第37話 不倫⑩

一週間がたった。

メールのやりとりは途絶えたが、ヒナが男性の家に遊びに行ったことを考えてしまう。

祐一にできることは、自分の予想が外れて、相手の男性が良い人で、ヒナの彼氏となることを願うだけであった。


さらに一週間がたった頃、ヒナからメールが着た。


『元気ですか? 最近メールありませんね』


メールが来ると言うことはやはりヒナに彼氏ができなかったということであろうか。少し元気がない感じの文章から一瞬にして状況を察してみた。


『ヒナさんに彼氏ができたから、メールするのを我慢してみたんだけど。あれから彼の家に行って付き合うことになったの?』


『彼から連絡がこないから、よく分からない』


以前メル友だった雪子といい今回の件といい、予想通りの展開に、自分の考えが当たった自負よりも悲しい気持ちの方が大きくなった。


『彼の家には行ったんでしょ?』


『行きましたよ』


『彼は手を出してきた?』


『出してきました』


『そうか・・・ まあ、その人とは付き合う運命ではなかったのかもね。そんな男と付き合わなくて正解だったのかな』


『そうですね。次を探します』


ヒナはそこまで落ち込んでいないようで安心する部分もあったが、逆に落ち込まないようになっているヒナの過去の経験が祐一を感傷的にさせた。

もう少し自分を大切にした方がいいとか、恋愛はもっと良いものだとか、いろいろ言いたいことが頭の中を駆け巡ったが、自分も残念な過去の一部になるであろうと思えた為言葉にすることはできなかった。


励ます会という名目でヒナと飲むことにしたが、祐一の中ではヒナの体目当てであったことは否めない。

そんな人間では駄目だと自制しようとしても、一度味わってしまった禁断の果実の前にはまったく効果をなさなかった。

逆に他の男に抱かれた体という嫉妬心も手伝って、いつも以上に激しく求めてしまった。


結局別れるきっかけを失ってしまい、ヒナとの関係はまた続いた。

「今度遊園地に行きたいな」

ヒナにそう誘われたとき祐一は素直に頷けなかった。

ある日の駅からホテル街へ向かう細道での会話である。民家と小さな商店が細道の両側にある人通りの少ない場所だ。

以前は映画館とか歓楽街で遊ぶことも多かったが、関係を持ってからというもの、あまり人目につかないようにするため話題のスポットにはいかないようになっていた。


ヒナのその一言でやはり不倫はよくないことだと再認識させられた。

自分の欲望のために彼女を楽しませてあげられていない。自分の周りをどんどん不幸にさせてしまっている。

「新しい彼氏候補は見つかった?」

祐一の自分勝手な都合から聞いてみた。ちゃんと別れを言えず、恋人ができたら別れられるという都合のよい発想だ。

一緒に隣を歩いていたヒナから無言の視線が届いた。

遊園地にも行けないつまらない男であるとばれたと思った。しかし改めて前を見つめて視線を宙に漂わせたヒナはいつもと同じ雰囲気で答えた。

「うーん。そろそろデートに誘ってきそうな人はいるけどね」

「そうなんだ。今度はすぐにエッチしちゃだめだよ」

「どうして?」

「だって、やりたい目的だけで近づいてきているだけかもしれないじゃん」

「それは、あなたじゃない」

ヒナは冗談っぽく笑いながら言ったが多分本心であろう。


直感的に今日はホテルに行かずに、このまま別れた方がいいと思えた。隣を歩くヒナとの空間がいつも以上に広く感じる。

そんなことを考えていた祐一が口を開く前にヒナから話しかけられた。

「ねえ、今日は最後まで付けずにしない?」

「えっ。・・・だめだよ」

「だよね」

従順な性格の女性がずっと従順なわけではないことを感じさせた。

いつの間にか祐一の立場は劣勢にまわっている。一抹の不安を感じつつもホテルに到着して、いつも通り体を重ね合わせた。

その日はやっているというよりも、やられているという印象を持った。

精神的なプレッシャーで体が反応しないのではとも思ったが、ヒナの妖艶なテクニックの前にその心配は必要なかった。


ホテルから出て駅へと向かう。

いつもと変わらずヒナをホームまで送って別れの挨拶をした。

しかしその後ヒナからメールが来ることはなかった。

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