第30話 不倫③
メル友に限らず、今まで何度かネットで知り合った人と出会った結果、あることが分かった。
それは二つある。
一つ目は、容姿は想像してしまっているものとだいぶ異なる。
もう一つは雰囲気や性格は文字だけのやりとりで想像したものとほとんど当たっているということだ。
顔が可愛い、普通、もててこなかったのおおざっぱな範囲なら、3回メールのやりとりをすれば当てることができるであろう。
ヒナの予想はおとなしめな雰囲気で、服装もラフな感じで派手さはない。容姿は普通。口数も少なく、聞き役タイプだ。
そんなことを考えながら、祐一は新宿駅を出たところの広場でヒナのことを待っていた。
今回も思うのだが、写真交換をすればいいのにという思いもある。
メル友に対して貪欲に出会いを求めていない分、あまりそこの部分は積極的にしよとは思えなかった。
もちろんこちらが要求したら、相手も写真を求めてくるであろうから、自分の容姿を見られて嫌われるのが怖いということもあるが。
リコとの失敗をふまえて作戦を練ろうとも思ったが、付け焼刃ではいつかボロが出る。
リコとはたまたま相性が悪かっただけで、今回も素のままで行動するのが一番だろうという結論をした。
祐一の携帯電話にメールが届いた。ヒナからである。
『到着したよ。どこにいますか?』
祐一は辺りを見回してみたが、面識がない相手なので分かるわけがない。
すばやく返信することにした。
『ベンチの一番端に座っているよ。黒い服を着ているけど』
送信してから一分もたたないうちに、近づいてくる女性を視線に捉えた。
「ユウさんですか?」
祐一のことをハンドルネームで呼んできたので、この女性がヒナであることを確信した。
「はい。はじめまして」
挨拶をしながら顔だけは正面を向いてヒナの外見を観察していた。先ほど予想した通りの雰囲気であった。
茶色の大き目なポシェットを斜め掛けして、薄いベージュのジーンズ。肩の下くらいまである長い黒髪を飾りのついたゴムで一つにまとめている。
挨拶の後はヒナは黙ったままだ。
とりあえず祐一から話しかける必要がありそうだ。
「来てくれて良かった。遠目から見て帰られないかとドキドキしちゃった」
なんだか前回のリコの時と同じようなことを言っていると自覚した。でもヒナの反応は前回のものとは違っていた。
「そんなことないです。かっこいいなと思いましたよ。こちらこそ私で大丈夫ですか?」
「もちろん。えーと。では早速行きますか?」
「はい」
ヒナは短く返事をした。
映画館へ向かう道すがらの会話でも祐一が話しかけて、ヒナが答える感じのメールの関係のままだ。
「緊張してる? 僕なんか大したことないから緊張する必要ないよ」
少し茶化しも入れてたずねてみた。
「いえ。普段からこんな感じですよ」
「そっか」
祐一は短く返事をした。
今までの彼氏もこれでは苦労もあっただろうなと思えた。でも聞いたことは素直に答えてくれたりと良いところもあった。
男女間の少し過激な質問でも平然と教えてくれるあたりは、たくさん恋をしてきたことを感じさせた。
せっかくなのでメールではあまり深くきけなかった元彼のこととかも、突っこんで聞いてみた。
「そういえば、ヒナさんってモテモテだったんだよね。今は彼氏はいないの?」
「うん。半年くらい前に別れたっきり」
「どうして別れちゃったの?」
「彼が突然別れたいって。理由はよく分からないけど」
最初だからここら辺までにしておこうと思い、祐一は短く返事すると会話を切り替えた。
決して弾んだ会話というわけではないが、それなりに楽しむことをしながら映画館に到着した。
チケットを二枚購入した後、ジュースを二つ買って席についた。
開演までまだ時間がある。
隣に座ったヒナの方を見てみると、無言のままこちらを見つめて首を少しだけ横に傾けた。
可愛いところがあると感じた。
初めて会ったばかりだから何かするわけにもいかないが、これが彼女だったら、そっと顔に触れたくなると思った。
上演前の予告が数分間にわたって流れ出した。
祐一は少しヒナの方に顔を近づけながら、予告映画の感想について話しかけた。
ヒナも顔を近づけながら答えてくれる。
ヒナは特別可愛いというわけではない。それでもその無防備な対応にドキッとさせられる。
それとも気に入られたから、こんな無防備に近づいてくれるのだろうか。
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