第12話 自殺⑤

毎日忙しく過ごしているナナから、めずらしく早朝にメールがきた。


『おはよう。昨日の飲み会で会った人にいきなり告白されちゃった。とりあえず一緒に遊びに行く約束したけどね。どうしようかな』


『一緒に遊びに行ってもいいと思えたということは、悪くはないということだから、このまま付き合うなんてことあるかもね』


『う~ん。よく分からないけど、とりあえず行ってはみるよ』


どこかでナナに彼氏ができなければいいのにという思いがある。

楽しいことがあればいいねと応援しておきながら、やはり誰かに取られてしまうようで寂しい。

そんなことを考える自分がちょっと醜いと感じたが、それが人間かなとその考えに変な執着はしない。

自分の気持ちと向き合えることは重要で、それでも応援する「それでも」という気持ちが大切なのであろうから。


その後遊びにいく約束をした日を向かえた。そしてその日の夜にメールがあった。


『遊びに行ってきたよ。付き合うとかじゃないけど、また遊びにいくのはOKかな。なんかおっとりしている人で、無理して話そうとしなくてもいいところが楽だった。ユウさんに似てる? な~んてね。がっくんっていうんだけど、休みの日はボランティアで町の掃除をしてまわってるんだって。変わってるよね』


ナナのメールの感じから、一緒に遊びに行ったがっくんという男性に対して好意を持てたことは想像できた。

ただ本人が恋愛経験や人付き合いの経験が少ないため、自分でそのことがまだ理解できていないのだろうと思える。


『よかったね。これで好きになれば付き合えばいいし、そうならなければ他の人を探せばいいだけだから、あまり意識することなく遊びにいけばいいのかもね』


祐一の返信の後、何度かやりとりがあってその日は終わった。


最初にナナと出会った頃には彼氏どころか友達もあまりいないような感じであったが、今では年相応の女性らしい行動をとっている。

良かったと思えた反面、祐一は自分は何をしているのか、何をしたいのかと考えてみた。


そもそも話し相手だけなら女性である必要はないのではないか。

いや、男同士でこまめに話したりなんて気持ち悪い感じだし、そもそも女性の方が好きなのは当然だ。


では、やりたいだけの不純な目的なのか。

確かに不純な気持ちはゼロではないが、別になくてもいい。


だったら心の繋がりを求めているのか。カエデの時のように恋人と繋がりたいだけなのか。

メル友に心の繋がりは期待できないであろう。毎回の送信がオーディションのようなものだ。ちょっと失敗したらそれで返信がこなくて終わり。逆に変なプレッシャーすら感じる。

勝手に繋がっていると思い込むことはできるが、本気で思い込めるほど視野が狭いわけではない。


人助け? ナナのように愚痴を聞いてあげられる存在になって、アドバイスしてあげたことによって、その人を導いてあげたいのでは。

そんな崇高な意志や思い上がりなどはない。同じ目線で、こうしてみるのはどうかなとアドバイスすることは悪くないが、あくまでも決断するのは相手の意思である。自分は無力なのだから。


もしかして傷の舐めあいだろうか。

・・・なんとなくこれが一番しっくりきそうだ。


人と関われば情報量は増すし、勉強にもなる。

でもそれは求めていることのほんの上澄みの部分で、結局はぬるま湯状態な馴れ合いをしたいだけなのかもしれない。

チャット仲間とか複数であれば、自分以外が盛り上がって疎外されることもあるが、二人だけであればこの点は問題ない。

一応の結論に行きついた。

祐一が女性であれば、また違う答えになるのであろうが。


『がっくんと今度はお寺を見てきたよ。地元だから今更見る必要もないんだけど、けっこう楽しかった。高級なお肉が食べられたから、楽しく思っただけだったりしてね』


土曜日にナナからメールが着た。会社が休みだから一緒に遊びに行ったのであろう。順調そうだ。

一週間後にまたメールが着た。今週も遊びに出かけたようだ。


『また告白されたけど・・・ う~ん、彼氏とは何か違うのかな。良い人なんだけどね』


『無理して付き合うこともないんだし、色々な出会いの中から一番好きな人と付き合っていくのがいいんじゃない』


やはり祐一は自分の中で喜んでしまう。

それは自分がナナを狙っているからではない。ナナに彼氏ができたら自分と話す必要がなくなるからだ。

半年以上もメールが続いているのだから、普通の友達と言ってもいい信頼関係はある。

それでも彼氏ができたら、愚痴を言う相手も、楽しいことを与えてくれるのも彼の役目になってしまうのだ。

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