第26話 出会い⑥
リコとの待ち合わせ当日がきた。
お互いカラオケが好きということで、軽い食事のあとにカラオケボックスに行くことがきまった。
メル友と会うのは初めてのことだ。
リコはどんな容姿なのだろう。若い頃はもてたと言っていたから綺麗な女性であることは想像つく。
逆に自分はどう映るのであろうか。
遠目からかっこ悪い男と思われて、会ってもくれないことを少しは覚悟しておく必要もあるであろう。
待ち合わせをした渋谷のハチ公前には色々な人々がいる。
この中で会ったこともない人と待ち合わせしている人がいるであろうか。自分が特別なことをするように思えて、ちょっとした優越感を持った。
リコからのメールに書いてあった彼女の服装を確認する。
オレンジ色のワンピースに白いカーディガンのようなものを羽織っているとある。オレンジ色の服を着た女性を見るたびにドキッとさせられる。
この女性であろうか。
いや年齢が若すぎる。
この女性でなくて良かったというような、いつも以上に集中して待っている。
ふと以前メル友だった、不倫をしてしまった雪子のことを思いだした。
初めて会うリコとそんな関係になることはないと分かっていても、万が一を期待してしまう。
理性が勝てるか少し心配してみたが、杞憂で終わることは間違いない。
本当にお互いが結婚するには何重にも壁がある。
リコと一緒にその壁を超えていけるのか。とりあえず会ってから考えることにしようと思う。
あまりきょろきょろ見ているのも変なので、駅の改札口方面を眺めながらリコを探していた。
向こうはすぐに自分のことを気づくであろうか。
少し離れた位置で見つけたら、どのタイミングで声をかけたらいいのか。色々なパターンを考えていた祐一の背後から不意に声がかけられた。
「お待たせしました」
驚きと共に振り向くと、そこにはメールの通りオレンジ色のワンピース姿の女性がいた。
その上に羽織っている長袖のカーディガンを見て、暑くないのかなとどうでもいいことを考えてしまう。
祐一の目の前に立っている女性はリコである。
「はじめまして」
とりあえず挨拶をした。
一年近くメールで仲良くしていたので、はじめましてでいいのか少し疑問に感じたが。
リコも同様に挨拶をする。祐一は自己紹介をした方がいいのかなど考えている間に、リコが話を切り出した。
「では喫茶店にでも入りますか。どこか行きたいところはありますか?」
「この先にコーヒーショップがあったけど、そこで大丈夫ですか?」
「ええ」
リコの返事の声質からでも育ちの良さが分かる。
そういって歩き出した祐一は横をしっかり向き、リコのことを見つめた。
長い髪をアップにしてヘアクリップで止めている。長身でスレンダー。お化粧のセンスも整っていて良い。モデルとはいかにまでも、日常生活の中では美人の方に入るであろう。
「本当に綺麗な方だったのですね」
お世辞を言うわけではないが、多少会話を盛り上げようという意識も働いて、リコのことを褒めた。
「そんなことないわよ。会ってみてがっかりしなかった?」
「がっかりなんてとんでもない。僕の方こそこんな感じの容姿ですが大丈夫だったですか?」
「ええ」
リコは短く言った。
メールの中ではお互いの性生活とか少しいやらしい話で盛り上がったりもしたが、直接会うとそういう話題はできない雰囲気がある。
お互いのことはある程度知っているし、何を話そうと考えた。
「娘さんは今は幼稚園に行っているの?」
「そうね。だからお迎えに行かないといけないから夕方までには帰らないといけないの。ごめんね」
「いえ、夕方までで大丈夫です。それにあまり長時間いて、ボロを出したら大変ですし」
祐一はメールの感じのままに冗談まじりに行ってみた。
リコは軽く笑ってくれたが、そこからメールのようには盛り上がらない気がした。やはり初対面ということでお互い緊張がある。
そこから大手チェーン店のコーヒーショップに入った。
アイスコーヒーを二つ頼む。本当は軽食もとるつもりであったが、あまりがつがつ食べる気になれなかった。
二階席があったので窓際のカウンター部分に並んで座った。
座ることでやっと落ち着いて話せそうな雰囲気になった。
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