第29話 不倫②
そんなやりとり日々ではあったが、他のメル友とは一日一通とかの中で、ヒナだけは一日中メールをしているので一番仲良く交流が持てている。
他の女性に感じられるような、急に疎遠になるかもしれないという思いも感じられない。
祐一が仕事であまりメールができないときなどは、ヒナの方から続けてメールが着たりもする。
『お仕事中? 私は今、お昼寝から起きたところ』
カエデ以来の心の繋がりを感じた。ただ恋人という雰囲気よりは、甘えん坊な妹という感覚に近い。
そんなやりとりではあったが、日々のメールの積み重ねでヒナのことを徐々に知ることができた。
祐一よりも2歳年下。
働いているファミレスは契約社員としてで、それまでに何度か転職を行っている。
住まいは埼玉県春日部市で両親と共に暮らし、そこには一年前に飼うことになったチワワが一匹おり、一緒にお散歩に出かけるのが楽しみということだ。
ずっと地元で親元を離れたことがないので少し世間知らずな印象を受ける。あまり社交的でもなさそうで、友達と遊んだという話はほとんど聞かない。
好きな歌手のコンサートにも一人で出かけることが多い。
おとなしめの印象ではあるが付き合ってきた彼氏が多いことには驚いた。中学二年生のときに告白されたのを皮切りに、10人以上と付き合ってきた。
大学生の頃にいたっては毎年のように違う彼氏ができていたそうだ。
ただし決して遊び人ということではない。告白されて付き合うこととなるが、半年くらいたつと振られてしまうという。
メールの返信内容から少し納得できるものを感じた。
指摘するのは難しいが、上手く誘導して普通の会話が楽しめるようになれればいいのにと思う。
そうするためにはどうすればいいのか思案のしどころではあるが。
あるとき映画の話題になった。
『ヒナさんは今まで見てきた映画で何が好きだった? 僕は最近のものよりも子供の頃に見たCGとかがあまり使われていない作品が好きだったな。バック・トゥ・ザ・フューチャーとかテレビで放送されるたびに見ていたから、もう五回は見ているような。って、CG使われている作品だったね』
『私もテレビで放送されているときに見たよ。面白いよね。今度同じようなタイムトラベルの映画が公開されるね』
『空間トラベラーだよね。CMの予告を見たときは面白そうに感じたな。見に行く予定ある?』
『予定はまだないよ。面白そうだよね』
ヒナと何年も友達をやっているわけではないが、祐一の直感に訴えかけるものがあった。
ヒナの受け身な性格は、自分から誘うことはしないのだろうと。元彼との話になったときも、全員男性の方から声をかけていたということだ。
『公開されたら一緒に見に行ってみる?』
ヒナと会ってみたいと思ったわけではなかったが、会話の流れから誘ってみた。
ただ誘ってみると良い返答を期待してドキドキもするし、急に遊びに行きたい気持ちが強くなってくる。
『いいよ。私も楽しみにしていたんだ。いつ行こうか?』
突然の展開にとまどう気持ちもある。嬉しさもある。
ただ妻に対しての後ろめたい気持ちが一定の割合を占めていた。
普通に遊ぶことが悪いことではないのだが、男女二人きりで遊ぶことはやはり控えるべきことであろう。
それでも遊ぶことを選んでしまうのはどうしてなのか。
単純に遊びにいきたいという思いがあるので、本当は複数参加のオフ会のようになれば一番だ。
しかしメル友ではそれができない。
お互い友達を呼ぶということもできるであろうが、友達に説明するのは違和感と抵抗があった。
たまたま二人だけのオフ会と正当化はできるものの、それは本心ではない。
そもそも遊ぶことをまったく望まないのであれば、最初からメル友を見つけようと思わないであろうから。
毒を食らわば皿までということかと、祐一は客観的分析をした。そんな自分の人生を思い返すと、自然と乾いた笑みで唇の端があがった。
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