第13話 自殺⑥

そのくらいの頃から返信の頻度が毎日から2~3日に一通、そこから4~5日、一週間と延びていった。

飽きられたわけではないことは文面からも分かる。単純に友達と遊んだり、お出かけしたりと忙しくなったからだった。


ふとメールをやり始めた直後の、残業で忙しくても毎日返信をくれていたときを懐かしく思ってみた。


『今日は疲れたから、また明日メールするね』


これだけだったが、そんな状況にも関わらずメールをしてくれることが嬉しくないわけはない。

もちろん気遣いをさせてしまい申し訳ない気持ちがあったので、気を使わなくていいよと返信した。


祐一は返信がなくても前のペースのままメールを送ってみた。

特に心配しているような内容ではなく、日常あったことなどを書いていった。

意地とかそういうのではない。こちらは特に変わっていないので、今まで通りにするのがいいのかなと思えたからだ。

もちろんナナが少しでも嫌がるような感じが見受けられたら、すぐにメールするのを止めるつもりでいた。

しかしそういう素振りは感じられず、どちらかというと、いつもありがとうとお礼を言われていた。

遠まわしな断り文句と考えることもできるが、腹の探り合いみたいなことは好きではないため文面をそのまま受け取ることにしていた。


予想していた日が訪れるまでそれほど時間はかからなかった。

ナナからメールが届いた。


『がっくんと付き合うことになったよ。上手くいくか分からないけど、とりあえず進んでみないことにはそれすらも分からないもんね。あっ、ユウさんへのメールは内緒でやらなくちゃいけなくなったりしてね』


娘を嫁がせる父親の心境とはこういうものであろうか。自分には息子しかいないから一生この問題で心を痛めることはないと思っていたが。

通勤電車の中で見たその内容は、車窓から見える景色を別のものに変えたような気がした。

どこかすがすがしさもある。

途中で荒川の上を電車は通過していく。川の先にある青空はどこまでも澄み渡っており、道路が地平線まで続いているんだと、なぜか初めて感じることができた。

普段いかに景色をちゃんと見ていなかったのかが分かる。

祐一は一呼吸の後に返信をした。


『おめでとう。恋人ができた記念でパーティーをしなくちゃね。といってもそう簡単に遊びにいけないから、いつか機会があったときだね。う~ん、もう彼氏がいるから、ナナさんのお話をあまり聞けなくなるのは寂しいな。ということで、メールしちゃダメと言われるまでは、何か話したいことがあったらメールするね。彼氏さん優先で大丈夫だけど、僕のことも今後とも大切にして下さい』


もしナナと毎日のようにメールで話していたら、この文章は打たなかったであろう。一週間に一度の返信になってきたし、彼氏もできた。

途中で嫌われることなく一定の結果までたどりつけたことに、使命感のようなものを果たせた安心もあった。

これ以上自分が関わるのはナナのためにはならないのかもと漠然とした思いもある。きっと惰性でしかない。我慢しなくては。


そういうことを全てふまえて、祐一はこれを最後に頻繁にメールするのは止めようと思った。

普通の男友達と同じように何かあればメールするであろうが。その何かは半年に一度や、一年に一度のことになるはずだ。

そんな気持ちを文章に表したのは『何か話したいことあったら』という部分だ。

しかしそれだけで祐一の気持ちを他人に感付いてもらうのは不可能である。

ナナはもちろんそのことには気づかずメールをしてくれた。

少し悪い気がした。


『お祝いの言葉ありがとう。パーティー楽しみにしておくね。もちろん奢りだよね。メールしちゃダメなんてとんでもない。これからもよろしくね』


これに対しての返信はしなかった。

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