第17話 相談③
サトルからまた会いたいと雪子にメールが来た。
雪子は迷っていた。
会いたい気持ちはあるが、次にあったら体の関係になるのを拒むことができる自信がいまいち持てなかったからだ。
もちろん不倫したくはないので、頭では断固として断る気でいる。でも心が求めていた。
このような内容にどう返事をしていいのか祐一は迷った。
単純に行かない方がいいだけでは説得できない。とりあえず雪子の気持ちを聞くためにメールを送ってみた。
『今度会ったら、きっと彼は体を求めてくると思うよ。それでも会いたいの?』
『きっと彼は求めてくるかもしれないけど、私は不倫は絶対嫌です。普通に会って食事するだけのつもりです』
確かに今回はそれで終わるかもしれない。ただその次はどうだろうか。さらにその次は。
結局先延ばしにしているだけで、好きな気持ちを持ってしまった男女が会って、お互い結婚しているからお食事だけでずっと終わるとは思えない。
『もし肉体関係を持ってしまったら、もっと二人は強い恋愛感情で繋がると思う? もしかしたら、彼自身も気付いていないだけで、どこか目的地にたどりついてしまった気になって疎遠になるかもしれないよ』
このメール送信から、雪子の返信はすぐには来なかった。
考えているのか、それとも用事をこなしているだけなのかは祐一は分からない。
息子が小学校から帰ってきて、おやつを食べたいと騒ぎ出しているのであろうか。
この空き時間を利用して祐一も自分の時間にあてた。
まだ窓から差し込んでくる日差しは強く、夕暮れを感じさせるものではない。
息子の俊太はリビングでテレビを見ている。妻は友人とショッピングに出かけており、あと数時間は帰ってこない。
本来は祐一の仕事が休みのときは一緒に過ごしたいが、どちらかが子供を見ていないといけないので、息抜きも兼ねて外出することを推奨していた。
祐一は特にすることがないので、寝室に置いてある読みかけの本を読むことにした。
メールの着信音で祐一は起こされた。どうやら本を読みながら、少しうとうとしていたらしい。
メールは雪子からのものだった。
『彼は益々私のことを好きになると言ってくるけど、その心配もあるから、よけいに不倫はしたくない。ユウさんはどうでしたか? 好きな女性と肉体関係を持ったら冷めましたか?』
祐一は過去の女性関係を思い出してみた。
『好きな女性とだったら、もっと好きになったよ。二人の間に絆が生まれたような感じでとても愛おしい存在に変わった感じ。結果論になるけど、あまり好きではない相手だったら、何か違うと感じるというか、やるまでが目的だったんだと気付かされたことはあったかな』
『彼も同じことを言っていました。雪子と心も体も結ばれて一つになって、もっと好きになりたいみたいなこと。信じられますか?』
この内容の文章をサトルが送ってきたときは、まだ雪子と会っていないときらしい。電話では何度も話したことがあるそうだが、会ったこともない人に対してそこまで言えてしまう男というものに違和感を覚えた。
ただ、祐一もカエデとのことを考えるとありえない話ではない。
逆にメールだけで会っていないからこそ、高まった好きな気持ちが抑えられなくてということも考えられる。
これだけで判断はできないが、今までのことを総合して考えると、やはりサトルは視野の狭い男という結論になる。
『信じるとかの問題ではなく、どうなるか彼自身も分からないのが恋愛というか、人間というものかな。ただ、彼は先見の明があるとは思えないから、本気で、もっと好きになると思っているはずだよ』
雪子の質問の大半は、同じ男として彼がどう思っているか、どういう行動をとるかであった。
欲望的なものは共通のものがあるから推測できるが、思いとか行動とか本人以外が分かるわけがない。
ただ、恋愛という蜜の香りに浸ってしまった思考では、間違いであったとしても何かしらの助言が欲しいという状態になり、冷静な判断ができずにいた。
祐一もその点をあえて指摘することはなかった。一人で悶々と考えて暴走するよりかは、ましだと思えたからだ。
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