第15話 相談①
次のメル友は比較的すぐにできた。
募集コメントに『悩みを聞いてくれる方いらっしゃいませんか』と書かれていたので、それに対して真摯にメールしてみたからだ。
相手のハンドルネームは雪子といい、年齢は28歳。若くして結婚したので小学生の息子がいた。
雪子が悩んでいたのは、不倫しそうになる気持ちを抑えられないというものと相手の男の気持ちが知りたいというものであった。
その相手とは半年くらい前にチャットで知り合った。
相手の男はサトルといい、年齢も祐一と近い。お互い結婚して子供がいることから、夫婦間や子育ての悩みを話したりしていた。
雪子とサトルを含めて何人かでチャットをしているうちに、二人だけで利用できるところで話すようになり、そこから携帯電話での直接メールをするようになった。
メル友サイトとチャットという違いはあれ、自分と似たような状況だと祐一は感じた。
ただ自分と違うのは、雪子とサトルは今まで二回会ったことがあり、二回目に遊んだときには半ば強引ではあるがキスをしたことであった。
これで悩むくらいだから雪子もサトルのことが好きなのであろう。
浮気は悪いことであるからキスする気はなかったし、これから肉体関係にまでは絶対発展しないと言ってはいるが。
キスした後、サトルからはいつも通りメールが着たが、罪悪感もあって返信を雪子はしなかった。
ここで悩んでいるのは、そうしたらサトルから再度のメールが来なかったことだ。
雪子が返信していない以上、サトルもメールをしないのが普通だと思われるのだが、会う前は喧嘩して返事をしなくても何通もメールが着たそうだ。
会ってみて嫌われたのではないかとか、サトルはどうして返事をくれないと思うかと祐一に聞いてきた。
『キスをしてやっと恋人っぽくなったのに、そこで返事がこなくなって、彼もショックだったのではないかな。でも雪子さんは不倫する気はないんでしょ? だったらこのままの方がいいんじゃない?』
祐一のこのメールに対して雪子はこれ以上発展することはないと言ってきた。
祐一はそこまで恋愛経験が豊富というわけでもなく、ましては恋愛カウンセラーでもない。
それでもこのままいけば不倫はいけないという雪子の倫理観などは、サトルのことが好きという前では簡単に瓦解することが容易に想像できた。
サトルのことが好きなのと問うと、好きな気持ちはあるけど付き合いたいとか再婚したいとかは思わない。かっこいいわけでもないし、職場とかで出会っても付き合わなかったという答えが返ってくる。
本心ではあると思うが、雪子が自分のことをちゃんと分かっているとは思えない。
夫のことは好きなのかという問いには、家族のために働いてくれるし、とても大切な存在。離婚しようとは思わないということである。
それは男性として好きではなくて、子供の父親として好きという感じなのであろう。夫婦仲も悪くはないが何か満たされない気持ちが雪子の中にあって、それが他の男性とのバーチャルな恋愛へと発展していったと思われた。
サトルが好きというよりも、雛鳥が初めて見たものを親と認識するような感じで、たまたま手を出してみたチャットという、現実とは別の世界で初めて仲良くなった男性がサトルであっただけのように思えた。
そしてサトルは人徳があるというわけではなく、都合の良い女性がいればいいなと思う一般的な欲望のある男性だったようだ。
いろいろなやりとりからそれが分かったところで祐一にはどうすることもできない。これがクラスメイトで祐一も雪子が好きだったら、そんな男は止めて俺と付き合ってくれと言えたかもしれないが、会ったこともなく、結婚している祐一がそんな気になるのは少しおかしい。
祐一はあまり自分の感情を出さず、単純な男性心理を推測して雪子に伝えるとこにしていた。
『男側の目的はキスだけではなく、最期までやることだからここで終わることはしないと思うよ。体だけが目的ではなく、雪子さんのことが好きな気持ちがあるから、今はたまたまメールが来ないだろうけど、こちらからメールしてみたらすぐに返信がくるはず。メールしなくても2~3日したら来るんじゃない』
『私からはメールする気はないです。以前は携帯のメールを着信拒否にしたら、会社のパソコンからとか、ネットカフェとか、色々なところからメールが来て、どうしても話したいと来たのに』
雪子の恋愛は十代の学生のようだ。一応尋ねてみたら、やはり旦那が初めての彼氏で、そのまま結婚にいたったそうだ。
不倫はしたくないけど、ずっと自分のことを好いてくれる男性がほしい。雪子はそんなふうに思っているのだろう。
でも雪子自身が気づかないふりをしている本心は、夫とはこのまま結婚生活を続けて、好きになったサトルとは不倫もしたく、ずっと私のことを好きでいてほしいではないだろうか。
その感情がある以上、いくら祐一がこのままメールしない方がいいと言ったところで、なんだかんだ理由をつけては連絡をとってしまう。
いっそのこと夫にばれないように不倫をするにはどうしたらいいかと問われる方がよほど簡単だと思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます