第9話 自殺②
『ユウさんは何で生きてるの? 私はよく分からない。ただ死ぬのが痛いから・・・』
自殺志願者は日本だけでも年間数万人という規模でいる。
病気とかでどうしようもない理由もある。ただ半数以上は狭い世界の中だけしか知らなくて、その中で絶望を味わってしまったような気がした。
ナナも後者のように思えた。
確かに生きているのは辛いことや気をつかうことの連続である。でもたまにある良い事はその苦労が報われるほどの凄く嬉しいことであるはずだ。その嬉しいことをたまたま今は知らないだけで。
『ナナさんは今まで楽しいことは何かあった? 恋人が出来たときとか楽しくなかった? 僕も生きたいと願っているわけではないけど。とりあえず生きている間は楽しいことが起きたらいいなと思ってるよ』
祐一のメールに対しての返信はすぐにきた。
『楽しいことは何もない。彼氏がいたときは楽しいこともあったけど、別に会わなくてもいいくらいに思えたし』
やはりナナは楽しいことを知らないだけのように思えた。
子供の頃からただ親の言うことをきく良い子としてだけ生きてきて、それなりのイベントで楽しむことはあっても、どこか自分を守りながらだったのではと思う。
もし自分が心理学者だったら、もっと彼女のことを的確に表現できたのであろう。
でもそんな難しいことは必要がない。漠然とではあるが彼女と同じような気持ちを持っているので、ナナのことを少しは分かってあげられるのだから。
複数の患者を診ている先生よりもナナだけを見ることができる自分は、正しいことは言えなくても先生よりか細目に話を聞いてあげることはできる。
もちろん祐一はそれがある種の傲慢であることは分かっていた。
でも自分で良いと思ったことを、自分で否定してしまったら何もできない。自分は間違えることもあるということは認識しつつも、今の行動や思いを信じていこうと思った。
ふと、どうしてナナに対してそこまで親身になっているのか祐一は考えた。
一番の理由はせっかくメル友になったのだから、友達としてできることはしてあげたい気持ちからだ。
ではこれで仲良くなって、もしかしたら惚れられることがあったら浮気したいという思いはないのだろうか。
いや、実際しないまでも気持ちとしてはあるだろう。
まったく男の下心はすごいものだと改めて感心してみた。
祐一はナナのメールに対して素直に思ったことを書いてみた。
『ということは、また新しい彼氏ができたら楽しいことがあるということでしょ。好きな人がいるのっていいよね。告白するまでのドキドキや、上手くいったときの嬉しさとか』
別にナナを説得する気はない。
本人が決断をくだすことがあれば見守ってあげることくらいしか自分にはできないであろう。何が正しくて、何が悪いかなんてよく分からないのだから。
ただ出来る限りのことは知った上で判断ができたらいいと思えた。
『確かに楽しかったけど、よく分からない。友達と遊んでいても楽しいと思えない。ただ遊ばないのはつまらないし』
ナナのストレートな感情は祐一にも共感できる。
とりあえず返信がある間はナナは通常に生活していることがわかる。こうしてやりとりすることで少しは気がまぎれることを願った。
カエデとは恋人同士になりたかったが、ナナに対しては友達になりたかった。こうしてお互いの気持ちをずっと話し合っていけるような関係が続けばと。
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