第39話 脅迫②
麻衣子がレイジと会う日が訪れた。
待ち合わせ場所は上野駅の改札口を出たところに決めた。そこにしたのは公園内の美術館で開催されている絵画を見に行くことにした為だ。
麻衣子は美術品を見るのは好きだが、レイジも好きかは定かではない。最初だから女性側が行きたいところに合わせてくれたのかもしれない。
少し早めについた麻衣子は改札口をうつむき加減で出た。
まだレイジに見つけてほしくないと思っている。
心の準備もできないままに、いきなり声をかけられるのは避けたいということや、改札口を出てくる一部始終を見られているのが何となく恥ずかしく感じたからだ。
改札口を抜けると人混みが途絶えるところまで黙々と歩き、そこで後ろを振り返って全体を見回した。
お互いの服装やバッグなどはメールで確認していた。
麻衣子は水色のワンピースに茶色のバッグを肩から下げている。レイジは上下とも黒ということなので分かりやすいと思われる。
大まかに見回した麻衣子は全身黒ずくめ男性がいないことを確認すると、少しほっとした。
まだ到着していないのだろう。
バッグから携帯電話を取り出すと、レイジからメールが着ているか確認した。
画面にはメール受信の表示はない。
携帯電話を手に持ったまま、次の電車の到着時刻までは安心していられると思いながら立っていた。
上空から照りつける日差しは初夏のものを思わせる。青空という大きなキャンバスに大きな筆で殴り書きしたような輪郭の雲がところどころに点在している。
麻衣子は手を顔の上に持って行き、ひさしを作るようなしぐさを取ると、帽子を持ってこなかったことを少し後悔した。
そのとき手の中に握りしめていた携帯電話が受信を知らせるため振動した。レイジからであった。
『ごめんなさい。仕事でトラブルが発生してどうしても行けなくなってしまいました。今度埋め合わせしますので、今日はキャンセルさせて下さい。楽しみにしていたのですが、本当に申し訳なく思います。また夜にメールします』
中止のメールに張りつめていた神経の糸が切れた気がした。がっかりした部分はもちろんあるが、これで良かったと思える部分もある。
ただ、そうは思っても急に予定がなくなり手持ち無沙汰のようになってしまった。
一人で美術館に行こうとも思ったが、精神的に疲れがあったので寄り道することなく帰ることにした。
『分かりました。また次の機会を楽しみにしています。お仕事頑張って下さい』
短めにレイジに変身を返すと、十分前に出てきた改札口を今度は逆方向に通過していった。
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