第48話 脅迫⑪

夕方と呼ぶには少し早い昼過ぎに、祐一の携帯電話が振動した。

麻衣子からのメールを知らせるものだ。

時間的にみて成功したと思いはしたが文章を読むのは緊張した。文字を体に取り込むように一行ずつ丁寧に読み進めた。


最後まで読み終えた祐一は達成感が全身を包み込んだ。

作戦成功したことで今までのしかかっていたストレスが全て消えた気がする。そして今まで支配していたそこの部分には、共通の目的に対して取り組んだことへの戦友のような、深い絆で埋まっていくことが感じ取れた。


祐一は短く「解決できて良かったね」とメールを送った。

しかしその日はそれ以上メールは来なかった。麻衣子も朝からずっと緊張したことであろう。

今日はお互いに休息が必要である。


その日は特に何かするというわけでもなく、息子の俊太と一緒にテレビを見たりして過ごした。

「ねーねー。この五人の中ではレッドが一番強い?」

正義のヒーロー五人組が悪い奴を倒す番組を見ている俊太が聞いてきた。

「やはりリーダーだから一番強いのかな。でも強いというのは戦うことだけじゃないんだよ。立ち向かう強さや、体をはってでも仲間を守ろうという意志の強さとかもあるんだ」

「じゃあ、僕も強くなって悪い人からお父さんとお母さんを守ってあげるね」

息子の純粋な思いが嬉しい。すくすく育ってくれていることに感謝だ。

ただ綺麗な心を見ると、その心を失ってしまった自分がとても悪いもののように思えた。

いつか正義の味方に倒されてしまうのではないか。

「そうだな。それじゃあお父さんがピンチになったときは俊太に守ってもらおうかな」

「うん」

自分の脚の間に座ってテレビを見ていなが力強く返事をした息子を、祐一は背後から力強く抱きしめた。


翌朝、携帯の電源を入れると麻衣子からメールが来ていた。

布団から出ることなくメールを開いた。布団の中のぬくぬくした空気が心地よい。


『ユウさんにはとても感謝しています。感謝してもしきれないくらいです。ただ、メールというかネットというものの怖さを改めて思い知らされました。恐怖症なのか分かりませんが、メールを打つのに息苦しさを感じてしまいます。突然で本当に申し訳ないのですが、メールをするのを止めようと思います。我がままを言ってすいません。今まで色々とお話できて楽しかったです。本当にありがとうございました』


色々な想いが頭の中に浮かんでいくが、それを諦めや虚脱といったものが消していく。

ただ一つ麻衣子は間違っていると言いたい。

それはネットが怖いのではなくて人間が怖いのだ。

日常生活ではなかなか表に出にくい部分が、ネットでは少しだけ本音が出やすいというだけで。

しかしそのことを告げる相手は、たった今いなくなった。

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