思いを持った。
外出するのがつらいから、もう育児施設もほとんど行けなくなったという内容もあった。
離婚した理由を聞かれた日を最後に、もう一日何通もメールのやりとりをすることはなくなり、また一日一通あれば良い方という状況になった。
『私も子供いっぱい産みたかったな。三人は産んで毎日文句言いながらも、にぎやかに生活していくことに憧れていたの。ユウくんは良い相手を見つけたらまた再婚するんでしょ。家族っていいよね。夫くんも私にもしものことがあったら、今度は悪い女に捕まらないでと言ってあるんだ』
『桃花さんは悪い女ではないでしょ。いっぱい傷ついたことがあったりするだろうけどね。最近は具合はどう? そうそう息子がゲーム機を欲しがっているみたいで、根負けして買ってあげたら、ずっとゲームばかりしているって。僕に似たと元奥さんに怒られちゃったよ』
祐一は桃花からのメールにすぐ返信した。
仕事中でできないとき以外は極力すぐに返信している。何もできないがせめてもの誠意みたいなものであった。
桃花からメールが届いたのは二日後であった。
『夫くんも私のこと宝物って言ってくれたな。俺にはもったいない女性だって。精神的におかしくなりそうなくらい後悔したこともあったけど、一番の後悔は、夫くんと普通に過ごせないことかな。病気が治れば死んだっていいと思っているんだ。あっ、矛盾しているか。私に子供がいてもきっと勉強しないで遊んでばかりいる子になっていたかもね』
祐一の人生経験では軽々に感想を言ってはいけないと思った。
桃花からの内容にあまり触れることなく、ありきたりのことをメールに書いて送信をした。
それから三日後に桃花からメールが来た。
期間が空いてきているためか、あまり会話のキャッチボールというよりも、日記のように感想を伝え合うようなことが多くなってきた。
『そういえば、私って毎日寝てばかりであまり動けないし、夫くんは仕事でいないことが多いから、単純な気持ちでメル友を探してみたけど、想像以上に出会い目的の男が多いことにびっくりしたよ。最初は普通に話すだけでいいとなるんだけど、何かにつけて会いたがったりとか、会う気もないのに探すなと怒られたりとか。夫くんに出会えたことも、ユウくんに出会えたことも奇跡的だよね。私って出会いに恵まれているのかなと思ったよ』
『僕も桃花さんに出会えた奇跡に感謝だね。ただ僕の場合は結婚失敗しているから、出会いに恵まれたと堂々と言えないかもだけど』
少し茶化しながらメールを返した。
この返事がくるのはまた三日後かもしれないと覚悟したが、翌日には返信があった。あまりこの冗談には触れることなく日記っぽい内容であったが、嫌な気はまったくしない。
『仕事場でもね、スタッフの人はとても良い人ばかりだったんだよ。とても優しくしてくれるし、座ればジュースが運ばれてくるし。ただある意味不器用な人が多かった。一般の会社に勤めていたら、きっと万年平社員とか、逆に優秀すぎて上司と衝突してクビになったりとか。そんな素敵な人達にも出会えたし、意外とこんな人生を過ごしていた方がけっこう楽しく過ごすことができるのかもと思っちゃった。出世競争で仲間ですら蹴落とさなくちゃいけないとか、ぎすぎすしたものがあまりなくてね』
このメールを最後に三日たっても一週間がたってもメールが来なくなった。
嫌な予感を無理やり弾き飛ばすように、あえて楽観的に桃花のことを考えてみた。
メールが途絶えて二週間がたった。
体調が良いときにメールがくるので、来ない状況はどういうことかそろそろ覚悟を決めて察しないといけないだろう。
祐一から出すことはなく、桃花から来るのを待つ状況となった。
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