第41話 脅迫④
もしかしたらレイジは何もしてこないかもしれない。
彼の言うように普通の友達と同じ感覚で住所を知っているだけで。
麻衣子から状況を聞かされてから数日がたち、大きな進展がなくそんなことを思い始めてみた。
しかしそんな淡い期待は祐一が昼食をとっていた時に届いたメールで見事に打ち砕かれた。
『彼が息子に話しかけたみたいです。今日学校から息子が帰ってきたら、お母さんは僕に内緒にしていることがあるのと聞いてきました。どうやら彼が接触してそんなことを言ったらしくて。彼に問い合わせたら素直に認めたんですけど、何か喋ることは犯罪ではないでしょと。脅迫にならないように計算された行動ですよね。私に察しさせようと。諦めるしかないのでしょうか』
名案が思い付かない祐一はとりあえず返信を打たずに昼食を片付けた。好物の生姜焼き定食であったが、味はほとんど感じられなくなっていた。
昼食後人気の少ない公園のベンチで祐一は寝転がり、携帯電話を持った手を真っ直ぐに伸ばした。
体勢を変えることで何か良い方法が浮かばないかと考えたが、あまり意味のない行動となった。
どう考えても不利だ。
レイジも既婚者であるならばお互い弱みを握れる形にもなろうが、独身であるためそれもできない。
従ったところで要求はエスカレートして結局は限界がくる。
そのことが頭では分かっていたとしても、麻衣子は子供を守るためには要求をのまざるを得ないと考えてしまいそうな気がする。
ふと、結局不倫をしてしまった以前のメル友の雪子のことを思いだした。
また自分は報われないことをしているんだろうなと考えた。
仮に名案を思い付いて麻衣子を助けることができたとしても何も得にならない。何度も懲りずに火中の栗を拾おうとしている自分にあきれつつも、どこかで誇らしさも感じられた。
見返りを求めない善意がかっこいいんだと自分で自分を鼓舞してみた。
『これはタチが悪いですね。本当の悪人であれば不法なことをしてきそうなのですが。たまたま弱みを握れて、一般人が豹変したとみるべきのような。それで何て返信されたのですか?』
『そういうことは止めてほしいとお願いしたのですが、たまたま友達の子供を見かけたから、日常会話をすることは悪いことではないという返事がきました。しかも息子の友達も調べたみたいで、そのことも書かれていました。そして日にちを指定して会いましょうと。もし断ったら次は息子の友達にばらすと言っているのでしょう』
麻衣子からのメールを読んだ祐一は大きく息を吐いた。
レイジは法に触れていないかもしれないが悪いことをしている。大小の差はあれども、人間にはこういう一面があるであろう。
今回のケースでここまでの行動をすることは稀だが、ちょっと視点を変えれば自分も同じことをする可能性はある。
もし不正をしている企業の証拠を握ってしまって、それをネタに何万円も口止め料をもらえることができたら、その誘惑に乗ってしまうのではないかと。
自分に置き換えて思案してみるが、どうしてもレイジの件は何かが引っかかって認めたくない。
その何かはよく分からないが、人間関係においてやってはいけないことに当てはまる気がした。
ふと自分に置き換えてというところから、自分であったら何をされたら手を引くか考えてみた。
バックに暴力団がいたら手を引くであろう。
あとは麻衣子が刺し違える覚悟でくるとか。
いろいろ考えてみたものの、あまり現実的なものは思い浮かばなかった。ただ本気でナイフを持って刺し違えるではなくても、同じような方法で相打ちを狙うくらいはできるかもしれないと思えた。
『麻衣子さんはどうしようと考えていますか? ここまでする男ですから会うだけで終わるとは思えませんが』
『私はこの際離婚でもいいですけど、子供がこのことで学校でいじめられたりするのだけは避けなくてはいけません。そのためだったら相手が飽きるまで要求に答え続けるしかないのかも』
良策はない。
ただ駄目で元々程度なら少しは勝負をかけることもできそうだ。
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