第24話 出会い④
ここ数年、リコは夫と喧嘩をすることがない。
夫婦の間で喧嘩をするということは、相手に分かってほしいとか、相手の悪い所を直してほしいという思いがある。
リコにはそういった感情を持てる程のパワーが残っていない。
仮に夫に対して不満を言ったとしても、「俺が稼いでいるんだ。文句があるなら出ていけ」となるだけだ。
しかもリコの夫は仕事という理由で数日帰ってこないこともある。
薄々仕事だけではないことは察することができた。証拠はまったくないので推測になるが、嫉妬という感情がそんなに湧かない分どっちでもよくなっている。
それでもストレスがたまらないわけではない。
今後のことを考えたりと心労は増える。そのため娘が長期休みに入ると実家に帰ることが多くなっていた。今回のもそれだ。
『明日から一週間程、娘と一緒に実家に行くね。本当は少しのんびりしたいところだけど、実家の旅館のお手伝いさせられそう。専業主婦として怠惰な生活をしていた身分としては耐えられるか心配。だからあまりメールできなくなるかもだけど、一週間後にまた連絡します』
リコの実家は箱根の老舗の旅館だ。
具体的な旅館名は教えてもらっていないが、雑誌で紹介されることもある、箱根では名の知れた旅館である。
夏休みに入り家族連れの観光客で連日満室となっているはずだ。きっと実家に帰ったとしても両親と会話する時間すらほとんどない状況である。
将来はおかみになるのと聞いたことがある。
あんな大変なのは無理と一蹴された。
『もやもやしたときは気分転換も大切だよね。一週間リコさんとお話できなくて寂しいですけど我慢しますね。私のこと忘れないで下さいよ』
祐一は返信をしたあと、これは賭けだと思った。
二人の今までの仲が構築されていれば空白期間があっても元通りに戻れる。もしそれがなかったらメールする習慣が途絶えることでこのまま終わってしまう。
リコが実家に戻ってから三日たったとき、何気なく気になって箱根のことをネットで調べていた。
ちょうどお祭りが行われている。娘さんと一緒にお祭りに行けているのかなとリコの様子を想像してみる。
背も高く綺麗な容姿ということから、きっと浴衣姿が似合うであろう。
もしかしたらお祭りを楽しんでいる最中のリコからメールが着ているかもしれないと祐一は携帯電話を確認してみたが、受信があったことを知らせる表示は出ていなかった。
リコなら大丈夫。
二人の間にできた絆は一週間くらい空いたところで壊れるものではないことは分かっている。それでも一抹の不安を感じてしまうのが人間なのだなと、心理というものを感じてみた。
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