第11話 自殺④
祐一の妻の美咲は良妻賢母という言葉が当てはまるだろう。
他にも女性を褒める四文字熟語は全て当てはまると言っていい。
才色兼備、容姿端麗など。
祐一は美咲に対しての大きな不満は何もない。
ただそこには燃えるような恋というものがなく、まるで幼稚園の頃から幼馴染みであったような、男女という意識がいまいち持てないだけであった。
美咲の方はどうなのであろうか。祐一を男性として見ているのであろうか。
確かめる術はあるが、実行する勇気は祐一にはない。
祐一は美咲と結婚するにあたって条件の良さを見てしまった部分がある。
優しくて、家庭的で、綺麗で、こんな女性を逃すのはもったいないことだと。
ただ完璧に近い分、一緒にバカなことがやれないという思いがあった。
俊太と一緒にかくれんぼで遊ぶとなったときも、童心に帰って本気で見つからないようにしようとはしゃぐ祐一に対して、子供に華を持たせようと美咲は分かりやすいところに隠れる。
そこが優しさや気遣いができるという優れた部分ではあるのだが。
ナナが鍋パーティーをした翌日、祐一はメールを送ってみた。
『昨日の鍋パーティーどうだった? 僕もたまにはみんなで鍋とかやってみたいな。昔に闇鍋もやってみたことあるんだよ。誰かが餃子の皮だけを入れたりとか。微妙な鍋になっちゃったけど』
内容の後半部分はどうでもいいことだった。ただ様子を聞くだけでは味気ないから足したに過ぎない。
数時間後にナナから返信がきた。
『鍋楽しかったよ。またやりたいな。しんちゃんなんか酔っぱらって寝ちゃって、他の先輩から顔にいたずら書きされていたよ』
しんちゃんというのはナナと同期入社の男性だ。
特別仲良しというわけではないが、同期ということで一緒の仕事をすることが多い。たまにしんちゃんの話題も出てきていた。
祐一はこのメールで自分は一定の役割を終えたと思った。
最初から役割などはなかったであろうが、ナナが抱えていた荷物が、ほぼなくなってきていることが感じ取れたことによる思いである。
自分のおかげ?
なんておこがましすぎるか。祐一は頭の中での自分への問いかけに、即座に回答を出して笑ってみた。
ある時ナナが改めて感謝のメールを送ってきた。
『ユウさんのおかげで、なんだか前とは違ってきたような気がする。色々お話聞いてくれてありがとう。これからも友達としていっぱいお話聞いてね』
感謝されるようなすごいことをしたわけではないが、お礼を言われて悪い気はしない。
素直になれて嬉しい気持ちと、これからもよろしくというメッセージを添えて返信した。
今日のナナは時間があるのであろう。またすぐにメールがきた。
『ところで、どうして前までは何もかもが嫌だと思えたんだろう。学校行くのも、仕事するのも、友達と仲良くするのも全部が嫌だった』
『もしかしたら、前の残業が嫌だと言っていたのと似たような感じで、勉強しなくちゃいけない。遊ばなくちゃいけない。楽しまなくちゃいけないとか、そういうのが良くなかったのかもね』
『そっか。何々しなくちゃというのが良くないのかもね。変に周りに気を使って、自分が疲れてばかりいたかも。これからは何々しようと思うようにするね』
少しだけ視野が広がったように思えたことが嬉しかった。
そこからのナナは変な気遣いがなく、普通に会社で起きたことや、遊びに行ったことを書くようになった。
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