第19話 相談⑤
昼過ぎに着信を知らせるメロディが流れた。
受験結果が来たようなドキドキが祐一を包み込んだ。気を落ち着かせるようにゆっくりとメールを開く。
相手はもちろん雪子からであった。
『お伺いしたいことがあります。大丈夫ですか?』
昨日何が行われたのか内容からでは分からない。どちらともとれる文章だ。
祐一はすぐに返信した。
『もちろん大丈夫です。昨日はどうでしたか?』
いろいろ聞きたいことがあったが、あえて簡潔に聞いてみた。
次の雪子からのメールが来るまでに四十分かかった。それだけの時間を使って文章を打っていたのであろう。
『昨日は、最初居酒屋で普通に飲んでいました。遅くなってきたのでそろそろ帰ろうと言ったら、やはり彼はホテルに行きたいと言いました。もちろん断りましたが、抱きしめるだけと彼が言ったのと、私も酔っていたので流されてしまい、そのままホテルに行きました。終電の時間になって、駅で別れた後に彼からメールがありましたが、私は罪悪感でいっぱいだったから返事をしていません。いつもならそれでも夜中とか朝にメールが来るのですが、今になっても連絡がきません。私は遊ばれただけですか? あんなに好きと言っていたのは、やはりやることが目的だったのでしょうか? なんであんなことしたんだろうと後悔の気持ちで辛いです』
祐一は手のひらが汗ばむのを感じた。
動揺しているのが分かる。
雪子を責めたい気持ちや嫉妬のような感情。自分の無力さ。色々な気持ちが複雑に、そして急速に体の中をかけめぐっていた。
きっと恋人が浮気したと聞かされたときは、こんな気持ちになるのだろうと思う。
深く息を吐きだし、まずは落ち着くことを心がける。
自分には関係ないことだと思い、あくまでも第三者の目線で答えてあげなくてはと、少しでも冷静を装うと頑張った。
『そうでしたか・・・ 少し聞いてみたいのですが、もし雪子さんが結婚していなかったら、彼とやったことは後悔しましたか? それで後悔がないのでしたら、彼と結ばれたいと思った気持ちがあったのだから、そこは良かったと思えるのかな。駅でくれたメールには何て書いてあったのでしょう? 彼が本当に雪子さんのことを好きだったのでしたら、これからも付き合っていきたいと思うはず。彼が遊び目的だとしたら、こんな都合のよい状態を簡単には手放したりしないので、それこそ連絡がくるでしょう。きっと彼も雪子さんと同じように悩んでいるんだと思います』
自業自得とはいえ傷ついている雪子を追い込まないように注意した。
本当は雪子からのメールを何度も読み返して熟考したかったが、心が痛むので何度も見ることができなかった。
『結婚していなかったとしても、少しは後悔はあったと思う。彼からのメールは、今日はすごく素敵な時間を過ごせた。また一緒に過ごそうみたいなことです。彼は何を悩んでいると思いますか?』
『きっと、とても幸せな時が過ごせたのに雪子さんから返事がこなかったことで嫌われてしまったとか考えるんじゃないかな。多分数日したら、そんな趣旨のこと言ってくると思います』
『好きなら朝だってメールするはず。本当に数日したら連絡くるのですか? 前なら返事がなくても何通も送ってきたのに、今回はなぜメールが来ないのでしょう』
『彼にとっても大事な一日だから、今までとは同じようにはならないんじゃないかな。でも性格を考えると、きっと数日で探りを入れるような感じのメールがくるはずです』
雪子とのやりとりは0時を過ぎるまで続いた。
後悔や辛さ、夫と心の距離ができてしまったことへの状況などたくさん話した。
後悔していると言いつつもサトルのことを求めている。
完全な不倫となった以上、二人の着地点はどこになるのであろうか。
どちらかの家族にばれるまでこの関係は続くのか。それともサトルがしばらくすれば飽きるのか。
雪子もサトルも罪悪感は持ってしまっているだろうが、両者とも嬉しい気持ちも同等以上にあるはずだ。
祐一だけが心をすり減らして貧乏くじを引いている気がする。
メル友ってあまり良いものではないのかもしれない。
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